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15:メンタルもつかしらね?

空にオーロラが見える頃になると冬の終わりが近付いている証拠なのだそうだ。

風の勢いも緩み始め、そろそろ本格的に移動の準備を始める。

完全に冬が終わってからなのかと思っていたのだけど、そうすると解氷が始まり川が渡れなくなってしまうらしい。

なるほど、確かに川幅は広いので迂回するとなればかなり遠回りになりそうだ。


目的地となる司教様、リックス兄さんの赴任先は北にある魔族の国との国境の町なのだそうで、移動には2週間掛かると聞いた。

クィーンのようなデストーリャ種でなければ1ヶ月弱は掛かるのだとか。

その国境の町は近くに山脈があってその山脈には魔物も住んでいるらしく、魔除けの護符が作れる司教様が適任だと言う事になったらしい。

魔物・・・ どんな姿なのだろう。ちょっと怖いかも?


「心配ない、すでにキヨ・・・リューンは見た事あるだろ」

「へ?」

「ビッグアントラースにアングリーベア。あれも魔物の一種だぞ」

「ぶっ、マジかー・・・」


どうりで知ってる鹿だの熊だのと違ったわけだよ・・・

なんか納得した。

中央大陸や東の大陸ほどでは無いけど、魔物は基本的に何処にでも住んでいるらしい。

国境付近の山脈は交易ルートにもなっているので魔族の人達と協力して守っているのだとか。


「魔除けの護符があれば襲ってくることは滅多に無いから安心しろ」

「そっか、リックス兄さんが大活躍だね」

「同じ司教でも護符が作れる人は少ないからな」


なんだか大変そうだけど、頑張れリックス兄さん。

まだ兄さん呼びになれなくて照れくささがあるのだけど、慣れておかないとうっかりとかやりかねないからね。


移動中の食糧は現地調達も出来るだろうから最低限の量でいいとの事だった。

ならば町へ挨拶に行った時に残っている食料は町の皆に使って貰おうと思う。

持って行くものとしてはサケの燻製1匹分と干し肉1袋と残ってるガラにベリーのジャムくらいかな。

あ、ヤナギランの茶葉や調味料類も忘れないようにしないと。

引っ越し荷物のほとんどは服になりそうだしね・・・

こんな時圧縮袋があれば便利なのになと思うけど、そもそも掃除機が無いから圧縮出来ないよね。

なるべくかさばらない様に、くるくる丸めて木箱に詰めていく。

なんだかんだで8ヵ月近く過ごした家だ、荷造りが進むにつれ寂しさを感じてしまう。


「大丈夫だ、必ずまた此処に戻って来るのだからしんみりとするな」

「うん、そうだね」



出発の前日、私達は町へやって来ている。

まずはバパールおじさんの所へ向かい挨拶を済ませた。

バパールさんも時折家の様子は見ておくから心配するなと言ってくれた。


「道中気を付けるんだよ」

「はい、ありがとうございます。いつになるか解らないけど

 必ず戻って来るからそれまでバパールおじさんもお元気で」


バパールおじさんにはシードルを渡した。

なにがどうなったのか解らないけど、ガラで作ったジュースが1本だけシードルになってたのよ・・・

私、お酒は飲めないのよね。


その後も町の皆に挨拶をしてまわった。

塩漬けや燻製にした魚や肉、ジャムやジュースなんかも渡していく。


「これなら荷物の邪魔にならないだろうから持って行ってちょうだい」


そう言ってバターやチーズを貰ってしまった、これって高価だったはずじゃ・・・

皆で何がいいか相談して、お金を出し合って買ってくれたのだそうだ。

やだ、また涙腺緩んじゃうじゃないよ。


「ほらほら、泣くんじゃないよ凍傷になっちまうからね。

 笑顔を見せておくれ」


私は頷いて笑顔を作る。 今声を出したら涙があふれてしまいそうだ。


「おぉーい、待ってくれ。待っとくれー!」


息を切らせてお爺さんがやって来る。

あれ、このおじいちゃんって確か仔馬がどうのと言っていたおじいちゃんでは・・・


「ふぅ、間に合った。 ほら約束の仔馬じゃ。

 馬具も用意したかったんだがな、間に合わなかった」

「ふふっ、そんな事もあろうかとワシが用意したわい」

「おぉ、気が利くな」

「ほれ、嬢ちゃん。まだ仔馬だがちゃんと長旅にも耐えられるデストーリャ種だ」

「えぇぇ、本当に貰ってしまっていいのですか?」

「んむんむ、そのために育てたからな」

「ありがとう、ござっ・・ます・・・」


もう無理だった、私の涙腺は崩壊した。

やっぱりこの町が、皆が好きだ。離れたくないけど巻き込みたくもないわよ・・・


そこからは皆も泣き始めてしまい凍傷になるからと肩を寄せあって抱きしめ合えば、おしくらまんじゅう状態になってしまった。

いつまでも待っているから、近くまで来る事があればこっそりでいいから立ち寄るようにとまで行って貰えた。

えぇいあのアンポンタンめっ! お前なんか不動尊様にぐりぐりの刑にされてしまえ!

そんな感じで凄く後ろ髪を引かれたけど、皆と別れの挨拶を済ませて家へと戻った。


夕暮れ時になるとリックス兄さんが2頭立ての幌馬車でやって来た。


「衣類などの濡れて困るような物はこちらに乗せましょう。

 疲れたり寒さがつらくなればリュンも乗れますしね」

「なるほど、確かにいいね」

「ではクィーンの方にはティピーなどの濡れても大丈夫な物にしようか。

 まぁ一応は雪除けの布を被せはするが」


明日は早起きして荷物を積み込むからと夕食も簡単に済ませて眠りに就いた。



娘ー!

そろそろ孫は生まれた頃かい? いや生まれて無きゃおかしいよね。

男の子女の子どっちだったんだろう。会いたかったなぁ。

おかんの方はさぁ、なんかくそ迷惑な事に巻き込まれかけて引っ越す事になったよ!

んでもって獣人に転化する事になったよ!びっくりだよね!

これ以上びっくりする事が無いといいなぁ。

あ、そうそう。そろそろじぃちゃんばぁちゃんの十三回忌があるから宜しくねー!

仏壇のお供えも忘れずにねー!

あれ、私の一周忌もあるんだっけ、面倒いから合同でやっちゃえー。


って、まぁ伝わらないんだけどね・・・ 気休めよ、自己満足よ!

寝ないと明日が辛そうだよね、とは思うものの寝付けなかった。

そっと起き上がり玄関の外に出て、大事に残しておいた煙草に火を点ける。


「グェッホゲホゲホッ・・・」


久々過ぎて咽た。

娘ー! おかん禁煙出来るかも!!

いやそうじゃなくて・・・


「眠れないのか?」

「ぅわいっ! びっくりしたぁ・・・」

「すまんすまん、リュンが外へ出るのが見えてな」


流石猫科、夜目が利くらしい。


「なんか寂しさと不安があってね」

「この町は居心地が良かったからな」

「うん・・・」

「だがな、何処へ行こうと獣人は皆おおらかだから心配するな。

 まぁ一部の貴族連中はちと面倒臭いのも居るが国境なら関わる事も無いしな」

「魔族の人はどんな感じ?」

「普通に気のいい連中だから安心していいぞ」

「ニクスさ、兄さんは会った事ある?」

「ああ、何度か一緒に仕事をした事も騎士時代にはあったし

 少数だがこの国にも魔族は住んでいるぞ」

「そっか、じゃぁ心配はしなくても大丈夫そうだね」

「まぁ違う心配はあるかもしれんが」

「へ?」

「魔族は獣人や人族よりも長生きな分、子が少ない」

「つまり・・・」

「んむ、構い倒される気しかしないな」

「ぅわぁ・・・私のメンタルもつかしらね・・・」

「まぁそこは慣れろ」

「ははは・・・」

「さぁ、眠れなくても横になっておけ。

 体も冷えているじゃないか」


ニクス兄さんは私を抱えて家の中に入りそのままベッドに潜り込んでしまった。

いやいや、あのね? またこの状態で寝るの?

私子供じゃ・・・子供だったよ未成人だったよ、忘れてたよ!

まぁ温かいし、飼ってたノルウェージャンだと思えば・・・



「なに2人でくっついて寝てるのさ、ずるくない?」


素の喋り方になったリックス兄さんに起こされた。

どうやらいつのまにか眠れたらしい、そしてまたニクス兄さんを抱き枕にしていたようだ。

そうだよね、駄目じゃん、ノルウェージャンだと思ったらこうなるじゃんね・・・


「次は私とも寝て下さいね?」

「え、あ、はい・・・」

読んで下さりありがとうございます。

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