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17/25

17:不都合な事もあるのよね

「おや料理の本かい、小さいのに偉いねぇ。

 それならこの本が解かり易くていいんじゃないかねぇ」

「お兄さんに料理を作ってあげるのかい、そうかいそうかい。

 それならこっちの本も簡単でおいしいのが載っているからお勧めだよ」


翌日、宿屋を出た後本屋に来た訳なんだけどもここでも色々な人が声を掛けて来る。

あれがいい、これがいいとお勧めの本を教えてくれるのは嬉しいのだけどそんなに沢山は要らないかな・・・

そうは思ってもいらないとは言えないので困ってしまう。


「ほらほらお前さん達、お嬢ちゃんが困っているじゃないか。

 せいぜい2冊もあればいいだろう」


そう言ってこの場を収めてくれたのは本屋のおじさんだった。

だけどおばさん達も負けてなくて、結局わざわざ買ってくれたのだ・・・

私が自分で買ったのは2冊だけ、貰ったのは5冊。

いいんだろうか・・・

おばさん達は、この本を見たら自分達の事を思い出してくれればいいと言ってくれたのだけどね。

ここでも未成人効果発揮のようだ、お礼を言って有難く頂いておく事にする。

かたくなに断る方が失礼にあたるからとニクス兄さんにも言われたしね。


本を買った後はパン屋でパンも買った。

ここ数日はパン無しで過ごして居たからね。

日持ちがするハード系のパンとふわふわの丸パン。

パン屋のおばさんがこっそりジャムをオマケに付けてくれた。

何のジャムだろう、オレンジ色で綺麗なジャムだった。

お店を後にして馬車止めへと戻れば、あれ?なんか荷物が増えてない?


「すみません隊長、自分達では防ぎきれませんでした!」


どうやら兵士団の皆がお菓子やぬいぐるみを乗せてくれたらしい。

後数日だからいいようなものの、増やすんじゃないわよ・・・

ノワールはまだしもクィーンは止めなかったの?

え? 美味しい果物と干し草貰ったから許してあげたって?

そっか、美味しい果物と干し草貰っちゃったのかぁ。

それなら仕方がないよねぇって、食べ物で買収されてるんじゃないわよ。

だって子供らしい物持ってないじゃないよって?

だからね、子供じゃなくてね・・・

未成人なんだから子供でしょ!とクィーンだけでなく、カムイとノワールにまで言われてしまった。

くっ・・・

成人するまで後41年、慣れて吹っ切れるのが早いか成人するのが早いかどっちだろう。

まぁ思考が子供っぽくなるよりはいいか・・・

諦めろと2人の兄にポンッと肩を叩かれた。


街を出発した後は国境まで寄り道せずに進む。

街道を進むので特にこれと言った問題も発生せず、凍った川にもだいぶ慣れたと思う。

ただ自分で歩けと言われたら無理だと断言出来るわよ?

長年北海道で暮らしたけど最後まで凍った道歩けなかったもの!


そしてやっと到着した新天地、国境の町。

獣人と魔族とが混在しているこじんまりとした町だ。

主に警備にあたっている兵士さん達の家族と冒険者が住んでいるのだそう。

こじんまりといってもちゃんとお店はあったりする。

交易ルートにもなっているお陰で意外にも品揃えは豊富なのだとか。

ただし暴風雪が多発する6ヵ月の間は通行止めになるらしい。

まぁ標高高いしそれは仕方がないよね。

そうか、前の町よりも北になるから寒さも厳しいのかも。


「と言う事は家は森の中じゃなくて町の中にするの?」

「森でもいいが、あの森よりは魔物が多いぞ」

「森にするならせめて私が遊びに行ける様に町の近くにして下さいよ」

「司教様、教会から出れるの?」

「私にだって休日くらいありますよ」

「そっか、そうだよね」


取り敢えず今日は宿でゆっくりとしながら家の事を相談しようと思ったのに、バパールおじさんの弟、ここの町長さんに捕まってしまった。


「待っていたよ、兄から可愛い姪っ子が来ると聞いていたからね。

 うんうん、本当に可愛いなぁ。

 兄が姪っ子扱いしてるなら僕も姪っ子扱いしてもいいかな?

 あ、僕の名前はパパスと言うんだ。宜しくね」


返事をしたかったのだけど、スリスリと頬擦りをされているので喋れない。


「あなた、落ち着いて? そして放してあげて?

 リュンちゃんが何もしゃべれなくて困った顔になっているわよ」

「おぉ、これはすまなかった」


奥さんのお陰で解放されてやっと喋る事ができそうだ。


「リュンクスです、宜しくお願いします。

 バパールおじさんにはとてもお世話になりました」

「ニクスだ、狩人を生業にしている。これから宜しく頼む」

「リックスです、司教としてこちらへ赴任する事となりました。

 宜しくお願い致します」

「これはご丁寧にありがとうございます。

 改めまして町長のパパスです、ようこそ国境の町へ。

 長旅でお疲れでしょうから、今日はうちでゆっくりと休んでください」

「妻のベリアです、宿屋兼食堂を営んでます。どうぞ宜しくお願いします。

 困った事があればいつでも声を掛けて下さいね」


なるほど、ベリアさんが宿屋の店主さんだったのか。

だからこうもすんなりと捕まったのかと納得した。

捕まっただとなんか犯罪者みたい、何て言えばいい?

捕獲、違うな。遭遇、も違うな。捉まるでいいのかな解んないや・・・

ともあれ町長さんの家に泊まる事になり食事も一緒に食べる事になった。

宿屋でと言い掛けたのだけど、お風呂があると言われて「お世話になります」と即答してしまったのだ・・・


リックス兄さんは明後日教会に向かうらしい。

「2人の家を確認してから行かないとね」と言っていたから休日には来る気満々なのだろう。

クィーン達や馬車は町長さんの家の納屋と厩にお世話になる事になった。


夕飯はシチーと言うキャベツがメインの具沢山スープにシャシリクと言う羊肉の串焼き、ヴィネグレットと言うビーツメインのサラダにパンだった。

どれも美味しかったのだけどお代わりを促されて困った。

見た目は獣人になったけども小食と言うか食べる量は前と変わってないのよ・・・


夕食後にお風呂を頂いて、案内された部屋で家について話し合う。

何故かパパスさんも居るのだけど?

と思ったら、空き地や空き家の解かる地図を持ってきてくれていた。


「狩人だし、デストーリャ種が居るのであればやはり森の近くが良いのかな」

「そうですね、うちには熊のカムイも居ますし」

「あ、僕の馬達も預けに行くから宜しくね?」

「でしたらこの西の辺りはいかがです?

 以前住んでいた人が牧草地を持って居たんですよ」


指示されたのは町の西外れで、森にも近い場所だった。

前の住人が居なくなって60年経っているから、時々家の換気は行っていたけど手直しはかなり必要になりそうだと言う。

見てみないとなんとも言えないけど、あまりにもボロボロだったら建て直した方が早いかもしれないね。

場所的にはいいんじゃないだろうかと思う。

元牧草地なら野生化した牧草もあるかもしれないし。


「リュンはどう思う?」

「森にも近いし、元牧草地ならクィーンやノワール達も喜びそうだよね。

 それに西側なら教会にも近いよね」

「教会から近いと僕が喜ぶよ?」

「一応他にも候補は探しておいて、明日見に行ってみるか」

「うん、それがいいと思う」

「え、ちょっと2人共スルーしないでくれるかな」


他にも2軒程の候補を見つけてこの日は眠りに就いた。


次の日家と土地を見に行ったのだけど、家はまだしも土地はまだ雪に埋もれてて確認は出来なかった。

そしてどの家も傷みが激しくて広過ぎた。

6部屋とか8部屋とか要らないのよ、掃除が大変じゃないのよ。

もっとこじんまりとした家でいいのよ・・・

結局は位置的に森にも教会にも近いので、最初に見つけた西外れの家にする事になった。

土地は購入ではなくて借りると言う形になるらしいのだけど、未成人が居る場合は成人するまで賃料は免除なのだそうだ。

まずは解体から始めてその後に家造りとなるのだけど時間が掛かりそうだな。

家が完成するまではティピーで生活する事にした。

完成までうちに泊まればいいのにとパパスさんは言ってくれたけど、ニクス兄さんと会話するにあたって不都合な事もあるのよね。

ほら、元の世界の事とかね? うっかり寝言で言うかもしれないし?

と言う事で、まず雪掻きをしてティピーを設営する。

ついでに大き目な石を拾ってきて簡易的な竃も作っておく。

リックス兄さんは荷物を仕分けすると、ひとまず教会に置いて来ると行ってしまった。

私達の荷物は防水機能のある皮で覆ってそのまま荷馬車に置いておく。

なるべく早く家を作りたいなと思いながらニクス兄さんと間取りを考えていった。

リックス兄さんのお泊り用の部屋も必要だろうか。

無かったら拗ねそうな気がする。八の字眉毛で耳がペションとしている顔が浮かんだ。

読んで下さりありがとうございます。

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