20話 傭兵アマテ加入
新しいパーティーでのクエスト活動が始まって数日が経った。
ミリアが加わったことで、戦闘の効率は格段に上がった。
彼女の炎と風の複合魔法は、多くの敵を一度に倒せる強力な技だ。
「ミリアすごいね!」
オーリアの外れにある森での討伐クエストを終え、ニャアンが目を輝かせて言った。
「そんなことないです…」
いつもの謙遜だが、ミリアも少しずつ自信をつけてきているようだった。
「よし。今日の分の報酬を受け取りに行こう」
三人が冒険者ギルドに戻ると、何やら騒がしい雰囲気が漂っていた。
カウンターに駆け寄る冒険者たち。
何かが起きているようだ。
「どうしたんだ?」
修二が近くの冒険者に尋ねると、「緊急クエストが出たんだ」という返事が返ってきた。
「何のクエスト?」
「北の森に現れたメガトンロプスを討伐してくれるパーティを探してるらしい。でもそんな危険なクエスト、上級の冒険者でも怖くて手を出せないぜ」
(メガトンロプスだって?)
修二は思わず身を乗り出した。
《エックスリンク》で得た情報によれば、メガトンロプスはレアモンスターで、その牙からは強力な武器が作れるという。
(これは行くしかないな)
「まさか…あんたたちがこのクエストを?」
受付カウンターのミーナが驚いた表情で三人を見た。
「はい」
「残念だけど、これはDランク以上の冒険者しか受注できないの。まだあなたたちはEランクだったでしょ?」
「そういうことでしたら、わたしがDランクなので、お受けすることはできますか?」
「? ニャアン、この子は?」
「あっ! ミーナさんは会うのが初めてでしたよね? 彼女は最近私たちのパーティに加入したミリアです!」
「初めまして。わけあってサンダーボルツから修行のためにやってまいりました。ユークさんとニャアンさんにお世話になっております」
「へぇ、そうだったの。だったら、ギルドカードはある?」
ミリアはカードを渡した。
それを確認して、納得したようにミーナは頷く。
「たしかにDランクね」
「ってことは、受注してオーケーってことですか?」
修二の言葉にミーナは指で丸を作った。
「条件はクリアしてるわ。でも、とても危険なクエストよ。無理だと思ったら、すぐに引き返すことを約束して」
「分かりました。約束します」
こうして修二たちは、緊急クエストの受注に成功する。
三人は準備のため、いったん神殿に戻り、そこでエリンダにクエストの内容を伝えた。
「メガトンロプスは非常に危険なモンスターと言われております。これまでなら止めていたところですが…」
三人の決意の表情を見て、エリンダは諦めたように続ける。
「せめてこれを持っていきなさい」
エリンダは今回も特別な護符を手渡した。
「火炎への耐性を高める護符です。メガトンロプスの炎から少しは守ってくれるでしょう」
「ありがとうございます!」
礼を告げると、修二たちはそのまま北の森へと向かった。
※※※
空には不吉な暗雲が垂れ込め、遠くで雷鳴が聞こえる。
「天気が悪いですね」
ミリアが不安そうに空を見上げた。
「メガトンロプスの影響かもしれないな」
修二は《エックスリンク》で確認したポストの情報を思い出していた。
メガトンロプスは出現すると、周囲の天候を変えるという特性があるらしい。
森に入るとすぐに、異変に気づいた。
木々が焼け焦げ、地面には大きな足跡が刻まれていたのだ。
「こっちだな」
足跡を辿りながら進むと、やがて大きな開けた場所に出た。
そこには――。
「見て、ユークさん! あれっ!」
ニャアンが焦ったように声を上げる。
開けた場所の中央に一人の女性が立っているのが見えた。
赤い長い髪を風になびかせ、両手に大剣を構えている。
彼女の前には巨大なモンスターが、地鳴らしをしながら威嚇していた。
「手伝わなきゃ!」
ニャアンが前に出ようとするが――その必要はなくなる。
赤髪の女戦士は驚くべき速さでメガトンロプスの攻撃をかわし、大剣で巨人の脚を切り裂いた。
「うおおおっ!」
彼女の雄叫びが森に響く。
メガトンロプスは苦痛に悶え、さらに激しい地鳴りを繰り出すが、女戦士はそれをものともせず、今度は相手の胸に飛びかかった。
(すげぇ…)
三人はその戦いぶりに言葉を失うほど見入っていた。
女戦士の動きは流れるように美しく、致命的な攻撃を連続で繰り出している。
「グオオオッ!」
メガトンロプスが断末魔の叫びを上げ、大きく揺らいだ。
そして、そのまま地面に崩れ落ちる。
「一人で倒した…?」
ミリアが目を丸くして呟く中、女戦士は大剣を巨人の体から引き抜いた。
修二たちが近づくと、女戦士は汗を拭いながら振り向く。
「なんだ? あんたたちは」
年齢は自分よりも2つか3つ上かもしれない、と修二は彼女の顔を見て思った。
頬には小さな傷跡があり、切れ長の眼がこちらを捉える。
「俺たちはメガトンロプス討伐のクエストをオーリアの冒険者ギルドで受注してやって来たんだ。でも…もう片付いたみたいだな」
「ひと足遅かったね」
女戦士は大剣を担ぎ直した。
「アタシはアマテ。フリーの傭兵だ」
「傭兵?」
「そう。どこのギルドにも所属してない。モンスターを討伐して生計を立ててるのさ」
アマテは腰につけたぶ厚いナイフを取り出し、メガトンロプスの部位を器用に剥ぎ始める。
肉や皮、牙や鱗…。
その手際の良さに、修二は思わず感心した。
「心臓まで取るのか?」
修二の質問に、アマテは眉を上げた。
「もちろん、これが目的なんだから。こいつは高く売れるみたいだからね」
修二は少し考えてから提案した。
「その心臓、俺が買うよ」
「はぁ?」
アマテは笑った。
「あんたらは冒険者だろ? 行商人でもないのに、なぜこいつを買う必要がある?」
「代わりに俺たちのパーティに加わってくれないか?」
その言葉にニャアンもミリアも驚いた表情を見せるが、修二の意図を理解すると、すぐに頷いてみせる。
アマテは呆れたような表情を浮かべた。
「おっさん。悪いけど、アタシは一匹狼なの。パーティなんて組むつもりないね」
「でも一人じゃ限界があるだろ? 俺たちと組めば、高報酬のモンスターをもっと倒せるようになるんじゃないか?」
「……」
アマテは黙って修二を見つめた。
そして、ニャアンとミリアにも視線を向ける。
「そこまで言ってのけたんだ。あんたたち、強いんだろうね?」
「ぜひ腕試しさせてくれ」
修二は透明の短剣を抜いた。
アマテも興味を示したように大剣を構える。
「いいよ。試してあげる」
二人は瞬時に戦闘態勢に入った。
唐突な展開にニャアンもミリアも戸惑いの顔を浮かべるも、対決の行方を静かに見守ることに決めたようだ。
「行くぞ!」
修二が一歩踏み出した瞬間、アマテの大剣が風を切る。
しかし、修二はシルバーライト・アーマーの効果で半透明になりながら、その攻撃をかわした。
「なっ!?」
アマテは驚愕の表情を浮かべた。
修二の姿が薄れたのを見て、動揺したようだ。
修二は素早く彼女の背後に回り込み、短剣を首元に突きつけた。
「アタシが後ろを取られた…?」
アマテはゆっくりと武器を下ろした。
「そんな鎧…見たことないぞ。あんた、いったい何者?」
「これで納得してくれたかな。どう? 俺たちとパーティを組まないか?」
アマテは少し考えてから、ニヤリと笑った。
「面白い。しばらく一緒にいて様子見してあげるわ」
「そうか、ありがとう。あんたみたいに強い戦士を探してたんだ。助かるよ」
「ただ、約束どおりこいつの金はしっかりと貰うからね」
彼女はメガトンロプスの心臓を掲げた。
大きな出費となったが、それ以上に大きな収穫があった、と修二は思う。
こうして修二たちのパーティに新たな女戦士が加わった。
回復役のニャアン、魔法攻撃のミリア、そして近接戦闘のアマテ。
バランスの取れたパーティになり、戦力は大幅に向上した。
パーティーは四人となり、修二の異世界攻略は新たな段階に入った。
魔王を倒し、現実世界に戻るという目標への道のりは、まだ遠いが確実に近づいている。




