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11話 はじめての探索

「わぁ~、いい天気!」


 城壁の外に出たニャアンは両手を広げ、深呼吸した。

 彼女の銀髪が日差しを受けて煌めいている。


「さあ、あの森に向かっちゃおう!」


 ニャアンの指さす方向には小さな森がある。

 修二は新しく購入した短剣を腰に下げ、盾を背負い、決意を新たにした。


 その道中。


 修二はニャアンに聞かれるがままに村での生活について答えていた。


「ユークさんって結婚してたんでしょ? 奥さんの名前はなんていうの?」


「名前? えっと…リー、なんだっけ? リーシャだったかな?」


「ちょっとユークさんひどい! まさか奥さんの名前忘れちゃったの!?」


「ち、違う違うっ…。こういうのは個人情報だからさ。本当のことを言うべきか迷ったんだよ」


「? 個人情報…? よくわからないけど、周りに知られちゃ困るってこと?」


「そういうこと! でも、ニャアンなら別にいっか。悪い迷ったりして」


「ユークさんってホント変わってるよね。個人情報なんて言う人初めて見たよ」


 どうやらまた現実世界の調子で話してしまったようだ。

 極力、こういった発言は避けなければならないぞ、と修二は思った。


「それで娘さんの名前は?」


「エリナだよ」


「エリナちゃんか。かわいい名前だね。二人とも優しい?」


「うん…とてもね」


 どうしてだろうか。

 ほとんど会話もしていないはずなのに深い感情が湧いてくる。


 高校生の修二にとって、妻子と呼べる存在は上手く想像できないが――また会いたいと思えるから不思議であった。


 それもこれも。

 この中年男の体がそう感じているのかもしれない。


「もう一度会いたい?」


「ああ」


 その言葉を聞いて、ニャアンは少し悲しそうな表情を見せた。


「村に戻れる方法、一緒に考えようね」


「ああ、ありがとな」




 ◇◇◇




 森に着くと、二人は薬草探しを始めた。

 ニャアンは植物の知識が豊富で、修二に様々な種類の薬草を教えてくれる。


「これはハーブムーン。傷の治りを早くするんだよ」

「こっちはブルースター。解毒効果があるの」

「んで、これが今回のクエストで採る薬草、シルバーリーフ!」


 ニャアンの説明は明るく楽しげで、時折冗談を交えながら修二を笑わせる。

 彼女の側にいると、不思議と心が軽くなる気がした。


「こっちにもシルバーリーフがあるよ!」


 ニャアンが茂みの向こうへ走っていく。

 修二も後を追おうとしたが、その時。


「キュイ!」


 低い鳴き声が聞こえ、茂みから何かが飛び出してきた。


「うわっ!」


 修二は反射的に後ずさる。

 そこには小さな緑色の生き物がいた。


(なんだよ。スライムか)


 ゼリー状の体を揺らしながら、修二を見上げている。


「ユークさん! 気をつけて」


 ニャアンが駆け寄ってくる。


「こいつ弱いけど不意打ちされると危ないから」


「お、おう」


 修二は腰の短剣を抜いた。


 生まれて初めての実戦だ。

 心臓が早鐘を打つ。


「キュイッ!」


 スライムがピョンと跳ねて攻撃してきた。

 修二は何とか身をかわす。


「どうすればいい?」


「スライムは内部に核があるからそれを狙って!」


 ニャアンのアドバイスに従い、修二は短剣を構えた。

 スライムが再び跳ねてくる。


 今度は修二も心の準備ができていた。


「うりゃっ!」


 短剣を横に振るう。

 刃がスライムの体を通過し、中心部分を切り裂いた。


「キュイ…」


 弱々しい鳴き声と共に、スライムはぷるぷると震え、やがて崩れ落ちた。

 そして光の粒子となって消えていく。


「やった!」


 ニャアンが拍手する。


「ユークさん、すごいよ! 初めての戦闘だったのにちゃんと倒せたじゃん!」


「ニャアンのアドバイスのおかげだよ」


 ニャアンが何かを思い出したように言った。


「レベルアップしたかも。ステータスを確認してみて」


「そうだな。確認しておくか」


 ステータスオープンと唱えると、お馴染みの画面が目の前に現れる。


=====


名前:ユーク

職業:冒険者

レベル:2

HP:120/120

MP:15/15

力:6

敏捷:4

知力:4

スキル:エックスリンク


=====


「おおっ! 本当だ。レベルが上がってるぞ」


「やったね!」


 ニャアンは小さくジャンプして喜んだ。

 その仕草が本当に子供のようで可愛らしい。


「よーし。これなら他のスライムも倒せるかも」


 修二は少し自信がついた。

 二人は薬草集めを続けながら、時折現れるスライムも倒していく。


 一時間ほど森の中を探索し、クエスト達成に必要な量のシルバーリーフを集め終えた頃には、修二のレベルは3になっていた。


「帰ろっか?」


 ニャアンが提案した。


「そうだな。そろそろ日も傾いてきたし」


 森を出ようとしたその時、突然ニャアンが立ち止まった。


「あれ?」


「どうした?」


「なんか…変な音しない?」


 修二も耳を澄ますと、確かに地面から微かな振動が伝わってくるのを感じた。


 ドン、ドン…。


 重い足音。

 それは徐々に大きくなっていく。


「もしかして…」


 ニャアンの顔から血の気が引いた。


「森トロールっ!?」


 その言葉を口にした途端、木々を押しのけるようにして巨大な影が姿を現した。

 

 身長3メートルはある緑色の巨人。

 太い木の棍棒を持ち、獰猛な顔で二人を睨みつけている。


「逃げて、ユークさん!」


 ニャアンが叫ぶ。


「こいつはレベル10くらいあるから! 私たちじゃ無理なの!」


「マジかよ!」


 二人は全速力で森の出口を目指そうとする。

 しかし、トロールもすぐに追いかけてきた。


「はぁっ…はぁ…クソッ!」


 中年の体で全力疾走。

 すぐに息が上がる。


(なんでこんな走りづらいんだよ、このおっさん体は…!)

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