25:勘弁して欲しい
のーんびりとした穏やかな日々を過ごして居る。
そうは言っても家の外はえらいこっちゃな猛吹雪である。
前に居た町よりも北に位置するだけあって寒さも厳しいしね。
こんな猛吹雪の日は誰も外に出ようとはしない。
雪掻きなんぞは風が収まってからだ。
それなのにパパスさんがやって来た。
バパールおじさんみたいに熊の姿で・・・ビックリするじゃないよ。
吹雪の中来るのだから余程の事があったんだろうとは思うけど何事だろうか。
「どうやら質の悪い風邪が流行っている様なんだ。
警備隊の方でも寝込む人が増えているから2人も気を付けておくれ」
どうやら発熱が続き嘔吐や下痢の症状が続くのだとか。
胃腸風邪に似ているような気がしなくもない。
まぁどんな風邪であろうと発熱が続くのであれば気を付けたいのは脱水である。
これ本当に気を付けないとヤバイのよ。
熱でトイレに行くのもおっくうだからと高齢者なんかは水分補給しなかったりするんだよね・・・
中には粗相の始末が嫌で水を飲ませないっていう家族も居たりで勘弁して欲しいのよね。
命の危険も出て来るんだから水分摂取はホントして欲しい。
「パパスさん、発熱が続くのであれば脱水には気を付ける様に
水分をこまめに摂る様に伝えて貰えますか?
後は空気の乾燥もよろしくないので、室内で洗濯物を干すなり
常にペチカの上でお湯を沸かすようにする事も」
「なるほど、それで治るのかい?」
「治ると言うよりは予防と悪化を防ぐ感じですかね・・・
ここら辺に自生するラブラドールティーが薬の代用にはなるかと思います。
お茶にして飲むとよいかと思います。
生姜湯なんかもお勧めですよ。
後は体調が悪いなら無理せずしっかりと寝る事かな」
「解った、皆に伝えよう。2人も体調には気を付けておくれ」
「はい、パパスさんも気を付けてくださいね」
さっそく皆に伝えて廻ると言ってパパスさんは帰って行った。
この吹雪の中ご苦労様です・・・
さてと、うちも予防対策はしておこうかな。
とは言っても乾燥対策でペチカの上には常に水の入った鍋がのっているし、お茶は普段からヤナギランやレモングラスやラブラドールティーだしなぁ。
どれも森や川辺で見つけて来たハーブだ。
レモングラスは漢方だと香茅と言われていて、風邪による頭痛や胃痛、関節痛、下痢などに効果があると言われているんだよね。
ラブラドールティーなんかは北極圏の人達が薬として重宝してらしい、日本じゃあまり聞いた事無かったけどね。
どちらもビタミンCたっぷりなので普段からお茶として飲んでもいい。
何故そんな事を知っているのか、元々ハーブやアロマが好きだったというのもあるけど勤務先の病院でハーブやアロマの講習があったんだよね。
西洋では早くから医療として認められているらしくて、介護にも取り入れようと言う医院長の考えだったみたいね。
その知識がこうやって役に立っているのだから有難いよねぇ。
あの医院長、ちょっと天然な所もあって親しみやすい人だったけど元気なのだろうか。
はっ、思い出している場合じゃないよ・・・
風邪の予防って事で料理にも生姜やシナモンを使った物を取り入れて行こうかな。
ジンジャーシロップも作っておこう。
そう言えばリックス兄さんは大丈夫なのだろうか。
教会だと色々な人と接触していそうだし心配だ。
色々と体によさそうな物を作って差し入れに行こうかな・・・
そう考えていたらニクス兄さんも行くと言うので2人で行ってみる事にした。
ニクス兄さんは獣姿で、私は変化出来ないからノワールがソリで運んでくれると言う。
生姜や大蒜、ハーブに蜂蜜を鞄に詰め込んで出発。
ぅおおぉぉ・・・
怖い怖い怖い怖い、飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ、さぁーっむいっ!てか痛いっ!
アノガジェやカーミックを身に着けてはいるけども、更にその上から毛皮ですっぽり覆われてはいるけどもっ!
過去最強の吹雪よこれ! ウヒィィィ・・・
なんとか教会に辿り着いた。春先とかだと10分で来れる距離なのにね・・・
中に入って見ればこれまた驚いた。
野戦病院ですかねって状態になっておる。
駄目だこれ、私はまだしもニクス兄さんなんか絶対免疫がないと思う。
一般的には極寒の地、北極や南極なんかは寒すぎてウィルスが死滅すると言われてるくらいだから、本来ならばここの人達だって風邪なんかはひく事が無いはずだ。
じゃぁこの状況はいったい・・・
考えるのは後だ、ニクス兄さんにはひとまず家へと戻って貰った。
そしてリックス兄さんの姿を探す。
「リュン!来てくれたのですか」
「あ、にぃ・・・ 司教様」
リックス兄さんに状況を説明して貰う。
どうやら例の捜索隊の中に人族の騎士が何名か居たらしく、その騎士達が咳き込んでいたらしい。
なるほど、人族にとっては軽度の風邪や引き始め程度だったとしても免疫が無い此処の人達に移ってしまえば重症化するという訳か。
王都から始まり旅商人の移動と共に周辺にも広がって行ったと・・・
医師や薬師が居るような町は対応できているみたいだけど、此処みたいに医師も薬師も居ない町だとねぇ・・・
えー・・・
私民間療法とかばぁちゃんの知恵くらいしか知らないわよ?・・・
多少のハーブの知識はあっても薬師ほどではないし・・・
まぁ何もしないよりはいいのかしらね?
まずは症状が出てない人を集めて、手洗いうがいの徹底とこまめな水分補給をお願いした。
その後でファイスガードや布で鼻と口を覆う様にとも伝えた。マスクの代わりだよねぇ。
次に部屋を暖めて加湿する事も教えた。
教会に集められているのは重症者で、これはリックス兄さんの判断で行ったそうだ。
ナイスだよ兄さん!
リックス兄さんに教会にあるハーブを見せて貰う。
おや、ティーツリーがあるじゃないか。
ならば加湿の為に沸かしているお湯の鍋にティーツリーを1つまみ落とすように頼んだ。
後はラブラドールティーのお茶を皆に飲ませるようにしてもらう。
さてと、それじゃ私はサムゲタンでも作りますかね。
一応は薬膳らしいんだけど、体を温めてくれるし生姜も大蒜もたっぷりで栄養もある。
風邪を引いた時なんかはお勧めの1品だ。
本格的なのは無理だから簡単なのを作るわよ!(大量に必要なんだもの)
まずは肉の下処理、ダシも取りたいから今回は骨付きのロックバード肉を使う。
骨が太くて苦戦していたら神父様が手伝ってくれた。
ぶつ切りに出来たら30分ほど水に漬けて血抜きをしておく。
その間に野菜の準備だ。
大根と人参はいちょう切りに(大根ってあるの?!) ネギは斜め切りにしていく。
生姜と大蒜はすり鉢で摩り下ろしていくのだけど、量がが半端ない。
私の腕と鼻が悲鳴を上げていると下働きのおばちゃんが手伝ってくれた。
血抜きが終わった骨付き肉を鍋に入れて、水、大蒜生姜、ネギ、もち米の代わりに大麦とオーツ麦を入れる。
後はとにかく煮込む、グラグラと沸騰させないように煮込むのがお勧め。
しばーらく煮込んでいると骨から身が剥がれ掛けているのが見えてくると思うのよ。
そうしたら野菜をどっさり放り込んでまた煮込む。
骨付きだから骨髄もとろけて程よいトロミもつくしね。
野菜に火が通ったら塩胡椒で味を調えて完成!
食べる時には骨を取り出して、身をほぐしてから器によそってね。
大根も人参も柔らかくなっているし、お肉もホロホロになっているから食べやすいんじゃなかろうか。
食欲がなければスープだけでも飲んで欲しいものだ。
次の日は南瓜でポタージュを作った。
南瓜はビタミンAとカロテンが豊富で栄養価も高いし風邪にもいい。
ほら、冬至にカボチャ食べたりするでしょ? あれって理にかなっているのよね。
昔の人って栄養価が~なんて知らなかったろうけど、経験で南瓜を食べれば風も引かずに冬を乗り切れるって知ってたんだろうな。
3日もすれば寝込んでいた人たちの症状も落ち着き、微熱程度が残っているだけみたいだった。
うん、これは山場を越えたって事でいいのかな? 良かったよ。
自宅へ戻っても手洗いうがいと部屋の加湿は続けてねと言っておいた。
「リュンのお陰で助かったよ」
リックス兄さんにそう言われて私もほっとした。
脱水や下痢なんかも放置しておけば死者が出た可能性だってある。
皆回復して本当に良かったよ。
それにしても人族の騎士さんよ、病原菌を持ち込まないで欲しいんですけど?
大自然と共に生きている人ってめったに病気にもならないし、病気になると重症化する可能性も高いのだから勘弁して欲しいのだけども?
と言うかまだ居たの? さっさと自国に帰りやがれですよ!
読んで下さりありがとうございます。




