19話 新たな仲間ミリア
神殿に戻った二人は、すぐさまエリンダへダンジョン攻略の報告した。
「水晶の洞窟のボスを倒してしまうとは…」
エリンダは感心したように言った。
「本当に素晴らしい成長ぶりですよ。おふたりとも」
「すべてニャアンのおかげです」
修二がそう答えると、ニャアンは顔を赤らめた。
「違うよ! ユークさんがすごいんだって!」
エリンダは二人のやり取りを微笑ましく見守っていたが、ふと修二の新しい鎧に目を向ける。
「先ほどから気になっていたのですが、その鎧は?」
「これは、ボスを倒した後に隠し部屋で見つけたんです。シルバーライト・アーマーっていうみたいでして」
エリンダは驚いた表情を浮かべた。
「どこかで耳にしたような…」
そこでエリンダは顔をハッとさせる。
「あぁ、思い出しました。それは、かつて英雄が身につけていたとされる鎧です」
「英雄?」
「はい。透明化の力を持つ神具として語り継がれてきたはずです。まさか本当に存在していたとは…」
エリンダの話を聞いて、修二とニャアンは顔を見合わせた。
(想像以上のレアアイテムだったんだな)
続けて修二は報告する。
「それと、こちらも見つけました」
「これは?」
修二が取り出した水晶の鍵を見つめ、エリンダは思案するように眉をひそめた。
「ダンジョンの最深部で発見しました。これが何の鍵かわかりますか、エリンダ様?」
「…すみません、残念ながら分かりかねます。ただ、この鍵からは聖なるオーラが感じられます。重要なものを開けるための鍵であることは間違いないでしょう」
エリンダの言葉を聞いて修二は確信する。
この鍵が今後の旅に大きく関わってくることになると。
「二人とも、今日はゆっくりとお休みください。明日から新たな修行が始まるわけですから」
エリンダの言葉に頷き、修二とニャアンは各自の部屋へと戻った。
◇◇◇
数日後の朝。
修二は早起きし、神殿の訓練場で剣の素振りをしていた。
(レベル15か。まだまだだな)
魔王を倒すにはレベル70以上必要だと、《エックスリンク》で得た情報では分かっている。
道のりは長い。
「おはよう~!」
ニャアンが元気な声を上げて駆けてきた。
銀髪を朝日が照らして、まぶしいほどに輝いている。
「朝から頑張ってるね!」
「少しでも強くならないとな」
ニャアンは杖を構えて修二の隣に立った。
「奥さんと娘さんのためだね!」
「まあな」
「よぉ~し! 私も一緒に練習する!」
二人はそのまま修練を続けた。
汗が流れ始めた頃、中庭に一人の来訪者が現れる。
「あの、すみません…」
振り返ると、そこには見知らぬ魔法使いの服装をした少女が立っていた。
「こちらにおふたりいると、神殿の方にお伺いしまして…」
奥の通路で手を降るセリファと目が合う。
どうやら彼女が案内したようだ。
「俺たちに何か用?」
少女は静かに頷く。
年齢は自分たちよりも少し低いかもしれない、と修二は思った。
(中学生くらいかもしれないな)
紫色の髪を左右でくくり、大きな杖を胸に抱えている。
「今話題の冒険者コンビのおふたりですよね?」
修二は汗を拭いながら訪問者に向き合った。
「は?」
「水晶の洞窟のボスを倒したって、オーリアの冒険者ギルドで噂になってたんです。将来有望だって皆さん仰ってて」
「そんな風に言われてるんだ。マジか」
修二は少し照れくさくなった。
「わたし、ミリアっていいます。魔法使いの見習いをしてます」
彼女は自己紹介しながら、少し俯き加減になった。
どこか自信なさげな雰囲気が漂う。
「初めまして! 私はニャアン! こっちはユークさん!」
ニャアンがいつものように明るく挨拶した。
「はい。お名前は存じ上げております。実は…お二人にお願いがあって、こちらへ伺った次第なんです」
ミリアは単刀直入に告げた。
「わたしをパーティに入れてもらえませんか?」
その意外な申し出に、修二もニャアンも驚く。
確かに二人だけよりも、もう一人魔法使いがいれば戦力は上がる。
特に攻撃魔法が使える仲間なら心強い。
だけど――。
「どうして俺たちなんだ?」
ミリアは言葉を選ぶように少し間を置いた。
「わたし、サンダーボルツ魔法学院の学生なんです」
「サンダーボルツ?」
「ウソっ、ユークさん知らないの? ここより東にある町じゃん! 同じガイア共和国の中にあるのに」
「あー…たしかにそんな町あったか。俺、これまでほとんど村から出ることがなかったからさ。すっかり忘れてたよ、ハハ」
「たしかにオーリアよりは規模が小さい町なので。ご存知なくても仕方ないかもしれません」
「それで…そのサンダーボルツの魔法学院だったか? そんなところの学生さんがどうしてこんなところまでやって来たんだ?」
「わたし、学院では落ちこぼれで…。立派な魔法使いになりたいんです。それで、オーリアの冒険者ギルドならきっと強い人たちが集まってるだろうと思って」
「そこで私たちの話を聞いたんだね?」
「はい。ここならパーティに入れてもらえるかもしれないって。学院の先生方にも許可はいただいてるんです。実戦が一番の経験になるから、まあいいだろうって」
「なるほど」
修二は彼女の事情を察した。
とはいえ、二つ返事で承諾するわけにもいかない。
(強いパーティって認識してもらってるのはありがたいことだけど…)
相手の実力を知る必要があった。
「あのさ。一度、腕前を見せてもらえないかな?」
「腕前、ですか?」
「うん。得意な魔法を見せてくれるだけでいいから」
「ここで魔法を使っていいんですか?」
「ああ。ここは訓練場だし、存分に力を発揮してくれていいよ」
「そういうことでしたら…分かりました」
緊張した面持ちでミリアが魔法の杖を構える。
「来たれ、炎の精霊よ」
呪文を唱える彼女の周りに、小さな炎が宿り始めた。
それが徐々に大きくなり、やがて彼女の周りを取り囲むようになる。
「フレイム・サークル!」
叫ぶと同時に、炎の輪が広がり、訓練場の的を次々と焼き尽くした。
「おおーっ!」
ニャアンが感嘆の声を上げる。
ミリアは少し照れたように微笑んだ。
「えっと、これだけじゃなくて。わたし、複合魔法も少しだけ使えます」
再び杖を掲げると、今度は炎と風の要素を組み合わせた魔法を放った。
それは竜巻のように渦を巻きながら、残りの的を粉々にした。
(すごいぞ…これは)
修二も素直に感心した。
正直、ミリアの攻撃魔法は一級品と言えた。
落ちこぼれなんて謙遜しすぎている。
「どうでしょう…?」
不安そうに訊ねるミリアに、修二はニャアンと顔を見合わせて頷いた。
「ぜひ仲間に加わってくれ」
「ほ、ほんとですか!?」
ミリアは飛び上がるほど喜んだ。
「ありがとうございます!」
「むしろ俺たちの方こそ、お礼を言うべきだよ」
「うんうんっ! あなたみたいに強い人に入ってもらえて嬉しいよっ!」
こうして修二たちのパーティは、魔法使いのミリアを加えた三人となった。
「わたし、頑張ります!」
「これからは三人で頑張ろうね♪」
ニャアンが両手を上げて叫ぶと、ミリアもつられて笑顔になった。
新たな仲間を得て、修二たちの冒険は次の段階へと進んでいく。




