21:やっぱり吹いたじゃないよ
今日は川に網を仕掛ける。
この時期の鮭は油がのっていて美味しいのよね。
当たりだと卵を抱えている、そう筋子。私の好物だったりする(魚卵アレルギーだけども)
網目は大きめにして体格が小さい魚は掛からないようにするのよ。
自分達が冬を越すのに必要な分だけ獲れれば漁は終了。
うちの場合だとカムイの分も必要だから50尾もあれば十分だ。
多いように思えるでしょ?
でもね、冬がとにかく長い事を考えるとけして多くはないのよね。
他にも肉類も備蓄するから50尾でいいけど、魚だけに頼れば300尾とかになる。
捌くだけで腕が死ぬわよ?・・・
鮭以外にもパイクやトラウトが掛かる事もあるので楽しみにしている。
ここの川は幅が広いので10mの網を用意した。
ふっ、この網皆手作りしてるから私も頑張って作ったわよ、ベリアさんに教えてもらいながらだけどね。
まさか網を手作りする日が来るなんて想像すらしてなかったわよ。
網に使う糸?もね、手作りなのよ・・・
魔物の腱を使って作るんだけど、正直そこからなの?!と驚いた。
ふふふ、これで収穫0だったら泣くわよ、ホント。
ゴージと言うヘラジカやビックアントラースの角で作る釣り針の作り方も教えて貰った。
形がね? 私の知っている釣り針の形じゃなかった。
細くしたラグビーボールと言えばいいかな、その中央を少し削って糸を括り付けるらしい。
これだと大きいのしか掛からないから便利なんだと教えて貰った。
氷の厚みがある時期に、氷に穴を開けて使うらしいので今は作るだけだね。
さて網を仕掛け終わったら薪を集めに行こう。
廃材を薪にしたのがあるけど、まだまだ足りないからね。
薪集めはクィーンやカムイをはじめとする皆も手伝ってくれる。
カムイなんかは枝打ちまで出来ちゃってるのよ。
器用だねと言ったら爪とぎのついでだと言っていた。
そっかぁ爪とぎか、爪とぎで枝打ちが出来るのか、どんだけ鋭い爪なのさと思ったけど熊だもんね。
うっかり私に当てないでね?・・・
私が斧で木を切り倒すとカムイが枝打ちをする。
それをノワールが荷車まで運びうー&まーが家まで運ぶ。
クィーンは家で待っていて運ばれた丸太を荷車から下ろす。
デストーリャ種ってそんなに器用なの?
私が知ってる馬とはかなり違う気がするんだけど。
そう思ってニクス兄さんに聞いたら「うちのは特別だ。2代前に魔馬と交配してるからな」と言われた。
なるほど、魔馬と・・・
娘ー!!
なんかおかんの思ってた魔物とイメージが違い過ぎるんだけどー!
割と身近に共存してる魔物が居るんだけどもー!
変な友情芽生えた挙句卵くれる魔物もいたんだけどー!
どう思うこの状態!
いや、娘なら喜びそうな気がする・・・
思わず叫んでしまいニクス兄さんに心配された。
ちょっと驚いて声にでてしまったらしい。
仕方がないじゃないか、気付かないだけで魔物が身近な存在だったなんて。
子犬保護したら実は狐でしたって気分だよ!
あれ、そう考えたら害がある訳じゃないし可愛いしでいいんじゃないかと思えて来た。
翌日、仕掛けた網の様子を見に行ったら大量だった。
20匹くらい獲れたんじゃないかな。
今日は捌いて燻製するだけで時間が過ぎそうだ。
そう言えば、白子も食べれるんだよね。
湯がいてポン酢でもいいし、唐揚げや天ぷらでもいいし。
作った事は無いけど、燻製や佃煮、オイル漬けとかペーストってのも動画で見たな。
味噌漬けも見たけど味噌が無いのでパス。
燻製と佃煮なら作れそうだしやってみようかな。
保存食に加工出来れば冬場の栄養補給にも良さそうだし、確かビタミンBとミネラルが豊富なんだっけか。
まずはとにかく捌ききろう。
網から離れた場所で作業を開始する。
川で捌けば魚を洗うのも楽だし、要らない内臓なんかはそのまま川へ流せば他の魚が食べたりもする。
カムイがおこぼれ狙いで護衛してくれている。
肉食獣は匂いに敏感だけどカムイが居れば安心だ。
心臓と腎臓は食べれるのでよけておき、他の内臓はポイッ。
鱗を落とした身は幾つかの切れ目を入れておく。
川でじゃぶじゃぶ洗って血を落としたら、塩水の入ったバケツへ入れておけばOK。
卵(筋子)と白子もよけておく。
腰が痛くなったら少し休憩。
そうやって黙々と作業を続けてお昼過ぎにはなんとか捌き終わった。
バケツの塩水も捨てて、身の入ったバケツを荷車に積み込んでカムイに運んでもらう。
水気を切る為に庭先の竿(物干し竿とは別)に鮭を掛けていき、燻製の準備をする。
ここでは燻製箱ではなく燻製小屋があるのよね。
1回で大量に燻製が出来るので助かる。
水気が切れた鮭を小屋の中に運び入れて、今日食べる分と佃煮分以外の白子もザルに乗せて小屋へ。
後は燻製用のこっぱに火をつけて、煙が落ち着くまで待つだけ。
次はメフンを作ろうと思う。
サケの腎臓で作る塩辛なんだけどね、ご飯のお供や酒の肴に最高なんだよね。
まぁご飯が無いので、蒸かし芋(ジャガ芋)に乗せても美味しいんだけどね。
何回か水を交換しながら血抜きをしたら、水気をよく切って塩揉みして1晩寝かせる。
塩を洗い流した後は1時間くらい酒に付けておいて塩抜きを、後は味付けして瓶詰にすればOK!
日本酒の代わりにペルツォスカと言うお酒を使ったのだけど、度数が高いんだろうな。
匂いを嗅いだだけでお酒に弱い私は酔いそうだった。
これだと塩抜きで漬け込む時間は少し短めでもよさそう・・・
夕食は鮭のクリームシチューに白子の天ぷら(フリッター)とサラダにパン。
ニクス兄さんは初めて白子を食べたらしく気に入った様子だった。
良かったよと思う反面、昨年はすっかり忘れてて捨てていた事を残念に思った。
なんで忘れてたかな私・・・
朝からレザールさんがエアレーを連れて来てくれた。
エアレーの見た目はほぼ羊だ。
ちょっと角が大きくて立派なのと毛がモップみたいだけど。
ほらプーリーって犬みたいなのよ。
そして毛の使い道としては毛糸になったり、本当にモップとして使われる事もあるんだそうで。
ぶはっとやっぱり吹いたじゃないよ・・・
小屋をどうしようかと思ったのだけど、厩が広いので一緒に居れておけばいいと言う。
クィーン達も「一緒の方が暖かくていいじゃない」とか言うし、それならばそうしよう。
名前はと聞けば、メーとレーだと言う。
これまた安直な・・・ゲフンゲフン。
お礼にと燻製鮭を5本渡せば喜んでもらえた。
レザールさんは網漁や釣りはしないらしい。
ならばまた今度お裾分けでもしようかな。
「ところでリュン。
俺がリザードマンでも平気なのか?
大抵は初対面で怖がられたり、幼子なんかは泣き出すんだがな」
「あー、小さい子だと驚くかもだね。でも私は平気だし気にもしないかな。
さすがにアンデッドだったら驚くかもしれないけどね・・・」
「そうか、それならば時折立ち寄らせて貰ってもよいだろうか」
「勿論どうぞ、ただ午前中は居ない事が多いかも」
「解った、立ち寄る時は午後にしよう」
自然豊かな田舎で生まれ育ったから子供の頃は爬虫類も平気で触ってたのよね。
アオダイジョウの子供を持って帰ったら母親にこっぴどく怒られたっけな。
だから全然平気なのだけど、ナメクジやカタツムリなんかは無理!
ここには居ないだろうけどね。
早速仲良しさんが出来たのは嬉しかった。
レザールさんは少し話した後また来ると言って帰って行った。
レザールさんはああ見えて牧場主なのだそうだ。
エアレーの他には馬を数種類とカローヴァと言う乳牛、それにロックバードも飼っているんだとか。
ロックバードはアラビアンナイトに出て来る様な巨鳥なのかと思ったらこれまた違ったよ。
レザールさんが絵を描いてくれたんだけど、どうみてもニワトリなんだよね。
羽の色が黒くて紫色の顔で足元がフサフサなんだとか。
ごめんちょっと想像が出来ないのでいつか見せて貰おうと思う。
はっ、この子達の冬の餌も用意しなきゃ・・・
読んで下さりありがとうございます。




