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夢幻発掘抄  作者: アルタ
何故2回目の青春を送っているのでしょうか
24/44

第24話

 俺の目の前の親友は、よよよよよ……と泣き崩れるようなポーズを取ったあと、「もしかすると、とんでもない親友を持ってしまったのかもしれない」と言い放った。


「だってさ、だってさあ! 最近すげー可愛い彼女が出来て、すこぶる機嫌が良いのはともかくもさ」

 朝広と夕馬に会うたび彼女の写真を見せるくらいバカップルなら想定の範囲内でしょ?

 可愛らしく首を傾げてみるが、朝広はとんでもないとばかりに首を千切れんばかりの勢いで横に振った。

「2人の写真を綺麗に切り抜いてラミネート加工して、定期入れに大事にはさんでいるというのはいかがなものか!? 阿呆だろう! お前は!」


 叫ぶ朝広が面白くてついつい追い討ちを掛けてしまう。

「それで無理矢理キスしようとすると、無茶苦茶嫌がるんだよね。可愛いでしょ? そこを捕まえて言いくるめるのが楽しくて」

 クスクスと笑うと、お前は鬼だよ、と彼は肩をがっくり落として腹いっぱいだとでも言いたげにお腹をさすった。

 夕馬は音楽を聞きながら自分の世界にこもっていた。



 まあ、こんだけ強烈な印象を二人の心に残しておけば、きっと万夢のことも覚えていてくれるでしょ。

 半分、彼女の困ったような笑顔を見るのが好きで。

 半分、俺が楽しくてやっている。



 クスクスと笑いながらモニターに目をやった。今は夜神の屋敷で仕事の調整を行っている。

 世界中の情報端末とつながっているこの機械は、政府や一部の情報機関などともつながっており、大抵の欲しい情報であれば即座に手に入れることが出来た。欠点は情報量が多すぎて、目当ての情報にたどり着きにくい場合もあることと、真偽が怪しいこと。

 新聞などは、ここから情報を引っ張り出して、何をどう伝えるのか独自の取材などもあわせた上で発信しているため、別の角度から見た情報を見ると面白いなどと思ってしまう。


 さて、夢見に対する依頼はさまざまだ。依頼を掛けることができるのは、一部の人間だけであるが、力を手に入れた人間は使ってみたくなるというのが定石のようで、それこそ万夢の手を煩わせるようなものでないような依頼まで舞い込んできた。

 例えば、東の国の政界編成事情、行方不明の議員の過去、財宝を積んだまま沈んだ船の行方、隣の国の独立運動は成功するか、貴金属の相場、など大抵が金と権力にまみれた事項なだけにため息がでる。


 もっと前もって対策しておくとか、こんなことになったときの緊急マニュアルを作っておくとか、何とかすることが仕事だろうに。起こってから慌てて万夢の力を当てにするなんて。

 こんなものの為に、万夢が命を削って夢を見るのかと思うとリストを持っていく仕事ですらひたすら気が重い。まあ、大抵の依頼については伴野空太にそのまま横流ししているわけであるが。


 気が重いといえば、治安機関から渡される難事件・未解決事件に対する調査。

 社会的なニーズはあるのかもしれないが、自分達の仕事を限界までやってから渡しているようには思えないだけに腹が立つ。

 仮にも犯罪に関わることなのだ。一介の女子高生に見せるような内容ではないだろうにと思わざるをえない。もし、殺されるところや苦しむところを見てしまったら、いくら過去の夢だと分かっていても、辛いに違いない。


 プリンターの電源を入れて、今月のスケジュールを打ち出すと、ガションガションとプリンターが機械的な音を立ててインクを紙に滑らせていく。

 ああ、ここは全然生きているって感じがしない。万夢はこんなところでずっと、ずっと生活してきたんだなぁ。

 パタン、とパソコンを閉じながら耳を済ませるが、あたりは静かで物音一つ聞こえてこなかった。


 その細い肩に乗せるには重すぎる役目を持って生まれて、人のために働くことが当たり前だと思っている君に、人並みの幸せを。

 もっと笑った笑顔を見ていたいから、そう願おう。



「万夢、入るよ」

 ふすまをそっと開けて部屋に入ると万夢は、うたた寝をしていた。脇息にもたれながら、コクリ、コクリ、と頷いている。

 最近、俺がこまめに彼女にちょっかいを掛けるようになってから、ずいぶん彼女の容態は安定していた。


「もう! 英明君……私に生気を吹き込むということが、どういう意味なのか分かってない!」

「生命力を渡しているみたいなもんでしょ?

 大丈夫、俺こう見えても300歳くらいは生きそうって、よく言われるから」

「そういうことだけじゃなくて」

「いいでしょ。俺がこうしたいんだから、万夢は栄養剤みたいにでも思えば」

「思えるか!」


 そんな会話もできるくらい彼女の起きている時間が長くなった。

 まあね、俺だって長生きしたいとは思うんだけどね、万夢も一緒じゃないと嫌だなぁって思うんだよ。

 そこまでは彼女もなかなか気がつかないのかな。

 ほとんど習慣となってしまったように、額に手を当てる。

――大丈夫。

 生きていることを確認してから、そっと彼女を抱きしめた。


 ねえ、現実で夢を見ることと、夢で現実を見ること。

 万夢はどっちが多いのかな。

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