22:捌けるかしらね
白夜が始まった。
10日間続く白夜が終わればすぐに冬がやって来る。
つまりこの10日間が追い込み時期と言う事だ。
ずっと明るいので作業が捗ると言えば捗るのだけど、体内時計が狂いやすいので気を付けなければならない。
長年放置されていた牧草地も、多少の雑草が混ざってはいたがちゃんと牧草が残っていたので助かる。
冬に向けて刈り込んでサイロ代わりの小屋へと溜めていく。
成長が早いので雪解けから冬が始まるまでの間に2~3回収穫できるので有難いし、柵の出入り口を開けておけばクィーン達も新鮮な牧草を食べる事が出来る。
夜間はしっかりと閉めるけどね。
そうしないとジャイアントハーゼやヘラジカが食べにきてしまうのよ。
そう、ジャイアントハーゼ、見る事が出来たのだけどね?
牛くらいの大きさで頭に角があったわよ・・・
私の知っている兎のような可愛さなんて皆無よ!おっかなかったわよ!
冬になれば狩猟可能になるらしいので、今は追い払うだけなのだけどね。
他にも雪ウサギも見かけた事があるのだけど、夏毛だから茶色の普通のウサギにしか見えなかった。
真っ白のモコモコになるのは冬の間だけらしい。
ニクス兄さんがジャコウウシとイッカクを仕留めて来た。
イッカクは当数制限が設けられていない。
1回の出産で8~12頭の子を産むらしく、繁殖力が凄すぎる。
これらも解体して燻製小屋で吊るしておく。
あれから3回の網漁で目標数にはなったし、少し余分もある。
売買だとギルドを通さないといけないけど、物々交換であれば個人間で取引できるからね。
大目にあっても困る事はない。
お陰で燻製小屋も7割ほど埋まっている状態だ。
保管庫の方も半分ほど埋める事が出来ている。
欲を言えばキートの肉が欲しいのだけど、海からかなり遠いし無理だろうなぁ。
海、いいなぁ。
鰤とか鯵とか秋刀魚とかさ・・・お刺身食べたいなぁ。
そんな話をレザールさんにしたら手に入れる方法はあると教えてくれた。
魔族のセイレーンさんに頼めばいいのだそうだ。
セイレーン・・・綺麗な歌声で船を沈めるあのセイレーンだろうか。
なんでもセイレーン同士は特別な連絡網を持って居るらしくて、それを使って注文が出来るらしい。
海に住むセイレーンがその注文に合わせた魚を運んで来てくれるって、それ所謂通販的な?
レザールさんも時々利用しているらしくて、カタログと言うか商品の一覧表を見せてくれた。
ふほっ、鰤がある!鯵もあるし鰯や秋刀魚もある!
もしかしてもしかしなくても馴染み深い魚のほとんどがあるんじゃないかなこれ。
キートもあるじゃないよ!
え? アザラシにイルカにラブカ?
アザラシやイルカは地域によって食べる人もいるからまだいいとして、ラブカってあの深海の?
見た目がちょっとアレなあれ?
元の世界でも私が知らないだけで食べる人はいたんだろうか・・・
「ニクス兄さん!キートがあるよキートが!
鰤や鯵もあるし秋刀魚も!太刀魚まである!」
「キートはあの旨かったヤツか!よし買おう!」
と言う事で発注してみる事にした。
発注方法は町に滞在しているセイレーンさんに言えばいいらしい。
この町の場合はなんとレザールさんの奥さんがセイレーンさんだった。
なるほど、それなら利用しやすいよね。
ちなみに、レザールさんの奥さん、レナさんと言うのだけどめっちゃ美人さん!
綺麗な羽を持つ人魚さんて感じ? 陸に居る時はちゃんと足もあったよ。
さて、何をどの位注文するかはお値段と相談である。
「そうねぇ、2人は狩人なんでしょう?
それなら代金はお肉がいいわね。ほら物々交換の要領で」
「なるほど、肉の種類と量は?」
「海に居る仲間達はめったに陸のお肉にありつけないから
種類は拘らないと思うの。
量は適当に無理のない範囲でいいんじゃないかしら」
「それなら色々な肉の詰め合わせにしようよニクス兄さん。
きっと色々な肉を楽しみたいと思うんだよね。
私がそうだもの、海のお魚色々楽しみたい」
「ならばそうしよう。明日持って来るのでもいいか?」
「わかったわ、明日魚を持って肉を受け取りに来るよう伝えるわね」
と言う事で木箱の大きさを1mx1.5mx0.6mに決めて交換する事になった。
なぜこの大きさになったかと言うとイッカクの腿肉を入れる為だったりする。
私達はキートの赤身と皮付き脂身、鰤は必須で後はお任せにした。
その方が福袋感があってワクワクするじゃない?
翌日、用意したお肉はイッカクの腿肉、ビックアントラースのバラ肉1/4身、隙間にマスクラットやタビネズミ、トガリネズミのお肉。私が作ったベーコンやウインナーなんかも詰めておいた。
後はオマケでベリーのジャムも入れておいた。
届いた魚はキートの赤身が2ブロック、脂身も2ブロク。鰤と鰹はまるっと2本。隙間にぎっしりと鯵だの鰯だの太刀魚だのと色々詰め込まれていた。
チラッとアナゴが見えた気がしたけど私捌けるかしらね・・・
海からきたセイレーンさんはとても嬉しそうにお肉の入った木箱を掴んで帰って行った。
あんな華奢な体であの木箱掴んで飛ぶんだ・・・
どこからそんな力が出てくるのやら不思議だ。
レザールさんとレナさんにもお礼を言って帰宅する。
さぁ捌いて保存庫へと思ったら、有難い事に鱗と内臓はすべて取ってあったよ、助かる。
お陰で捌くのも楽だった。
鰤はブロックに切り分けて、1つは今晩食べるとして。
他の魚は刺身用、干物用、塩焼き用と用途別に捌いて行った。
血合い部分はカムイ用にしようかな。
カタクチイワシと小鰯も入っていたのでアンチョビやオイルサーディンも作れそうだ。
あ、カタクチイワシは少し煮干しにしてもいいね。
鰹も鰹節やなまり節に挑戦してもいいかもしれない。
良い取引だったんじゃなかろうか。
そう思ってたのに翌日「凄く良い肉だったから!」と追加の魚が届いた。
有難いのだけど、大きさからしてこれクロマグロよね?
そしてこっちはカジキよね?
デカイのよ、デカすぎるのよ。追加にしては多過ぎるんじゃないのかしらねぇ!
レザールさんとレナさんは余程嬉しかったのだろうから貰っておけばいいと笑っていた。
うん、凄く有難いのだけどね?
ニクス兄さんと次回注文する時は肉を多めに入れてあげようと決めた。
セイレーンさんのお陰で冬の間の魚は十分過ぎる量になった。
後はお肉をもう少し確保出来ればいいんじゃないかなと思う。
野菜なんかは買い出ししてこないとだね。
来年はうちでも何か少し作ってみようかな。
夕飯の鰤の刺身と照り焼きはあっという間に無くなった。
ニクス兄さんは海の魚を始めて食べたらしく(実物を見るのも初めてだったらしい)こんなに旨いなら毎年頼みたいと言っていた。
カムイも気に入ったようでおいしそうに血合いや内臓を食べて、骨はずっとしゃぶっていた。
脂がのっていて本当に美味しかったのよねぇ、セイレーンさんに感謝しなきゃだね。
ニクス兄さんがイビルベナードと言う魔鹿を獲って来た。
と言うか襲われたので返り討ちにしたのだそうだ。
イビルの名が付く様に4つの目と鋭い角を持って居て見た目が怖い。
なのにお肉は霜降りでとても美味しく、脂もアッサリしていてほのかな甘みがあるのだとか。
そして私は試してみたい事がある。
鹿の蹄の皮をはいだ後、コトコト煮込んで冷ませばゼラチンになるらしいんだよね。
ゼラチンが作れればゼリーやムース、レアチーズケーキなんかも作れるじゃない?
おやつの幅が広がる訳ですよ、ふっふっふっ。
本当はビックアントラースで試してみようかと思ってたんだけどこの際イビルベナードでもいいや。
上手く出来るといいなぁ、あぁ楽しみだ。
読んで下さりありがとうございます。




