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9:食べれちゃったのよ

人が冬籠りの準備をするように獣達にも冬籠りの準備をする種がいる。

熊なんかがそうだ。

今回狩猟の依頼を受けたのは3軒でビックアントラースが2頭にアングリーベア1頭。

但しいずれも子持ちは狙わない様にし、熊は年間2頭までという制限もある。

私達も1頭ずつ欲しいところだ。


今回の狩りでは少し奥の方まで行くと言う事で泊りがけになるそうだ。

まぁ近場で熊が居ても嫌だけどね・・・

私も一緒に行く事にした。

図鑑で見て姿は一応知っているとは言え実物を見ておきたかったのと、狩猟のやり方を知っておきたかったのだ。

やるかどうかは別として知識として知っておけば、いざという時に役立つ事だってあるからね。


「狩れるまで戻って来ないから長丁場になるかもしれないぞ」

「それでも後2週間でビックアントラースとアングリーベアの狩猟期間は

 終わりなんだよね?」

「そうだな。だからそれまでには確保したい」


2週間分の食料の準備をと思ったけど、2~3日分でいいと言われた。

現地調達するとの事だった。

何よりも着替えがそれなりに必要になるからだそうだ。

確か濡れたら早めに着替えるようにするんだっけか。

今回行く場所は時々利用する場所らしくて、小屋があるのだそうだ。

小さな暖炉と鍋くらいはあるらしく、持って行くものは本当に着替えが主になりそうだった。

さっそく町の人々に貰ったものが活躍しそう。


クィーンにそりをくくり付けて、荷物を載せたら出発だ。

私にとって初めての森の奥地となるので少し楽しみでもある。


現地に到着して私は驚いた、というより喜んだ。

小屋の周辺に小振りではあるものの林檎がなっていたのだ。

まさかこんな極寒の地で、しかも森の中で林檎をみつけるとは思わなかった。

荷下ろしをした後さっそく1つもぎ取って丸かじりしてみる。

少し酸味が強いけどちゃんと林檎の味がする。

日持ちする果実だし、これは帰る時に収穫して行こうと思う。


「ガラは森でしか採れないから町の人にも喜ばれるぞ」


なるほど、ここではガラと呼ばれているらしい。

他にもグラニーと言う青林檎とアルプスという姫林檎は町の近くでも摂れるのだそうだ。

そのまま食べてもいいし料理に使ってもいいし、ジャムやジュースにも加工できる。

昔は医者いらずとも言われてたんだっけな確か。

1日1個食べていれば健康で居られて医者に掛かる必要がないって事らしい。


「ねぇニクスさん、ビックアントラースってこれ?」

「そうだが、どうかしたか?」

「いやなんかね? 想像と違った・・・」


名前からして大きな鹿、ヘラジカみたいなのを想像していた。

図鑑にもヘラジカみたいな絵が載っていたし?

だけど実物はちょっと違った。

遠目に見れば確かにヘラジカっぽいのだけどね?

体高が2mくらいはありそうで、明らかに私よりは高い。

そして角の大きさも同じくらいある。

それでもって太い犬歯がチロッと口から覗いている。

鹿なのに太い犬歯って、草食じゃないんだろうかと聞いてみれば


「さすがに肉は食わないがたまに魚も喰ってるぞ」

「マジか・・・」


雑食って事でいいんだろうか・・・


このビックアントラース、捨てる部分は内臓の一部だけらしい。

レバー、や肺、心臓なんかは食べる事が出来るので有難く取り分けておく。

頭部も全部食べれるのだそうで・・・私的に脳みそや目玉はちょっと無理かも。


なんて思っていた時期がありました。

いやね?考えてみたらさ、鮪や鰤の目玉とか食べていた訳だしね?

そう思ったら食べれちゃった訳で、しかも美味しかったのよね。

いやぁ人間て凄いね、ある程度の環境下でも順応出来るものなのね・・・


自分達の分は捌いて切り分けたけど、委託された物については内臓だけ抜き取って渡すらしい。

まぁ捌いてしまったら製品になりそうだもんね。


狩りは順調だった。

ビッグアントラース以外にもマスクラットも取れた。

このマスクラットは毛皮が手袋なんかに使われるので売れるのだ。

お肉も量は多くないけど美味しいらしい。

但し・・・私の知っているマスクラットとはやっぱり違っていて・・・

本当にマスク被ってますか?みたいな顔をしていた。

顔だけ毛の色が違っていてデストロイヤー(プロレスラー)みたいになってるのよ・・・

え? 若者は知らないって? あら、そう・・・

マスクラットはさすがネズミだけあって、狩猟期間や制限がなく通年狩る事ができるみたい。

最初はネズミだしと抵抗があったんだけどね。

アジア人ってナマコだのホヤだのも食べるじゃない?

そう考えたらネズミくらい大丈夫じゃないかと思えたのよ。


食料に関しては本当に現地調達で間に合った。

マスクラットやウッドチャックが割と獲れるからだ。

蔓で作ったくくり罠を設置しておくだけでいい。

前の世界のような金属製の物とは違って輪っかの中に手足や頭が入るとキュッと絞まるだけなので、毛皮を傷付ける事も無く頭を突っ込んで居なければ生きている。

トドメを指す事にやはり最初は抵抗があった。魚は平気なのにね・・・

けどこれも生きる為なのだからと割り切るようにしているし、体付きが小さく生きている個体は逃がしてやる。




そして私は今非常に戸惑っている。

ニクスさんは狩りに出かけたので、私は罠に掛かっていたマスクラットやウッドチャックを解体していた。

ずっと同じ体制で腰が痛くなったので立ち上がって伸びをしたら、熊さんと目が合ってしまったのよ。

まさか小屋のすぐ横で行き成り遭遇するなんて思ってもみなかった。

いや、森の中なんだからいつ遭遇してもおかしくない、その可能性を考えておくべきだった。

さて困った、どうした物か。

えーっと、ヒグマに出会った時の注意点はなんだったっけ。

大声をださない、驚かせない、急に走り出さない、背中を見せない、目を合わせないだっけ?

そう思ったけどすでに熊さんとは目が合ってしまっている。

この場合先に目を逸らせた方が負けなんだっけか?

弱気な態度は見せられないが、緊張して変な汗をかいてしまう。

すると熊さんがガバッと立ち上がり・・・  へ?

立ち上がった熊は明らかに顔と体の大きさが比例していない。

ライオンカットのポメラニアンみたいだと言えば解かり易いだろうか。

なんで? と言うか本当にクマなのこれ・・・

よくよく見ればアバラも浮き出ているような気がする。

どうしよう、ここで変な情けを掛けるべきではないのかもしれない。

でもどう見てもなにか変だし、下手すればまだ子熊のような気もするし。

えぇい、今回だけよ? 今回だけだからね?

捌き終わったマスクラットやウッドチャックの内臓を足でチョイチョイと一か所へ纏めて、ゆーっくりとしゃがみ込んで必要な部分を抱える。

そしてゆーっくりと立ち上がって後退して、小屋の入り口で様子を見る事にした。

万が一の事を考えて一応手斧も握りしめて入るが、出来れば使いたくない。

熊さんはフンフンと周囲の匂いを確認した後前足を降ろし警戒しながら内臓の山へと近付いて行く。

露わになった熊さんの全容は思ったよりも小さくて1mちょっとくらいしかなくてやせ細っていたし後ろ足をひきずるような感じで歩いていた。

私は警戒しながらも、熊さんが内臓を食べる様子を観察していた。

噛み切れないのかずっとクチャクチャしていて、前足で押さえながら引きちぎろうと苦戦しているようだ。


「どうした?」

「う・・・」もごもごっ


驚いて叫びそうになった自分の口を押えた。

音もなく近付かないでいただきたい、私の心臓に悪いじゃないか。

ニクスさんに目で合図して熊さんの事を伝える。


「これはノユクの子じゃないか」

「ノユク?」


ノユクと言うのは善良な熊と言う意味で、森の主とされている熊なのだそうだ。

つまりこの熊さんは森の主さんの子?


「それにしては頭でっかちのがりがりのような」

「ああ、頭が大きく見えるのは

 首の毛が襟巻の様にフサフサとして少し長いからなんだ」


なるほど、毛がフサフサのモコモコなのか。

にしても痩せすぎよね。

と言うかやはり子熊だったのなら親は何処にいるんだろう。


「恐らく何かしらの理由で親に見捨てられたのかもしれんな」


どうやらそのノユクと言う熊は子を2頭産むのだそうで(つまり双子よね)

遺伝疾患だったり身体的疾患だったり、病弱や怪我など弱い方の子は見捨てられるのだとか。

さすが自然界、厳しいなと思うけどこれは人間の飼育下にある動物でもありえる事だ。

うーん、これはこのまま関わらない方がいいんだろうなぁ。

ノユクは余程の事がない限り人を襲う事が無いそうなので様子を見る事にした。

内臓くらいならあげるからさ、せめて1人でも頑張れるように少し太って欲しいな・・・


読んで下さりありがとうございます。

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