15話 いざ水晶の洞窟へ
数日後、修二のレベルはついに10に達した。
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名前:ユーク
職業:冒険者
レベル:10
HP:250/250
MP:50/50
力:15
敏捷:12
知力:8
スキル:エックスリンク
装備:透明の短剣、革の防具
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「これで水晶の洞窟に挑めるね」
朝の訓練を終えた後、二人は神殿の中庭で休んでいた。
「ああ。でも、ガレスさんの話じゃレベル20ないと奥までたどり着けないみたいだから」
「だいじょーぶ! 私のレベル17になったから! ピンチになったら私がなんとかするよ!」
ニャアンは自信満々に胸を張る。
確かに彼女の回復魔法があれば、多少無理しても大丈夫かもしれない。
「別に奥まで目指さなくてもいいんじゃない? とりあえず、中に入ってみてどんなダンジョンか確かめてみるだけでも。それにユークさんにはその透明の短剣もあるし!」
「まあ、そうだけどさ」
「それに…」
ニャアンは少し照れくさそうに言った。
「私たち、すっごく息ぴったりじゃん? 今ならどんな敵が来ても大丈夫だよ!」
確かにこの数日間、二人で数々のクエストをこなしてきた。
ニャアンが言うように連携は日に日に良くなっていった。
「でも、エリンダ様には言っておかないとな」
「あ…そうだね」
ニャアンが少し不安そうな顔になる。
「大丈夫だよ。正直に言えば認めてくれるはずだ」
◇◇◇
その後。
二人は神殿の瞑想の間を訪れた。
「水晶の洞窟?」
エリンダは静かな声で言った。
「はい。修行の一環として挑みたいんです」
修二がそう答えると、エリンダは物思いにふけるような表情になった。
「水晶の洞窟…ですか。かつては神官たちの修行の場でもあったのですが、今は危険なモンスターが棲みついて危険な場所でもあります」
エリンダはニャアンを見た。
「ニャアン。ユークさんをきちんと守れますか? 彼はまだ実戦経験が少ないのですから、いざという時はあなたが助けを差しのべる必要があります。本当に大丈夫ですか?」
「はい! 絶対に私がユークさんを守ってみせます!」
迷いのない返事に、エリンダは微笑んだ。
「…そうですか。わかりました。ニャアンがそこまで言うのなら、きっと大丈夫でしょう。ただし、無理はしないこと。危険を感じたらすぐに引き返すのですよ」
二人はそろって頭を下げた。
「それと…こちらを持っていきなさい」
エリンダは小さな水晶のペンダントを取り出した。
「これは?」
修二が尋ねると、エリンダが答える。
「神殿に伝わる『光の護符』です。水晶の洞窟の中で光を放ち、道を照らしてくれるでしょう」
「ありがとうございます!」
ニャアンがペンダントを首にかける。
柔らかな光が部屋に広がった。
「行くなら明日の朝一番がいいでしょう。今日はしっかり準備をして、早めに休みなさい」
神殿を出た二人は、準備のために街へと向かった。
「回復薬が必須だね」
街の道具屋で必要なものを揃え、武器屋で装備のメンテナンスも済ませた。
これで準備は万端だ。
(あとは…)
水晶の洞窟について、もう少し詳しい情報があるかもしれない。
明日を前に一度調べておくのもいいかもしれない、と修二は思った。
「ニャアン、少し一人で考え事がしたいんだ。先に神殿に戻っていてくれないか?」
「え? うん、いいよ」
少し不思議そうな顔をしながらも、ニャアンは修二の願いを聞き入れてくれた。
「じゃあ、夕食の時間に神殿の食堂で!」
ニャアンが去った後、修二は人気のない路地に入った。
そして「エックス」と心の中で唱える。
青い光の画面が現れる。
【クリムゾン・ファンタジア 水晶の洞窟 攻略】
何度か検索したワードを入力すると、いくつかの投稿が表示された。
【@master_d_qed: クリファンの水晶の洞窟って初心者の墓場だよなw】
【@zeboodians: 水晶の洞窟のボスは、左腕・右腕・胸部・頭部・腹部の順番で攻撃するのがコツ】
【@sako_sakai_sama: クリスタルゴーレムは、輝水晶を武器に当てないと攻撃が効かないのが厄介】
ガレスから聞いた情報と一致している。
やはり彼の情報は正確だったようだ。
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①ヴァレスに奉られている聖剣に触れる
②ヴァレスの端に存在する井戸の中に落ちる
③ヴァレスの外に棲息するブラックウルフに襲われる
④オーリアの神殿で祈りを捧げる
⑤水晶の洞窟で死なずにボスまで行く
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「レベル反転バグ」を成功させるためにクリアしている条件は今のところ2つ。
③と④だ。
(水晶の洞窟のボスにたどり着く。上手くいけば、この条件も明日には到達できるはず)
さらに詳細を調べていると、もう一つ気になるポストを見つけた。
【@freefive555: 水晶の洞窟の最深部 ボスの部屋の隣に隠し部屋がある 壁を調べると見つかるらしい そこで最後の鍵を入手できるらしい】
「最後の鍵…?」
それがどんなものか詳しくは書かれていなかったが、「最後の」というくらいだから、めちゃくちゃ重要なアイテムであるのはまず間違いない。
続けて。
修二はいつもように友人と京香のアカウントをチェックした。
【@ryu_takataka:水嶋の容態 少し安定してきたらしい まだ目は覚まさないけど】
それを見て、修二はほっとした。
【@kyoka_meguro0314: 今日も修二君に話しかけてきた 目を覚まして… お願い…】
京香のポストは日に日に悲痛なものになっていた。
それを見るたびに、修二の胸は苦しくなる。
(京香…必ず帰るからな)
修二は画面を閉じた。
これ以上は感傷に浸っている暇はない。
明日に備えなければ。
それが京香の元へ戻る唯一の道なのだから。




