16:なってたのよ
朝食を済ませた後は荷物を積み込んで行く。
カムイも仔馬もちゃっかり荷車の前で待っていたので吹いてしまった。
まさか自分達も荷車を引くつもり?
え、クィーンほどじゃないけど運べるから任せろ?
その前に名前を付けてくれ?
おぉぅ、忘れてたよ。そうだよね、名前付けてあげなきゃ・・・
キング(オンスさんの馬)にクィーンとくればジャック?
待てよ、その前に雄雌どっちよと確認すれば雌だった。
雌にジャックはだめだ。うーん・・・
プリンセス? なんかフリフリピンクが浮かぶから却下。
漆黒の馬だからノワールはどうだろうか。
フンスと鼻を鳴らすので気に入ったようだ。じゃあノワールで。
カムイもノワールも体高が130cmくらいだ。
あれ、何気にカムイ大きくなったね。
カムイには食料と鍋やお皿を、ノワールには寝袋や敷物の毛皮をお願いする事になった。
荷造りを終えて忘れ物は無いか最終確認をする。
大きな家具とか残っているとは言え、なんか寂しい。
「行ってくるね、また戻ってくるからね」
住み慣れた家に別れを告げて出発する。
ニクス兄さんと一緒に乗るのかと思ったら、ノワールに「乗るわよね?」と言われた。
え? 大丈夫なの?・・・
大きさ的にポニーくらいだと思うんだけど、ポニーって子供が乗馬・・・まさか私子ども扱い?
ノワールにまで子ども扱いなの?!
でも私の身長169㎝よ?と思ったけど、そうだよノワールは筋肉質なデストーリャだった。
じゃぁ大丈夫かな。
乗って見れば軽くて全然余裕だとノワールに言われてしまった。
そっか、軽いのかぁ。重いと言われるよりはよかったと思おう。
テクテクと・・・ではなかった、パカランパカランと走っている。
雪だろうと氷だろうと関係なく走ってるのよ!
乗ってるこっちが怖いわよ、氷なんてツルンといきそうじゃないよ!
おかしい、私が知っている馬車や馬の旅ってもう少しのんびりとなんだけど?
ドラマや映画だからのんびりだっただけで実はこんな感じだったりするのかしら。
まさかねぇ・・・
しっかり掴まってないと落ちるって?
そうね、考え事してる場合じゃなかったねごめんごめん。
って、えぇぇこのアイスリンクみたいな川もこのスピードで渡るの?!
嘘でしょ、ヒィェェェェ・・・
「大丈夫か?」
「午後からは幌馬車に乗ります?」
「 ・・・ 」
お昼の休憩でそう声を掛けられたけど答える気力すらないのよ。
何て言うのかな、内臓がヒュッと持ち上がると言うかお尻や手がムズムスして汗をかくと言うか。
凍った川怖い・・・
とてもじゃないけど、昼食を食べる気分にはなれなかったのでお茶だけ飲む事にした。
これは慣れなければと思い午後からもノワールに乗ったのはいいのだけど、野営地に着いた頃には内腿とお尻がえらいこっちゃになっていた。
動かすのも辛い・・・
普段使ってない筋肉を使ったからなのか、無駄に変な力が入ったからなのかバキバキに筋肉痛なのよ。
これはあれだわ、国境の町に着いたら時々は乗馬して慣らして行かないと駄目だね。
うぅ、痛い・・・
ティピーの設営は2人に任せた。
だって歩き方が変になるんだもの仕方がないじゃないよ・・・
ティピーが出来上がる間に私は火を起こして夕飯の準備をする。
塩漬け肉を使ったスープとパン、簡単ではあるけれどスープは体が温まっていいのだ。
「思ったんだけど、しばらくは料理も気を付けた方がいいのかな?」
「と言うと?」
「ほら、私が作る料理は元の世界の物が多いからさ・・・」
「あー、確かにな。
いくら気を付けていてもどこから情報が洩れるか解らないからな」
「そうですね、最低でも今来ている人族の捜索隊が居なくなるまでは
控えた方がいいかもしれませんね」
「だよねぇ。
こっちの料理が載ってる本でも買おうかな」
「それならば国境に着く2つ前の町に寄るか。
あそこなら大き目の町だから本も手に入るだろう」
この冬、手入れをした毛皮や爪、牙などを売ったお陰で少しだけお金にも余裕があるのだ。
ふふふ、頑張った甲斐があったぜぃ。
寝る時は3人で固まって寝る。その方が暖かいからね。
2人共獣の姿になってくれるからモフモフのぬくぬくで気持ちがいい。
お陰で昨夜あまり眠れていない私はぐっすりと寝る事が出来た。
「うわぁっ」「ぬおっ」「へ?」
寝起き早々、3人で変な声が出たじゃないよ・・・
寝ている間に転化が起きたらしく、目覚めると私はボブキャットの獣人になっていたのよ。
ちょっと行き成り過ぎやしないかな?
確かに引っ越すタイミングでとは聞いてたけども、事前告知とかして欲しかったわよ。
と思ったら枕元に手紙が置いてあった。
『 色々と驚くと思ったので寝ている間に終わらせて置いたぞぃ。
ちなみに転化での獣人なので獣姿には慣れぬが許しておくれ。
2~3日は全身筋肉痛の様な痛みがでるので気を付ける様にの。 』
いやいや、今でも十分驚いているんですが?
もっと驚くって何が起こったんですかね?
とここで浮かんだのが某映画のシーンだった。
人間から狼男へ、狼男から人間へと変身する時ベキバキとそりゃもぉ痛そうに・・・
そりゃそうか、骨格からして作り変えになるんだもんね。
うん、寝ている間で良かったのかもしれない・・・
それにしても全身筋肉痛って、昨日でも内腿とお尻が筋肉痛だったのに?
しばらく全身筋肉痛なの? 気を付ける様にと言われても気を付け様がないじゃない、勘弁して欲しいんだけど。
取り敢えず証拠隠滅って事でこの手紙は焚火の中に投げ入れて焼却した。
朝食を食べ終えて出発となった時、私は実感した。
腕から背中からとありとあらゆるところが筋肉痛のような痛みがあるのだ。
これは結構キツイぞ・・・
痛み止めとかある訳でも無し、仕方が無いので痛みが治まるまでは幌馬車に乗る事にした。
けれども揺れが響くので痛い・・・
少しでもマシになるようにとニクス兄さんが毛皮を5枚も敷いてくれたけど、多少マシな感じがするくらいだった。
ちなみに凄くどうでもいい事なんだけど髪の色は明るい金髪に、白髪部分は目と同じ青紫になっていた。
馬車に揺られながら自分の手をマジマジと見てみる。
パッと見は今までと変わらないけど、手の腹というか内側が肉球になってるのよね。
それに猫みたいに爪が自分の意思で出し入れできるようになってるのよ。
くいっ、にょきーんっ みたいな感じ?
自分の手なんだけど不思議な感じがする。
そして尻尾、これまた慣れない。
確かに長い尻尾よりはいいんだけど、ふとした時に「なにこのモコッてなってるの」って思っちゃうのよね。
そのうち慣れるんだろうか、いや慣れて貰わないと困るんだけど。
3日もすれば痛みは治まっていたし、乗馬にも少しは慣れたようだった。
行程の半分を過ぎたあたりで凍った川を渡る事も減ったけど、なんでこんなに川幅が大きいのよ!
そう言えば海外の川はこんな感じで大きな河が多いんだっけか・・・
異世界だもんねぇ、川幅が大きくても不思議ではないかもと納得する。
その内この「異世界」と言う感覚も無くなっていくんだろうか。
それはそれで少し寂しい様な気もするけど、私もここの住民となったのだからそんな感覚は無い方がいいんだろうなぁ。
国境まで後3日、ここで大きな街へと立ち寄る。
料理本を買うのと宿でシャワーを浴びたかったからだ。
馬車の荷物などの安全面は大丈夫なのかと心配したけど、町の自警団と兵士団の見回りがしっかりしてるので大丈夫なんだとか。
しかも偶然だけどニクス兄さんの元部下が3人程この町の兵士団に居たので尚更安心らしい。
「こちらが隊長の妹さんですか、うわぁ小さくて可愛いな」
「今はお前が隊長なんだろう、俺が隊長だったのは過去の事だ」
「そうなんですけどね、俺達にとっては今も隊長は隊長なんですよ」
「荷物は心配しなくても俺達がしっかりと見ておくから。
きょうはゆっくりと休んでね、えぇと・・・リュンちゃん」
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
「うわぁ、礼儀正しくて可愛いなんて最高じゃないですかっ」
「俺の妹だからな」
いや、それ何自慢ですかね・・・
この日久々にシャワーを浴びてベッドで寝る事が出来たのだけど、リックス兄さんが一緒に寝ると言い出して私はまた抱き枕にしてしまったようだった。
どうやら無意識下の習慣になっているようだ。習慣って恐ろしい・・・
読んで下さりありがとうございます。
太平洋沿岸部にお住いの方々、昨夜の地震は大丈夫でしたか?
作者の住む場所も大きく揺れ津波警報が出ましたが、お猫様が警戒して唸りまくっているので避難はあきらめました(;´Д`)
今後1週間は大きな地震が起こる可能性もあるらしいのでお互い気を付けましょうね~。




