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夢幻発掘抄  作者: アルタ
夢と幻と記憶の発掘作業
43/44

第43話

 病室で目が覚めた時、私はぽっかりと穴があいた気分だった。

 どうして? どうして生きているのかな?

 夢見としての力を使い果たし、夢の世界から抜け出せなくなって、あとは魂が消滅するのを待つばかりだったのに。


 それからの私は不思議なことにあの「夢見」ができなくなっていた。見る夢、見る夢、普通の、少し幸せな夢。


 学校には、すぐに復帰できた。進級してからしばらく入院していたという扱いになっているらしい。

 従兄弟の空太さんが全部手配してくれていた。最も彼は、私のことを覚えていないのだけれど。一族の当主としてさまざまな事業をまとめているらしい。


 まだ色々なことが半信半疑だ。だって、生きているなんて。

 この前、本家でもう一人の従兄弟、大地に会った。研究のため、短期留学するという噂だったが、誰とも話さず、何かを考えたまま難しい顔をしている彼に話しかけるのは難しかった。


 学校に登校した。

「夜神さん、完治おめでとう!」

 隣の席の女子がこそりと話しかけてくれた。それが嬉しい。

「これでうちのクラスも男子ファンと女子ファンでうるさくなるのねー」

 誰かが呟いた。


「?」

「ああ、今日はちょっと休んでいるけど、後ろの席の比留間君、凄い人気だもんね。って言っても、夜神さんは知らないかな?

 サラサラの黒髪、切れ長の黒い瞳、白皙の美貌、成績優秀、容姿端麗のクールビューティ、比留間英明。2年からこの学校に編入してきたんだけどさ、もー、魂吸い取られそうなくらい綺麗な男子だよ。

 今はちょっと、よく休んでいるからなかなか美顔を拝めないんだけどねー」


 ふーん。


「そういえばお見舞いにきてくれていたよね? 誰か」

「え? 行ってないよ。つーか行こうと思ってもいけなかったんだよ。

 どこの病院かも分からなかったし……」


 でも、だれか、暗がりで顔はよく見えなかったけれど、誰か確かに来てくれていたはずだ。

 思い出せない。


 それがひどく切ない。




 気になっていたクラスメートの比留間君に会ったのは、それから3日後のことだった。なんだかひどく辛そうで、眠そうなのに眠れないような、昔の私のよう。

 でも辛そうなのはそれだけじゃなくて、私を見る視線。綺麗に隠しているつもりでも、凄く切なくて胸が締め付けられる。


 どうして? ほとんど話したこともないはずなのに。


 昼休み、屋上のベンチで寝転びながら考える。

 ねえ、私何か大事なことを見落としているのかな。

「はー、なんかすっきりしない」

 何もかもが上手く行き過ぎている。おかしいくらいに。



「……だから俺は付き合うつもりはないんだ」

 誰かが話しているような声が聞こえて、ベンチからゆっくり起き上がると、そこは告白のシーンだった。一人は年下の子。もう一人、告白されているのは比留間君だ。流石と言うかなんというか。

 女の子がペコっとお辞儀をして去っていく。そして比留間君は逆にこっちへと歩いてきた。

 うわわ! 見つかってしまう。別に目撃するつもりじゃなかったのだけど。


 目があってしまう。もう発見されてしまったら居直るしかなかった。

「ごめん。昼寝していたら聞いちゃった。ああそうだ。

 次の時間自習だから、ここでお昼食べなよ。出席簿には○つけといてあげる」


 それからお弁当に食べようかと思っていたサンドイッチを渡す。

 ここ、気持ちよくって、なかなかよく眠れるからね。それだけ言って立ち上がろうとすると、腕をつかまれた。

「……」

「……?」

「あ、いや。うん、ありがとう」

 一瞬すがるような眼で見た後、何を思い出したのか比留間君は目を細めて少し微笑んだ。


 自習の時間、出席名簿の「比留間」の欄に私は○をつけておいた。

 その間、先ほどの目が気になって仕方なかった。どうして私はこんなにも比留間君のことが気になるんだろう。




 授業が終わった後、こっそり屋上に上がった。

 まだ比留間君は額にうっすら汗をかいたまま寝ている。あまりにもしんどそうだったので、起こそうとして肩にそっと手を触れる。すると少し楽になったのか、少し比留間君の表情が軽くなった。


「あ」

 起きてしまった。大丈夫かな?

 ふらつく比留間君を助けて起こすと、本当に気分が悪そうだ。

「早く保健室に行ったほうがいいよ。顔が真っ青だから」

 そう言うのだけれど、また額を抑えてうつむいてしまう。


「……少し夢見が悪いんだ」

 小さな声で、それだけ比留間君は言う。

「夢見が悪いなんて。ああ、誰か大切な人が横についていてくれたら、ましになるんだけど」


 そこまで話して、ふと私は止まってしまった。私にも、そんな人がいたような気がする。

 その感覚を知っている。不思議な話だけど知っているのだ。


 その間に比留間君は私の膝の上で寝てしまう。

 上から覗き込んだ比留間君の寝顔は、やっぱり端正だった。ずるい。


 吸い込まれるように、その寝顔に見入ってしまう。

 そしてそのまま……

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