3:ペカッじゃないのよ
「ちょぉーっとどういう事か詳しく説明してもらえるかな」
誘拐犯の神様とはまた別な神様の頭を拳骨で挟んでグリグリしながら聞いてみる。
何をしているのかと言うとね?
宿屋を出てまっすぐ教会に来た。
そこで司祭様であるニクスさんの弟と対面し、事情を話してお祈りと言う名の文句を言わせて貰ったのだけど。
教会に祀られていたのは鹿の角を生やした女神様だった。
あの誘拐犯とは違うけれど同僚と言うか同族なんだからきっと伝えてくれるだろうと、長々と文句を思い浮かべたのよ。
するとなにやらペカッと光り輝いたかと思えば真っ白な空間にまた居て、ニクスさんと司祭様まで一緒に居たのよね。
そこで取り敢えず荷物は返すけどもこの世界にある素材に相互変換した物になると言われて、鞄はまぁいいとしよう。
カロ〇-メイトもそのまま梱包用紙が無くなっただけでまだいい。
家の鍵が鉄のインゴットになってて、スマホがただの木彫りになってるのよ!
木彫りってなにさ、レアアースだのなんだの金属類もあったでしょうが!
どういうことよと説明求めてもおかしくないでしょこれ・・・
「いたたたっ、解らないんですよ私にも!」
「解らないって言ったって相互変換させたのアナタでしょうがよ!」
「そうなんですけど、わからないんです~」
スマホの中には猫の写真や動画、もうすぐ生まれて来るはずの初孫のエコー画像に無くなった両親との写真とか思い出が詰まっていたのに・・・
そうだよ、初孫の誕生に立ち会えなくなったじゃないか!
グリグリと少し力を強めて見る。
「スマホの中の写真とかどうにかならなかったの?」
「こちらには写真と言う物がございませんので」
「そこは肖像画に置き換えるとかさ」
「はっ、その手がございましたね・・・」
「忘れてたんかーい!」
グリグリッとさらに力を込めて見る。
「いたたたっ」
「あのキヨカさん、少しばかり手を緩めて頂く事は」
「司祭様、私信者でもないし不敬とか気にしないので」ニッコリ
「だがキヨカ、そのままでは話も出来ぬのでは?」
「ん? それもそうか」
痛いとしか言わなくなったもんね、この神様。
「それでですね、勝手に連れて来ておいて
人違いでしたと適当に放り出された訳なんですがどう思われますかね?」
「それは誠に申し訳なく。上司にも報告しておきましたので」
「初孫の誕生に立ち会えないし、
見る事もか叶わなくなったと重々お伝えくださいませね?」
「はい、それはもうこのグリグリの痛さと共に伝えますので」
あの軽口な神様はそのうち罰せられる事になるそうだ。
だから何?としか思わないけどもね。
私に関してはやはり元の世界には戻れないそうで、お詫びと言う訳では無いけれどこちらの世界に順応させた体にしてくれるらしい。
鞄の中身もスマホ以外はちゃんと相互変換出来たようで、少しばかりだけどこの国のお金を手に入れる事が出来た。
スマホに関しては上司と相談するので少し時間をくれとの事だった。
なにやら加護を授けるとか言ってたけどそれは断った。
司祭様は勿体無いと言っていたけど、ヘタに加護とか貰ってお偉方に目を着けられても面倒くさいではないか。
と思ったのだけど1つ思いついた。
「加護は要らないけどさ
代わりにニクスさんの肩の怪我って治せたりしないかな?」
「治す事は問題なく出来ますが、それでよろしいので?」
「肩が思う様に動かないのは辛いからね」
「経験がおありで?」
「あるある、五十肩で肩があがらな・・・って何言わせるのよ!」
「お、お二人の肩を治させていただきますね」
「後ですね、今後何か用事がある時は司祭様経由でお願いしても?
一般人がそうそう神様と対面したら駄目だと思うんですよね」
「確かに、ではそうさせていただきたく。司祭殿もよろしいでしょうか?」
「承知いたしました」
「では今回はこの辺で、また会う日までごきげんよう~」
「はいお疲れ様でしたって、ちょ待って!」
また会う日までごきげんようじゃないでしょうが!
あぁぁぁ、ペカッって光のシャワー浴びせないでもろて・・・
「嫌な予感しかしないんだけど?」
「んむ、今のは間違いなく祝福を受けたような?」
「3人で鑑定してみましょうか・・・」
「鑑定?」
なんでも生後1年までに洗礼と鑑定を受けて身分証明証を教会から発行して貰うのだとか。
その後は成人と認められる100歳でもう一度鑑定を、これは成人までに加護や守護など変化がある事があるからだそうな。
成人後は余程の事がないと加護や守護が付く事はないので鑑定を受けなくても良いらしい。
まぁ3人共成人済みだけど、たったいまペカッと光のシャワー浴びてしまったしね?・・・
しかも私加護いらないって言ったと思うんだけどな。
部屋を移動し謎の石板がある部屋へとやって来た。
なんだろうこの石板、黒光りしてるし黒曜石とかかな。
「こちらの石板に手を乗せていただければ
初めての方だと鑑定結果が身分証明証として発行されますので」
ニクスさんや司祭様の様に再確認や情報更新の場合は身分証明証も一緒に乗せるのだとかで、まずはニクスさんがやってみせてくれた。
フワッと淡い緑の光が浮かんで消えた。
「ふむ、アリェーニャの加護(森)と言うのが増えたな。
森で遭難する事が無くなり、獲物を見つける確率が上がるのだそうだ」
「兄さんにはありがたい守護ですね。では次は私がやってみますね」
フワッと白い光が浮かんで消えた。
「アリェーニャの祝福(光)とありますね。
神託を受け取る事が出来、魔除けの護符(中級)まで製作可能。
うわぁこれ私司祭ではなく司教に任命されそう・・・」
「おめでとうございます?」
「まぁこの地区には今司教が不在なのでいいんですけどね」
「では次、キヨカ。やってみてくれ」
言われて石板に手を置くとフワッと赤い光が浮かんで消えた。
「えーと・・・」
石板の上に現れた身分証明証を3人で覗き込む。
名:キヨカ 性別:雌 年齢:56 種族:人族亜種
戦闘スキル:包丁捌きA 害虫駆除A 素手S
生産スキル:料理A 裁縫D 調薬C 農作業B 庭師B
特殊スキル:不動尊の加護 無病息災・厄除け・商売繁盛
アリェーニャの加護(炎) 小さな災厄は払いのける事が出来る
「色々と突っ込んでもいいかな?」
「言わんとする事は解かる」
「加護が付いているのでこの不動尊というのも神でしょうか」
「不動尊はこの世界で言う神と同じですね。私の守護仏でもあります」
と、ここで守護仏の考え方について話しておいた。
私達の国では十二支と言う物があり生まれた年によって12の干支に別けられている。
その干支によってそれぞれの守護仏が決まって居て見守ってくれていると言われている事。
それを聞いて2人は納得したようだった。
この世界にも12支天と言って12人の守護天使が居るという考え方があるのだそうだ。
まぁそれはいいとしてだ・・・
この人族亜種ってなんですかね?
戦闘スキルが包丁捌きと素手ってなんですかね?
裁縫スキルのDとか載せなくてもいいんじゃないですかね?
無病息災や厄除けは解かるけども商売繁盛は無くても、いや何かの役に立つのかな・・・
そして最後の小さな災厄は払いのけるってなんですかねぇぇぇ?
異世界にも関わらず守って下さる不動尊様には感謝しかないのだけれどもね?
出来ればもう少し説明が欲しかった。
普通に暮らしていれば大丈夫よね、たぶん・・・
「特殊スキルに関しましては本人にしか見えませんし・・・」
「でも今お2人にも私の見えてましたよね?」
「「 ・・・ 」」
「一般的に、普通は司祭以上にしか見えないので大丈夫だと思います!」
「まぁ提示する事などめったに無いしな・・・」
「そ、そうよね。見せなければいいのよね」
時々は教会に顔を出すと言う事になり、私とニクスさんは司祭様と別れて商店街へと向かった。
日はすっかりと高くなっており、気が付けばお腹もすいているのでお昼前後になっているのだろう。
教会で長居し過ぎたようだった。
「先に昼食にしてそれから買い物にするか」
「だね、お腹すいたかも」
ニクスさんお勧めの定食屋でご飯を食べる事にした。
私はお任せランチプレートと言うのにしたのだけど、ニクスさんは分厚いソテー肉に齧りついていた。
さすが肉食獣と言うべきか若者と言うべきか・・・
会計の際、お店の人に棒付き飴を貰った。
やはり子供に見えるらしい・・・
読んで下さりありがとうございます。




