10話 冒険者ギルド
「冒険者登録をするのね。名前は?」
「ユークです」
「年齢は?」
「…40歳くらい、ですかね?」
「私に聞かれても困るわよ。なんで自分の年齢も知らないのよ」
呆れ気味にミーナは首を降る。
少し怪しまれているようだ。
「で。職業は?」
「…えーっと村人、でしょうか」
ミーナは書類に何かを書き込みながら、ふと顔を上げた。
「村人? 村人で護衛なんて聞いたことないけど。戦闘経験はあるの?」
「あ、いや…それが」
「ないの?」
ミーナの目が細くなる。
ニャアンが慌てて助け舟を出す。
「もちろんありますよ! ユークさんは、昨日ブラックウルフの群れから私を助けてくれたんです!」
「ブラックウルフですって?」
ミーナの目が丸くなった。
「そうなんですよ! すごく勇敢で」
ニャアンの言葉に周囲の冒険者たちも興味深そうに振り向き始めた。
「村人がブラックウルフを…信じられないわ」
ミーナの疑わしげな表情に、修二は頷くしかなかった。
「なんとかなりまして…はは」
「そうなんですよ! もうホントすごかったんですからっ!」
ニャアンのフォローもあり、それ以上は追及されなかった。
(実際は助けられた側なんだけどなぁ…いいのかな)
ミーナはじっと修二を見つめた後、急に表情を和らげた。
「まあいいわ。エリンダ様がお認めになったってことみたいだし」
彼女は何かを書き込み、小さなメダルのようなものを取り出した。
「はい、これがギルドカード。このカードでクエストの報酬を受け取ったり、ギルド施設を利用したりできるわ」
「ありがとうございます」
修二がカードを受け取ると、そこにはFランクと記されていた。
「最初はFランクからのスタートよ。実績を積んでいけばランクはアップするわ」
「了解です」
「それと…」
ミーナはカウンターの下から一枚の紙を取り出した。
「初心者向けクエストのリストよ。まずはこの中から選んでみたら?」
「ありがとうございます!」
ニャアンが嬉しそうに紙を受け取る。
二人はカウンターを離れ、空いているテーブルに座った。
「さあ、どのクエストにしようか?」
ニャアンは目を輝かせながらリストを広げる。
修二もその横に座り、一緒に眺めた。
=====
・薬草採集(報酬:銅貨5枚)
・迷子のペット捜索(報酬:銅貨8枚)
・倉庫の整理(報酬:銅貨3枚)
・初級魔物退治・スライム(報酬:銅貨10枚)
・城壁の見回り(報酬:銅貨7枚)
=====
「う~ん、どれがいいかな?」
ニャアンが悩んでいる間に修二は袋を確認した。
エリンダからもらった金貨10枚が入っている。
「金貨と銅貨のレートってどれくらい?」
「え? ユークさん、それも知らないの?」
「わ、悪い。めったに使わなかったから忘れちゃってさ」
「金貨1枚は銅貨100枚の価値だよ」
「あー、そっか。確かにそうだったわ」
なるほど。
つまり自分は銅貨1000枚分持っているわけかと修二は思った。
「ユークさんは戦いの経験ないんだし。まずは薬草採集から始める?」
ニャアンの提案に修二は頷いた。
確かにいきなり戦闘は危険だろう。
「そうだな。装備も揃えないとな」
「うん! クエスト受けてから武器屋に行こう!」
二人はミーナのもとへ戻り、薬草採集のクエストを受注した。
「薬草はオーリアの東にある小さな森で採れるわ。特別危険なモンスターはいないけど、油断は禁物よ」
ミーナのアドバイスを聞き、二人はギルドを後にした。
※※※
「これが長剣で、こっちがショートソード。それと斧だ」
武器屋の主人が次々と武器を並べていく。
きらめく刀身に修二は思わず見とれた。
「どれにするー?」
ニャアンが首を傾げて聞いてくる。
その仕草があまりにも可愛くて、修二は一瞬言葉を忘れた。
「あ、あー…やっぱり扱いやすそうなものがいいな」
「初心者なら短剣がおすすめだぜ」
店主が一振りの短剣を差し出す。
シンプルなデザインだが、しっかりとした作りだ。
「これなら金貨2枚でいいぞ」
「じゃあ、それをください」
続いて防具も選ぶ。
革の胸当てと腕当て、そして小さな盾。
全部で金貨5枚だった。
「あとは」
修二が考えていると、ニャアンが何かを持ってきた。
「これも必要だよ!」
彼女が手に持っていたのは、小さなポーションの瓶だった。
「回復薬?」
「うん!万が一のためにね。私の回復魔法もあるけど、自分でも持っておくべきだよ」
その心遣いに、修二は思わず微笑んだ。
「ありがとう、ニャアン」
「え?」
ニャアンは少し赤くなり、髪をかきあげた。
「な、なにが?」
「いや、色々と気遣ってくれて」
「あ、ううん…。当然だよ」
彼女はそそくさと店の奥へ行ってしまった。
その後ろ姿を見て、修二は再び京香を思い出す。
(京香もこんな風に俺のこと気にかけてくれてるんだろうな)
胸がきゅっと締め付けられる感覚を抱きつつ。
買い物を終え、二人はオーリアの東門へと向かった。




