22話 噂の冒険者パーティとして騒がれる
「クエストの受注手続きをお願いします」
修二がカウンターで受付のミーナに告げると、彼女は手元の書類を確認してから頷いた。
「えっと…あなたたちのパーティは、ウッドベアの討伐だったわね。昨日も説明したと思うけど、南東の迷い森でウッドベアの群れが出没しているの。農作物を荒らしているから一掃してほしいって依頼だわ」
「了解です」
クエスト内容をギルドで再確認し、一行は準備を整えて出発した。
迷い森は、オーリアからそれほど遠くない場所にあるダンジョンだ。
「ウッドベアって、どんなモンスターなんですか?」
道中、ミリアが不安そうに尋ねた。
「名前の通り熊みたいなモンスターらしい。背中から木の枝が生えてて皮膚も樹皮みたいになってるって話だ。なかなかの攻撃力があるみたいだから油断は禁物かもな」
修二は《エックスリンク》で得た情報を伝えた。
「アタシの敵じゃないね」
アマテが大剣を軽く振りながら言った。
「まあ、たしかに。メガトンロプスを倒したあんたには生ぬるいクエストかもしれないけど」
「ミリアの炎魔法が効果的かもね!」
ニャアンが明るく言うと、ミリアは少し自信を持ったような表情になった。
「そうですね…頑張ります!」
その後。
森に入ると、すぐに獣の唸り声が聞こえてきた。
茂みの向こうに巨大な熊のような姿が見える。
体高2メートル近いモンスターが、立ち上がって前足を振り回していた。
(あいつがウッドベアだな)
修二は透明の短剣を抜き、シルバーライト・アーマーの効果で体を半透明化させた。
「よ~し、作戦通りに行くよ!」
事前に話し合った作戦は単純明快だった。
修二とアマテが前に出て敵の注意を引き、ミリアが後方から魔法で攻撃、ニャアンが回復と補助を担当する。
「おりゃあぁっ!」
アマテが雄叫びとともに大剣を振り下ろす。
ウッドベアの腕に深い傷を負わせると、敵は激しく咆哮した。
「グオオォォォッ!!」
怒り狂ったウッドベアが前足でアマテを薙ぎ払おうとする。
だが、アマテはそれを見越したように身をひねり、攻撃をかわした。
「今だ、ミリア!」
修二の合図で、ミリアが杖を高く掲げた。
「来たれ、炎の精霊よ! フレイム・アロー!」
呪文と同時に、赤熱した炎の矢が次々とウッドベアに突き刺さる。
木の性質を持つモンスターにとって、炎が最大の弱点だ。
「グアアァァァ!」
悲鳴を上げるウッドベアに、修二は背後から接近。
透明な短剣を突き立てた。
「これで終わりだ!」
ウッドベアは最後の唸り声を上げ、地面に崩れ落ちた。
「やった~!」
ニャアンが飛び跳ねて喜ぶ。
最初の1体を倒して勢いづいた一行は、森の奥へと進んでいった。
結局、その日のうちに10体のウッドベアを倒し、クエストは見事に完了した。
「お疲れさま。これが今回の報酬よ」
冒険者ギルドに戻ると、ミーナが金貨の入った袋を手渡してくれた。
「随分と手際よく片付けたみたいね。それと…あなたたち宛てに、いくつかクエストの依頼が届いてるみたい。挑戦してみる?」
修二はメンバーと顔を見合わせて、頷いた。
「お願いします」
◇◇◇
それからの一週間。
修二たちは次々とクエストをこなしていった。
様々な依頼をこなすうちに、オーリアの町での評判は急上昇していった。
「あれ見て! 例の噂のパーティだ!」
「メガトンロプスを倒した奴らじゃないか!」
「特に前にいる半透明になる奴がすごいらしいぞ」
「女の子はみんなかわいくて強いし、最高のパーティだよな!」
街を歩けば、そんな声が聞こえるようになっていた。
「なんか、有名人になっちゃったみたいだねっ♪」
ニャアンがくすくすと笑った。
「あまり注目されるのは好きじゃないです…」
「アタシは歓迎さ。有名になればなるほどいい武器を調達してもらいやすくなるからね」
ミリアとアマテの反応は正反対だったが、どちらも悪い気はしていないようだ。
(これでクエストの依頼はますます来やすくなったのかな)
知名度が上がることは冒険の助けになる。
なにより、様々なクエストをこなすことでレベルも順調に上がっていた。
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名前:ユーク
職業:冒険者
レベル:22
HP:450/450
MP:100/100
力:35
敏捷:29
知力:21
スキル:エックスリンク
装備:透明の短剣、シルバーライト・アーマー
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目標としていたレベル20はすでに越えており、オーリア周辺のダンジョンの敵は難なく倒せるまでになっていた。
冒険者ギルドに到着すると、四人はいつものように食堂に集まって、受注したクエストの内容を確認する。
今日はモンスターが湧き出て困っているという鉱山の調査に行く予定だった。
そんな中。
「あっ…そうだ。あのこと言っておかないと」
ニャアンが何か思い出したように、アイテム袋からあるものを取り出す。
「これ見て」
彼女が手に持っていたのは古びた羊皮紙の世界地図だった。
北のアストラル王国、南のフェンリル帝国、東のエルド連邦、西のガイア共和国が精密に描かれている。
この異世界に転生してから幾度となく、世界地図を修二は目にしてきた。
今ではしっかりと頭の中に国の位置がインプットされている。
「古い地図ですね」
「なんだ? これがどうかしたのか?」
ミリアとアマテの言葉に頷きながら、ニャアンが答える。
「昨日、神殿の資料室でエリンダ様が見つけたみたいなの。ここをよく見て」
ニャアンが指さした場所を修二は目で追う。
そこには大きな火を吹く山が描かれており、赤い印で丸がつけられていた。
「火山か、これ?」
修二が呟くと、アマテが首を傾げた。
「エルド連邦のあたりだね。でも、このあたりに火山なんてあったか?」
「たしかあったはずです。魔法学院の授業で学びました。ただ…それは千年ほど前の話のようで」
「千年前?」
修二の言葉にミリアが慎重に答える。
「その頃、エルド連邦の中心に巨大な〝焔山〟と呼ばれる活火山があったという話です」
(てことは、こいつは千年前の地図ってことか。どうしてそんなものが神殿の資料室にあったんだろう)
「今はどうなってるんだい?」
アマテの問いにニャアンは少し考え込むように話した。
「火山は噴火が完全に収まってて、今は死の山って呼ばれてるみたいだよ。けど…」
「けど?」
「最近、再び活動を始めてるって噂みたい」
「なるほど…。その話が本当なら、不吉な前兆と捉えることができるかもしれません」
ミリアのその言葉が引っかかり、修二はとっさに尋ねる。
「不吉な前兆って、どうして? 火山が活動を再開させるなんてことそんな珍しい話じゃないだろ?」
「伝承があるんだよ、ユークさん」
そう言いながら、ニャアンは袋から一冊のぶ厚い本を取り出した。




