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20/25

20:吹いたわよ

私達は今買い物をする前に教会へとやって来ている。

すっかり忘れていたのだけど、名前も種族も変わっているのだから身分証明証の更新をしないとなのよね。

こんな場合は本当に身内が司教様で良かったと思う。

あれこれ聞かれなくて済むからね。

そう思ったのに侍祭のおっさんがウザイ・・・

執拗に着いて来ようとするし触ってこようとするんだよ。

なにコイツ、ロリコンか?

助祭様に叱られてやっと何処かに行ってくれたけど、あんなの教会に置いておいたら駄目でしょう。

後でリックス兄さんに言っておかないと。


3度目ともなるとすっかり見慣れたこの石板。

身分証明証と手を乗せてみればパカーッと光った。


名:リュンクス  性別:雌  年齢:56  種族:獣人族ボブキャット亜種

戦闘スキル:包丁捌きA  害虫駆除A  素手S グリグリS

生産スキル:料理A  裁縫E  調薬C  農作業B  庭師B

特殊スキル:不動尊の加護 無病息災・厄除け・商売繁盛

      アリェーニャの加護(炎) 小さな災厄は払いのける事が出来る

      ヴィーザルの恩恵 身近な獣との意思の疎通


ねぇ?

裁縫Eとか載せなくてもいいんじゃないのかな?

いっそ削除でいいと思うのだけど?

それでもっての戦闘スキルのグリグリSとかってどうなの?

アングリーベアとかにグリグリで対抗しろってか、無理でしょぉー!


「裁縫のEって恥を晒してるだけだと思うんだけど?」

「載っているのだからきっと何か意味があるのではないか?」

「意味なんか無いと思うんだけど・・・」

「もしかしたら次の更新の時には消えているかもしれませんし・・・」

「次は成人後だっけ、是非消していただきたい・・・」


部屋を後にして侍祭の事を伝えてから教会を後にした。

リックス兄さんは「対処しておきますね」とすこぶるいい笑顔だった(青筋立ってたけども)


役場にも寄って狩猟許可証を受け取る。

夏の狩猟が可能なのはビックアントラースの雄が1世帯につき1頭、これは変わらないけどジャコウウシの雄も1世帯につき1頭可能だった。

魔物に関しては鉢合わせて襲ってきたら対応する感じらしい。

害獣駆除というか間引き?という感じの事は冒険者がやっているのだそう。

狩人でもやりたければギルド経由で依頼を受けれるそうだ。

また狩人以外の人が狩猟肉が欲しい場合もギルド経由になるらしい。

前の町ではギルドと言う物がなかったから役場経由の個人依頼だったのね。

ついでだからとギルドにも寄ってみた。


へぇ、依頼料と事務手数料を支払えばだれでも依頼は出せるのか。

依頼を受ける場合はギルドに登録が必要らしい。

依頼掲示板とやらを覗いてみる。どんな依頼が出ているのだろう。

害獣ネズミ退治に木こりの護衛、ビックアントラースの代理狩猟、パン屋の手伝いに解体場の手伝いと色々ある。


「どうする?」

「ニクス兄さんは一応登録しておけば?代理狩猟の仕事もあるみたいだし」

「そうするか」


そう決めたのに何故か私の手元にもギルド登録証がある・・・

何故にこうなったと言いたいが押し負けてしまったのよ・・・

登録しておけば余ったマスクラットの毛皮とかも買い取ってくれるって言うし・・・

タビネズミやクマネズミなんかは駆除対象だから証明となる右手を切り取って持って来れば報奨金になるって言うし・・・

どのみちくくり罠で獲るならお小遣いになるわよなんて言われてしまったのよね。

そうよね、ついでにならいいかもしれないと思う事にしよう。


さて用事は終わったし、買い出しをして帰ろう。

買う物は各種麦粉(小麦・大麦・エン麦・ライ麦・オーツ麦)と雑穀類、それに野菜類とミルクと卵。

春の卵採取が出来なかったからね(忘れてたのよ・・・)

鍋や食器も少し買い足した。

この町だと店までそう遠くはないし、ノワールも居るので何か足りなくなってもすぐに買いにこれそうだ。

帰る途中で先日お世話になったリザードマンさんに遭遇した。

名前をレザールさんと言うのだそうで、丁度うちに来ようとしていたのだそうだ。

すれ違いにならなくてよかったと思った。

レザールさんはエアレーという魔物羊を飼っているのだそうで、羊毛とミルクがとれるから2頭ほど飼ってみないかとの事だった。

性格は温厚だしミルクは濃厚で美味しいし、魔物だから丈夫で長生きで良い事ずくめなんだそうだ。

餌は普通の牧草でいいらしい。

でもなぁ、毛刈りとかやった事ないしなぁと思ったら、春になるとスポンッと脱皮のような感じで脱ぐのだそうだ。

想像して思わず吹いたわよ・・・

そっか、スポンッと脱げるのか。だったら飼ってもいいかも。

レザールさんが後日届けてくれるとの事だった。ありがとうレザールさん。


帰宅して買って来た物を其々の場所に収納していく。

この雑穀類は何処からかの輸入かと思ったら、寒冷地でも2か月で収穫できる品種があるのだそうでこの町で栽培されているのだとか。

ニクス兄さんと話し合って朝食はあの本に載っていたカシャにする事にしたのよ。

雑穀って栄養豊富だし、お粥なら体も温まるしでいいんじゃないかと思ってね。

さぁて明日からは冬に向けての食糧集めだね。

保存庫が埋まるくらいに肉や魚を集められるといいのだけど。



「またお前かー!!」


狩りに出掛けるニクス兄さんを見送った後罠を確認しに来れば、またペルディプテスが掛かっていた。

おかしいでしょ、警戒心が強いんじゃないの? めったに罠に掛からないんじゃないの?!

ねぇねぇちょっとペルディプテスさん、もっとしっかりしなさいよ!

うかうかと罠に掛かってるんじゃないわよ!仕留めるけどもさ!

手斧と嘴の攻防戦が始まる・・・

以前見たのよりも大きいので嘴も大きいし鋭いから怖いんですけど!

そんな元気あるんなら罠から抜け出しなさいよ!

なんだかよくわからない感情のまま攻防を続ける事10分経過、お互いにゼェゼェと肩で息をしている。

こうなってくると変な友情めいたものが湧いて来る。


「うん、もぉさ。

 罠解除してあげるから人里離れた山奥とかでひっそり暮らしてくれない?」

「グァークワッ グァークワッ」

「罠解除する間突かないでよね?」

「グァッ」


罠を外してやればペルディプテスはテシテシと毛繕いをした後力み始めた。

へ? まって? ここで力むの?!

いやいやいやいや、移動してから力んでもろて!


「クァーーグァッグァグァ クァッ」 ぽんっ


ぽんってなに!

見てみれば10㎝くらいの卵を産み落としていた。


「ぶっ、ここで産卵してんじゃないわよっ!」

「クァッ!」 ぐいっ


ペルディプテスは卵を私の方へと押し付けてペコリと頭を下げた後猛ダッシュで走り去っていった。

え? 待って待って待たんかーいっ!

卵押し付けてるんじゃないわよ!持って行きなさいよ!ちょっとぉぉぉ!!

どおするのよこれ、せめて有精卵か無精卵かくらい教えて行きなさいよ!

仕方がないので懐に卵を入れて残りの罠を確認していった。



「どうした疲れた顔をしているな」

「うん、疲れたのよ本当に・・・」

「何があった」

「これ・・・」


卵を見せるとニクス兄さんは手に持って居たナイフをポロリと落としてしまった。


「ちょ、危ないから!ナイフしっかり持ってて!」

「あ、ああ。驚いてつい・・・」


驚く気持ちも解かるけどね。

ペルディプテスとの出来事を話して、この卵をどうするか2人で悩んだ。

無精卵なら食べるし、有精卵なら孵化に挑戦してみる?

といっても見分け方が解らないのよね、困ったなどうしよう。

フンフンフンッ

カムイが興味あるのか匂いを嗅いでいる。

ん? 命は宿ってないから食べても大丈夫って、カムイ分かるの?!

命の匂いがしないから分かるって? そ、そう。さすが森の主ノユクの子って事なのかな。

もしかして代わりに卵を食べろと押し付けて来たんだろうか・・・

だとしたら律儀過ぎじゃない?

今回は有難く卵を頂くけども、出来れば人里から離れてヒッソリ元気に暮らして欲しいと思う。


読んで下さりありがとうございます。

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