2:子供じゃないのよ?
馬に揺られる事30分、私の内腿とお尻が限界を迎えた頃に馬は止まった。
止まった場所は宿屋のようだ。
「あ、すみません。私お金持ってないんです」
「心配はいらぬ。子供に支払わせる気はない」
「え? えぇと・・・私これでも成人済みでそれなりの年齢なのですが・・・」
「そ、そうか。失礼した。だが支払いの心配はいらぬぞ」
そう言って獣人さんは宿屋へと入り部屋を借りてくれたのだけど、何故ダブル・・・
2部屋だとお金が掛かるにしても、ツインとかでよかったんじゃないだろうか。
「夏場とは言え夜は冷え込むぞ。毛皮を持たぬ人族だと凍えそうではないか」
なるほど、寒さ対策な訳か。
まぁね?子供に見られていた訳だし。
まずは腹ごしらえと言う事で宿屋に併設されている食堂で夕飯を食べた。
お肉と野菜がごろっと入ったスープとパン。
1日半ぶりのまともな食事だと思ったらぐぅとお腹が鳴ってしまった。
味付けはシンプルに塩味なのだけど、煮込んであるからかコクがあって美味しかった。
部屋へ戻り、私は事情を話す事になった。
神様とやらに似たような名前の人と間違えられたあげく適当に放り出されてしまった事。
仕事を終えて帰宅途中だったので着の身着のままなのに、手に持って居た鞄は無かった事。
自分の居た世界には人族しか居なかったので恐らく違う世界に来てしまっている事。
なんの説明も受けていないので本当に困っている事。
なるほどとうなずいた後獣人さんは自分の事を話してくれた。
名前はニクスさん。雪豹の獣人で231歳なのだとか。
元々は騎士団で団長を務めていたのだけれど肩を痛めてしまい引退して今はのんびりと狩人暮らしをしているのだそうだ。
231歳と聞いて驚いたけど、獣人の平均寿命が1000と聞いて200ならまだ若いのだなと思った。
ニクスさんは普段森の中で暮らしていて、ある程度売り物が貯まったら町へと売りに来ているのだそうだ。
山の方から「戻せー」と叫び声が聞こえたので何事かと森を見回っている時に私を見つけたらしい。
その叫び声は私だと言えば何を叫んでいたのかと聞かれたので、ちょっとその神様とやらに文句をと答えたら笑われた。
神に文句を言うならば教会に行かねばなとアドバイスまで貰った。
なるほど、確かにその方が届きやすいかもしれないね、明日にでも行ってみようかな。
「それでこれからどうするつもりだ」
ニクスさんの問いかけに私は悩んだ。
元の世界に戻れるならば戻りたいけど、なんとなく無理そうな気がする。
となると生活拠点を決めて生活費を稼ぐ手段を見つけなければならない。
この世界と言うよりこの国で私が出来る仕事があるのだろうか。
それ以前に身元不明の私は受け入れられるのだろうか。
「まずは明日、教会に行こうと思います。
そこで神様とやらに文句を祈って、言い方がおかしいな。
声には出さずに文句を言って、その後は・・・
住む場所さがしですかね・・・」
「ふむ、教会は弟が司祭として勤めているので私が案内しよう。
住む場所か、キヨカは料理や洗濯は出来るか?」
「出来ますよ。主婦でしたしヘルパーとして働いていたので」
「ヘルパーとはどのような仕事なのだろうか」
解かり易いように怪我人や重病人、障害がある人などの身の回りの世話だと説明した。
洗濯機なんてものはありそうにないけど、訪問先にもそういう家はあってタライと洗濯板で洗う事もあったしなんとかなりそうだよね。
「ならばうちで料理などの家事を請け負ってもらえないだろうか。
部屋は余っているから住み込みで構わないし、多くは無いが給金も支払う。
俺自身家事が出来ない事も無いが苦手でな・・・」
「有難い話ではありますが
ニクスさんはまだ若いですし婚約者とか恋人とか大丈夫ですかね?」
「大丈夫とは?」
「おばさんとは言え一応は女ですし、変な勘違いとかありましてもね?」
「ふっ、心配はいらぬ。婚約者も恋人もおらぬよ」
「左様で・・・失礼しました」
仕事内容はこれまでと変わりがなくて済む場所も確保できる、これは好条件ではなかろうか。
この申し出を有難く受けようと思う。
「では有難くお言葉に甘えさせていただきます。
仕事上の注意点などありますか?」
「特には・・・いや、そうだな。
敬語は無しで名前も敬称なしで頼む」
「解りました。・・・ 解った」
詳しい事は追々教えてくれるそうで、取り敢えずは簡単にこの国について教えて貰った。
この国のある北の大陸は主に獣人とエルフが住んでいて、5つの国に別れているのだそうだ。
この国は西に位置しており、この大陸の中ではわりと温かい方になるのだとか。
降雪量はさほど多くはないが気温はかなり下がるらしい。
国土の大半は森と氷河に覆われているのだとかで、住人も寒さに強い種が多いのだとか。
頭の中では北極や南極、アラスカやノルウェーなどが浮かんだ。
「夏は短く冬が長い、寒さ厳しい場所だがキヨカは大丈夫だろうか」
「どのくらいの寒さになるのかが解らないのでなんとも言えないけど
北国暮らしの経験はあるのでなんとかなるんじゃないかな」
「そうか、うちにはキヨカに合うサイズが無いからな。
服や靴、防寒具など必要な物は帰りに買って行こう」
「お手数おかけします。
あ、代金は分割払いで給金から引いていただけると・・・」
「必要経費と言う事で気にするな」
ある程度の話をして、私達は眠る事にした。
フカフカベットは心地よくてぐっすりと眠れた。
眠れたのだけど、ニクスさんを抱き枕にしてしまったようで・・・
ガッシリとしがみ付いて引きはがす事も出来なかったからとニクスさんは雪豹の姿で寝たのだとか・・・
申し訳ない・・・
いやノルウェージャンを飼っていていつも一緒に寝ていたからね?・・・と言い訳をしてみる。
身支度を整え・・・って私の服ってこの国だと浮いてない?
寝る前に洗って干しておいたから汚れてはないと思う。
乾きやすいジャージで良かったと思ったけど、たぶんこの国にはない材質な気がする・・・
そう思ってニクスさんに聞いてみれば、やはり目立つと思うから着替えるようにと肩掛け鞄を渡された。
昨夜の内に宿屋の人に子供用の着替え一式を買い揃えて欲しいと頼んでおいてくれたのだそうだ。
この肩掛け鞄はオマケだと宿屋の人がくれたのだそう。
子供用と言うのがちょっと引っかかるけど、後でお礼を言わないとだな。
ニクスさんには弟の司祭様以外にはまだ詳しく話すのは控えた方がいいので子供で通す方がいいと言われた。
そうは言われても部分的な白髪とか皺とかでバレそうな気がしなくもないのだが。
と思ったのだけど、獣人にも部分的に髪色が違う人がいたりするので気にする人は居ないのだそうだ。
なるほど・・・
用意された服に着替えて見る。
ひざ丈くらいのチュニックワンピースにズボン、靴はショートブーツで裏起毛になっていた。
その上からフード付きのポンチョを羽織ると温かかった。
ちなみに今の季節は夏の初めだそうで、北海道より寒いと言う事は理解した。
身支度を終えて、食堂で朝食を食べていると宿屋の人が声を掛けて来た。
「うん、似合ってるね。サイズも丁度良かったみたいでよかったよ」
この人が服一式を買って来てくれたらしい。
「ありがとうございます、お手数をかけてしまい申し訳ありません」
「困った時はお互い様だよ。ほら遠慮しないでご飯もいっぱいお食べね」
そう言ってお代わりのスープを注いでくれたのだけど、私は小食なのですでにお腹いっぱいだ。
申し訳ないなとおもいつつ、宿屋の人が立ち去ってからニクスさんに食べて貰った。
食事が終わると宿屋を後にして教会へ向かった。
商店街らしき場所を抜けていくのだけど、まだ朝が早いのでお店が開いてなかった。
どんなお店があるのか見て見たかったのでちょっと残念だ。
教会での用事を済ませたらちょうど店も開くだろうから必要な物を買い揃えようと言われた。
ならば時間つぶしにもなるように、長々と文句でも言おうかな。
読んで下さりありがとうございます。
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ニクスさんを始めとする獣人さんの姿は普段だと人間に獣耳と尻尾がある感じではありますが、二足歩行の獣タイプや四足歩行の獣タイプにもなれたりします。




