4:不思議な世界観よね
昼食後はあちこちで必要な物を買った。
ほぼ私の物なのだけどね。
物価の感覚としては日本よりは少し安いように思う。
ニクスさんに聞けば食器は1人分しか無くて、鍋も2つしかないと言うので買い足した。
せめて弟である司祭様の分くらいコップだけでも用意しておこうよニクスさん・・・
食材も普段野菜はあまり食べないとの事だったので、食べたら駄目な物を聞いてみた。
ほら猫科だとタマネギNGだったりチョコレートNGだったりとあるじゃない?
だけど獣人にはそういうのが無いみたいだったのだけど、人参は嫌いなんだそうだ。
おこちゃまか!と思ったけど口にはしない。
だって司祭様もだっていうんだもの・・・
取り敢えずは野菜や果物もある程度買い揃えておいた。
寒いから地下の保存庫に入れておけば日持ちするらしい。
行く先々でオマケにと棒付き飴やクッキーなどを貰ってしまった。
子供じゃないんだけどなぁと思ったけど、100歳未満は子供扱いでいいらしい。
解せぬ。
買い物を終えてニクスさんの家へと向かう。
荷物が結構な量になったけど大丈夫なのか心配だったが、あの巨漢の馬だから大丈夫だったみたい。
デストーリャという種類の黒馬で「黒王号」の文字が浮かんだのだけど、名前は「クィーン」だった。
女王様でしたか、失礼しました・・・
ニクスさんの家は森の中を流れる川の近くにあった。
少し高台になっているのは雪解け時期に川が氾濫する事もあるからなんだそうな。
町からはクィーンで30分、他の馬だと1時間かかるらしい。
家はログハウスのような見た目で、中は1階部分がLDKとトイレやシャワールームがあった。
2階部分には3部屋あって、右の部屋がニクスさんの部屋になっていた。
空いている部屋のどちらを使ってもよいとの事だったので真ん中の部屋を使わせて貰う事にした。
アパートなんかもだけど、角部屋って寒いと聞いた事がある。
部屋も決めた事だし、買って来たものを仕分けしてそれぞれの場所に収めていく。
私の物は後からでもいいから、キッチン周りの物からだね。
キッチンにはペチカの様な物があった。
なるほど、これで料理もするのかな。
パンやピザも焼けそうだし、冬も温かそうだ。
勝手口のような物もあって保存庫や薪置き場に行けるようになっているし、水を溜めてある大樽にも近くていいね。
調理器具や調味料などは自分の使いやすいように並べてくれとの事だったので私の使いやすいように配置させてもらった。
さて収納が終わったので簡単に掃除だ。
本格的には明日やるとして、簡単にでも掃除しておかないと床の砂利とか気になってしまう。
これはきっと私が日本人だからだろう、家の中で土足のまま生活した事なんてないからね。
時間がある時に泥を落とす玄関マットでも作ろうかな。
丈夫な木の繊維があれば編み込んで作れるんだよね、市販のみたいに立派な物ではないけれど。
無ければ無いでその内慣れるんだろうけどね。
ささっと箒で掃いたら、早速夕飯の準備だ。
ニクスさんが私の国の料理を食べてみたいと言ったので、悩んだ。
醤油や味噌が無いので思い浮かぶのは魚の塩焼きや酢の物になる。
あ、塩漬けの魚があれば三平汁なら作れそうだ。
保存庫へ行ってみれば、魚の切り身の塩漬けがあった。
オレンジ色の切り身なので鮭か鱒だといいのだけど、違ってもそれっぽい物には仕上がると思いたい。
一緒に煮込む根菜も取り出して調理を開始した。
結論としては、味的にあの切り身は鮭だと予想。
米があれば良かったんだけど無いので仕方がない。
何処かで味噌や醤油も手に入ればいいんだけど、麹でもいいなぁ。
無い物ねだりをしても仕方がないとは思うけど、あればいいなと思うくらいいいじゃないか。
ニクスさんの口には合ったみたいでお代わりまでしていた。
パンと三平汁、私的には微妙だ。
食後の後片付けを済ませ部屋へと戻る。
買ってきた服をクローゼットに仕舞い、ベッドの上に布団をセットする。
夏用の掛布団はジャイアントハーゼと言う大型のウサギの毛皮なんだそうだ。
何枚もを縫い合わせているのかと思ったら1頭分だと言うので驚いた。
お肉も美味しいらしいのだけど、夏場は狩猟禁止になっているそうだ。
このフワフワの毛に包まれたお陰でぐっすりと眠る事が出来たのだった。
次の日、朝食はオニオンスープとソーセージ、サラダにパンと簡単な物にしたのだけど、ニクスさんは喜んでいた。
これまでパンとお茶で済ませていたのだそうだ。
食後ニクスさんは狩りへと出掛けると言う。。
この時期はビッグアントラースというシカの雄の狩猟期間なのだそうで家庭用は1世帯当たり1頭、狩人の場合は自家用1頭と販売用1頭が認められているのだとか。
町の役場で許可申請を出して許可証を貰って、販売する時も役場で検印を押してもらうそうだ。
面倒くさいなと思ったけど乱獲や密猟を防ぐためだと聞いて納得した。
ちゃんと森林警備隊や山岳警備隊もあるんだそうな。
あれ、役場があるのなら住民登録とかしなくてもいいのだろうかと思ったのだけど、住民登録は成人してからするのだそうだ。
この世界はどの種族も長寿で20歳くらいまでは成長するけど、そこからはほぼ変化がなく、獣人で言えば900を過ぎたあたりからゆっくりとまた成長(老化)していくのだそうだ。
100歳を過ぎるまでにいろいろな事を学び、独立してやっと成人と認められる。
出生率も高くはないらしく1家庭で1~2人くらいなのだとかで、どの種族も子供は町ぐるみで大切にするのだとか。
そして医療体制もそこまで整っている訳ではなさそうなので、体力的にも知識的にも未熟な未成人は生存確率が成人よりも低くなってしまうらしいのだ。
なるほど、思ったよりも過酷な環境のようだ。
私も病気やケガには気を付けないとだな。
夕方まで帰ってこないと言うニクスさんにサンドウィッチを持たせて見送り、私も仕事を開始する。
天気がよいのでまずは洗濯からかな。
洗濯は川でするらしいので、洗い桶と洗濯板を持って行く。
次に洗濯物・・・随分と貯め込んだねニクスさん。
まぁ遣り甲斐はありそうだけども!
一応石鹸もあったので気合を入れて洗っていく。
おぉ、肩が辛くない!やったぜ、アリェーニャ様ありがとうとここは素直に感謝しておく。
この石鹸、汚れ落ちも泡立ちも泡切れも良くてほんのりといい匂いがするので植物性だろうか。
いや待って、いい匂いがするって事はもしかして洗濯用じゃなくてシャワー用だったり?
もう半分以上やっちゃってるし今日はこのままでいいか・・・
終わったら確認しておこう。
全部を干し終わった頃には日差しも温かくなっていた。
やはり手でやると時間が掛かるけど今日は大量だったし、明日以降はもう少し短時間で終わるんじゃなかろうか。
腰が痛いのでお水を飲みながら少し休憩。
昨日宿屋や町の中を見て思ったけど、電気やガスと言ったものはなさそうだった。
明かりはランプや蝋燭、調理は竃やペチカ。
シャワーは使用する前に専用のタンクにお湯を溜めて使うし、トイレは町中だと専用水路の上に設置されたボットンで天然の自動水洗みたいな感じだった。
ここでは完全なボットンなのだけど、土壌細菌が多いのか悪臭なども無くて助かっている。
ただトイレットペーパーも無いので葉っぱで拭くのにはまだ慣れていない。
身分証明証みたいにパパッと魔法ですかみたいなのもあれば、昔ながらの物もある。
なんとも不思議な世界観だ。
よし、休憩終わり!
掃除を早く終わらせて玄関に置く泥除けマットを作りたいし、庭らしき部分の草引きもやってしまいたい。
箒を手に取り気合を入れる私だった。
読んで下さりありがとうございます。




