21話 Dランクに昇格した
オーリアに戻った一行は、さっそく冒険者ギルドでクエストの報酬を受け取った。
「メガトンロプス討伐の証拠として、これを」
修二がメガトンロプスの心臓を提出すると、ギルド全体が騒然となった。
「緊急クエストをクリアしたのかよ!」
「あんな危険なモンスター相手によく戦えたもんだ」
「マジでっ!? メガトンロプスを倒しちゃったの!?」
周囲の冒険者たちの驚愕の声に、修二は少し居心地の悪い気分となる。
(俺たちは何もやってないんだけどなぁ…)
すでに対価を受け取ったアマテからは、手柄は自由にしてくれていいと言われており、修二は申し訳ないと思いつつもギルドにはパーティの成果として報告していた。
「達成するとは…本当に驚いたわ。あなたたち、ずいぶんと成長したのね」
ミーナが感心したように頷く。
「ユーク、それにニャアン。今回のクエスト達成により、あなたたちの冒険者ランクをEからDに昇格させていただきます。おめでとう」
「Dランクっ! ありがとうございます、ミーナさんっ♪」
「ありがとうございます」
これには修二も素直に喜んだ。
ランクが上がれば受けられるクエストの幅も広がるからだ。
その後。
冒険者ギルドを出た後、一行は武器屋に向かった。
アマテの大剣は修理が必要だったし、ミリアには新しい杖が必要だ。
ニャアンも回復の効率を上げる聖杖を物色している。
修二だけは透明の短剣とシルバーライト・アーマーというチート級の装備を持っているため、特に何か買う必要はなかった。
「すごいですね、ユークさんは」
「ん?」
ミリアが新しい杖を手に取りながら口にする。
「先ほどの戦いぶりは本当に感動しました。わたし、魔法学院でいろいろとすごい人を見てきましたけど…ユークさんはそれ以上です。オーラがぜんぜん違うんです」
「いやいや。俺がすごいんじゃなくて、この武器と防具がすごいんだよ」
「でも、それらの武具をきちんと扱っているのはユークさんですよね? 特にその鎧…。どこで手に入れたんですか?」
「それは、アタシも興味があるね」
アマテが興味深そうに話に加わってくる。
「これか。こいつは水晶の洞窟の奥で見つけたんだ」
「水晶の洞窟? そんなところにそんなチート級の防具が眠ってたっていうの?」
「ああ」
「…驚いたね。アタシもあのダンジョンには何度か入ってるけど。そんなもの、どこにもなかった気がするけど」
「隠し部屋にあったんだよ」
「よくそんなもの見つけましたね」
ミリアもアマテも感心したように頷く。
そして、買い物を終えた一行は神殿に戻り、エリンダに今回の結果を報告した。
彼女はアマテという新しい仲間を歓迎し、新しい部屋を用意してくれた。
「今日はゆっくりと休んでくれ。また明日からよろしくな」
「おう。報酬分は働かせてもらうよ」
手を振るアマテを見送ると、修二は自室へと戻った。
◇◇◇
その日の夜。
修二は《エックスリンク》でメガトンロプスの心臓についての検索をしていた。
【@dungeon_fan1985: メガトンロプスの心臓を持ってエルドの古代遺跡に行くと封印された道が開く #クリムゾン・ファンタジア #クリファン】
(古代遺跡…? そういえば、たしか…)
『サウザンド・ブレイク』のガレスがエルド連邦の砂漠地帯にある古代遺跡がどうの言っていたのを修二は思い出した。
(こいつをそこに持って行けば何か起こるみたいだな)
修二は袋からメガトンロプスの心臓を取り出しながら、少し考え込む。
先にレベル反転バグの条件達成を優先すべきだろうか。
=====
①ヴァレスに奉られている聖剣に触れる
②ヴァレスの端に存在する井戸の中に落ちる
③ヴァレスの外に棲息するブラックウルフに襲われる
④オーリアの神殿で祈りを捧げる
⑤水晶の洞窟で死なずにボスまで行く
=====
(あとは①と②をクリアすればいいだけなんだけど)
今ヴァレスに戻っても村が迎え入れてくれるはずがない、と修二は思う。
追放された身なのだ。
逆に下手に動いてしまうと、金輪際、ヴァレスへ足を踏み入れることはできなくなるだろう。
(今は時が経つのを待つしかない、か)
ヴァレスへ戻れるタイミングは、いつかかならず訪れる。
そう思い、修二は眠りについた。
※※※
数日後。
まだ薄暗い神殿の修練場で、修二は日課の剣の素振りを繰り返していた。
「ふっ! はぁっ!」
空気を切り裂く透明の短剣から、かすかな光が放たれる。
汗ばんだ額を腕で拭いながら、修二はふと空を見上げた。
(レベル20くらいまでは早く上げておきたいな)
魔王を倒すという気の遠くなるような目標に向かって、一日一日を大切に過ごす必要がある。
「おはよ~! 早いね、ユークさん!」
明るい声がして振り返ると、銀髪をなびかせたニャアンが元気よく駆けてきた。
朝日を浴びて輝く髪が、まるで妖精のようだ。
「ニャアンも早いな。いつもならもう少し寝てるだろ?」
「今日はみんなでダンジョンに行くでしょ? 少し体を温めておかないとね!」
ニャアンはそう言いながら杖を構えた。
彼女の純真な笑顔に、修二はいつも救われる思いがしていた。
「そうだな。今回のクエストはウッドベア討伐だったか」
「そう! Dランクになって初めてのクエストだから、わくわくするね!」
二人が朝の練習を始めて間もなく、魔法使いのミリアも現れた。
「おはようございます…」
少し眠そうな表情で、紫色の髪をくくりながらミリアが挨拶する。
「おっはよー、ミリア!」
「よう、おはよう」
そして最後に、アマテが大剣を肩に担いで現れた。
「遅れたな。悪い」
赤い髪を風になびかせながら、アマテはクールな表情で言った。
「いや、十分早いよ。朝食の時間までまだあるし」
こうして、修二のパーティ全員が揃った。
それぞれ個性的だが、確かな実力を持つ仲間たち。
この四人なら、魔王討伐も夢ではないかもしれない、と修二は思った。
(アマテのパワー、ミリアの魔法、ニャアンの回復…。バランスのいいパーティだ)
朝食後、一行はオーリアの冒険者ギルドへと向かった。




