24:何でいるのよ
冬が始まった。
まだ雪がそこまで積もっていないし川も完全に凍っている訳ではないのだけど、寒い。
冬はジャイアントハーゼの狩猟が解禁となる。勿論子連れはNGだ。
他にもイタチやクズリなんかも罠に掛かったりもするが、あくまでも天候次第だ。
さすがに強風の中出掛けるのは無理だし、土地勘がなければ戻って来れなくなってしまう。
一面銀世界と言えば聞こえが良くて綺麗な風景が浮かぶかもしれないけど、段差とか氷の割れ目が解りにくいので非常に危険だったりするのよね。
なので私は極力家から出ない、と思う・・・
去年はほぼ家から出なかったけど、ここの方が冬が長いみたいだからね・・・
食材は考えて使って行かないとなんだよね。
野菜類や雑穀類なんかは蓄えているとは言え春まで持つ訳がなく、真冬になって来れば脂が大事になってくるんだよね。
骨髄なんかはご馳走扱いされている。
最初は骨髄食べるの?!とぎょっとしたけど、考えてみたらさ・・・
牛筋は好物だったし、骨付きのすね肉やテール肉のスープやシチューを作った時なんかは骨の中のプルプルしたやつたべてたし。
あれって骨髄だったのよね・・・
極寒の地に住むなら脂身はとても大事になって来る。
日本だと脂は健康に悪いってイメージだったけど、ここでは逆だ。
「しっかり脂を食べないと病気になる」と言われるのよね。
これは野菜や果物が枯渇する冬に脂からビタミンやミネラルを補給するからだそうだ。
そして脂は言わずと知れた高カロリー、体温維持の為にも必須らしい。
胃もたれしそうって思うでしょ?
意外とそうでもないのは体がこの世界に適応しているからだろうか。
元の世界でもウサギ飢餓という言い方でタンパク質中毒があるらしい。
赤身の肉ばかり食べていると栄養バランスが崩れて下痢、吐き気、満たされない空腹感などの症状が出るらしい。
だからって脂だけ食べても駄目だし、要はバランスよく食べましょうって事だよね。
昔ダイエットで脂抜き(油抜き)が流行ってたけど、程度な脂摂らないとお肌がガサガサになったりもするんだよね。
歳取れば脂食べててもお肌ガサガサだけどね・・・ ふっ。
いやそうじゃなくて・・・
ニクス兄さんが軽自動車くらいの猪を獲って来たのよ。
ビックマウンテンと言う名前らしい。
うん、なんだろう。すごくしっくりくるよ。
冬なので脂もしっかり蓄えられていて丸々としてフォルムだけなら可愛いかも。足短いし。
このビックマウンテンの脂と血を使って料理本に載っていたムスタマッカラを作って見ようと思う。
所謂血のソーセージなんだけど新鮮な血じゃないと作れないらしいからね。
えーと、なになに。
大麦を軽く茹でて、タマネギをみじん切りにして炒めて? 目が痛いじゃないのよ。
脂身も小さく切って、痛めたタマネギが冷めたら全部混ぜて味付けして。
え?血はどこでいれるのよ。
あぁ、混ぜる時に血も一緒になのね。だったらそう書いておいてよ。
味付けはハーブと塩胡椒にしておこうかな、だってお好みでとしか書いてないのよ。
隠し味でショウガと大蒜も少々追加、こんなもんかな。
それで? 綺麗に洗浄した腸に詰める。
どの部位の腸使うのさ・・・小腸でいいのかな、よし小腸にしてみよう。
ぬぅん、竹鉄砲みたいなのが欲しい、押したらにゅるんと出てくる奴!
悪戦苦闘しながらもなんとか詰め終わった。
後は弱火で茹でて燻せばOKだ。
正直、あの竹鉄砲みたいな腸詰道具が無いなら二度と作りたくはない・・・
これならゼラチンで固めて血のムースでいい気がしたよ。
ビックマウンテンの肉は大量になりそうだし、レザールさんとベリアさんにも少し持って行こうと思う。
ノワールに小さなソリを付けてそこにお肉を乗せて出発。
ニクス兄さんはまだビックマウンテンを捌いている、頑張れー!
届けると凄く喜んでくれた。
そしてパパスさんに大量の飴ちゃんを貰ったのだけど一冬分はありそうだ。
家に戻ってくるとまだ捌き終わってなかったので手伝う事にした。
短い脚の割に骨太だな、これなら骨髄も多そうだ。
捌き終わった時には日暮れ近くになっていた。
けっこう時間が掛かったな。
急いで保存庫や燻製室へと運ぶ。
夕飯はステーキにしようかな。獲れ立てだし表面だけこんがり焼いてレアで良さそうだし。
私はレアで食べるのが好きなのだ。
今日は朝からなめし作業をしながらラップスコイスと言う煮込み料理を作っている。
タマネギ、人参、じゃが芋とビックアントラースのスネ肉と腿肉をコトコトの煮込むだけの簡単な料理だ。
味付けは塩胡椒とシンプルだし、煮込めば煮込むほど美味しくなるらしい。
本にはお肉が煮崩れるまで煮込むと書いてあった。
お肉が煮崩れるまでって、じゃが芋も煮崩れてなくなるんじゃ・・・まぁいいか。
気を付けておかないとニクス兄さんがそ~っと手を伸ばしてつまみ食いしようとする。
ニクス兄さんの場合摘まむ量が多いのでつまみ食いや味見では無いでしょと言いたくなる。
こうやってのんびりと過ごす日々もいいもんだ。
確かに外は寒すぎるし強風が吹いて冬の嵐の日もあるけど部屋の中はペチカのお陰で温かい。
厩もクィーンが暖炉の火を管理してくれているので温かいので、時々遊びに来ていたりもする。
動物って癒されていいよねぇ。
メーとレーもすっかりと馴染んでいて厩は大賑わいになっている。
そう言えば合計何頭いるんだっけ。
1.2.3… 8?
ん? クィーン、カムイ、ノワール、うー、まー、メー、レー、ペンギン。
ぶはっ、ちょ、待って?
もしかしたアンタあのペルディプテス? 卵置いていった子?!
なんでここに居るのよ、アンタ寒さには強いハズでしょうがよ!
え? なに?
クシャミをしたら腰を痛めたので暫く居候させてくれ?
毎日産むのはちょっと無理だから、3日に1個でどうだろうか?
どうだろうかって宿代って事? えぇぇ・・・
ペンギンってクシャミするの?
と言うか野生のくせに居候とかって言葉なんで知ってるの?
3日に1個って頑張らなくてもいいわよ、踏ん張り過ぎたら痔になるわよ?
と言うかこうやって会話?が出来ている時点でもぉすっかり仲良し認定されてるって事よね?
うわぁ・・・ いや別に嫌ではないからいいんだけども。
でもね、他の人間にうかうかと近付くんじゃないわよ?
皆が皆こうやって会話出来る訳じゃないし、中には問答無用で襲ってくる人だって居るんだからね?
気を付けなさいよ?
大丈夫、相手はちゃんと選んでる? あ、そう・・・
この事をニクス兄さんに伝えればやっぱりニクス兄さんも驚いていた。
「名前はどうする?」
「へ? 名前付けるの?」
「付けないのか?」
「付けたら情が湧くじゃん」
「既に湧いているような?」
「・・・ そう言えば会話出来てるもんね」
「ペルディプテスだと長いから呼びにくいだろ」
「そうだけどさぁ」
「ペルルはどうだ?」
「雄か雌か解らないじゃない」
「卵を産むのだから雌だろう」
「そう言えばそっか、じゃぁペルルで」
名前まで付いちゃったよ・・・
ペルルの餌はなんだろう、罠に掛かるという事は肉食って事でいいのかな。
後で本人に聞いてみようと思う。
これ以上は増えませんように。フラグじゃないわよ?
これ以上増えたらプチ動物園ですかねって感じになりそうだもの。
動物は好きだよ、好きだけどね?
そんな事になったら目立ちそうだから嫌なのよ。
それにこういった狩猟生活していると変な感情移入はよろしくないと思うからね・・・
お互いが適切な距離感で居れる様に気を付けて行かないとね。
読んで下さりありがとうございます。
14日の最大瞬間風速が45.1mだったようで、停電は24時間で復旧したもののネット回線は年明けまで復旧が無理だとか(;´д`)
普段スマホを使わないので長文を打つのに苦戦しています。
数話語からは、ネット回線復旧までは更新が止まりますがごめんなさい。
お知らせへのコメント、あかりとうございました。




