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14:思わず抱き着いたのよ

「だから同じ猫科の方がいいと思うのよ!」

「いいや、キヨカにはウサギが似合う!」

「ウサギと親子だと違和感があるでしょう!」

「そんなものは慣れてしまえばどうとでもなる!」


私達がオンスさんの家へとやって来た時、オンスさんと奥さんは言い争いをしていた。


「なにやってんだ2人共・・・」

「あらニクス、丁度いい所へ。

 ねぇ、ニクスも猫科の方がいいと思うわよね?」

「なにを! ウサギの方が絶対に似合う!そうだろルナー!」

「え? 僕に聞くの?! 僕はキツネが一押しかな」


何故かルナーさんまで付いて来ているのだけどね・・・


「落ち着いて下さい2人共。ほらキヨカも驚いているじゃないですか」

「あら珍しい、リックスも居たのね。え? キヨカも来ているの?

 やだぁ、ごめんなさい。驚いたわよね」

「おお、キヨカ。久しぶりだな、さあおいでパパだよ」

「まだでしょ!オンス気が早いわね、順を追って話さないとでしょ!」


パパって行き成りどうした・・・

戸惑う私を中へと招き入れた後、オンスさんは説明をしてくれた。


どうやら2人も噂を聞きつけたらしく、私を養子に迎えて獣人だと言い切ってしまえと話していたそうで。

その際疑似耳と尻尾を選ぶにあたり、猫科にするかウサギにするかで揉めていたのだそうだ・・・

疑似耳と尻尾・・・ そんなのあるんだ。


「ほら見て、可愛いでしょう?」


と差し出されたのは猫耳が付いたカチューシャと尻尾がついたベルトだった。

試しにと付けてみる。


「「「 ぐふっ 可愛い 」」」


鏡を見せて貰うと、確かに可愛い。

髪で上手くカチューシャ部分も隠せるし、パッと見では解らないかも。


「こっちも付けてみてくれ」


今度はウサ耳を付けてみる。


「「「 こっちも可愛い 」」」


確かに可愛いけど、耳が長い分ちょっと重い・・・

と言うか、引っ越すタイミングでボブキャットになるんだからこれ要らなくない?

そう思うのだけど、ニコニコしている2人を見ていると言い出せない・・・

じっとニクスさんを見つめるとニクスさんも言いにくそうにしていた。

そこでルカーさんが話を切り出してくれたので助かった。


「あらそうなの?ボブキャットなのね。ふふふ、私は大歓迎よ。

 娘が欲しかったもの」

「むぅ、確かにボブキャットなら尾も短いから普段は見えないしな。

 養子縁組については先程も言った様にこちらから申し出るつもりだったからな」


善は急げと言う事でオンスさんは「るんるん♪」て文字が頭上に浮かんでいるんじゃないかってくらい上機嫌で申請用紙を受け取りに行ってしまった。


「親父、人の話は最後まで聞けよ・・・」

「相変わらずですね父さんは・・・」

「申請用紙は持って来てるのにね」


そう、申請用紙は用意して来たのよね・・・


「ほっといて先に記入出来る所を書いちゃいましょ」


申請には証人が2人必要となっているのだが、1人はバパールおじさんの名前が記入されていた。

へ? なんで? どういう事?


「訳ありなのだろうとは察してくれていたようでな、

 用紙を貰いに行った時に何も聞かず記入してくれたんだよ」


バパールおじさんっ!なんていい人なんだろう、今度会った時は思い切りハグしておこう。

もう1人の証人はルカーさんがなってくれると言う。


「ニクスの妹なら僕にとっても妹になるからね」


そうして記入していき、後はオンスさんが書くだけとなったので皆でのんびりとお茶を飲みながら待つ事にした。

お茶を飲み終わる頃にオンスさんは動く雪像の様な姿で戻って来た。


「オンス、獣姿で行かなかったの?」

「んむ、忘れていたな」

「そう。それでね、申請用紙はニクス達が持って来ていたわよ?」

「なんだと!」

「言う前に親父が飛び出して行ったからな・・・」

「話は最後まで聞いて下さいね父さん」

「んぐっ・・・」


提出は雪解けになってからオンスさんが出す事になった。

雪解けから夏が終わるまでの間は出産の届け出や養子縁組の届け出も幾つかあるので目立たないらしい。

子供が貴重なのに養子縁組があるのかと不思議だったけど、不慮の事故や病で親が亡くなったりすることがあるのだそうだ。

そっか、不慮の事故とか病じゃどうにもならないよね・・・



今日はこのまま此処で泊まっていく。

オンスさんは新しい名前に慣れるのだと言って「リュン」と繰り返し呟いていた。

なんだか呪いの呪文みたいで怖い・・・

レオノラさん(お母さんの名前)は張り切って料理をしている。

何かお手伝いをと思ったのだけど、楽しみに待っていてと言われてしまった。


ドドンッ


夕飯に出されたのは巨大な鹿肉のケバブだった。

何処かの祭りかイベント会場で見るような巨大さで、何人前よと言いたい。

いっぱい食べてねと渡された1人前は私からすると3人前くらいありそうなのよね。

残すのも申し訳ないと思い頑張って食べたけど、おかわりは?と聞かれた時は泣きそうだった。

小食なのねと言われたけど獣人と一緒にしないでいただきたい。

皆あの量が何処に入っていくんだろう。


翌日、ルナーさんは休暇が終わるからと王都の騎士団へと帰って行った。

ニクスさんの肩は治った訳では無く多少はマシになった程度で、未婚の父でもなく妹が出来ていたと報告してくれるそうだ。


私達も家へと戻った。

まだ冬は長いとは言え、引っ越しの準備もしなければならない。

この家はこのまま残しておく事になっている。

いつか聖女とかユマンとの関りが綺麗さっぱり無くなったら戻って来たいと思うから。

そもそもがさぁ、異世界から連れて来るならちゃんと説明と基礎教育を済ませてから送り出せよとか思う訳でね?

ユマンの連中も甘やかしてんじゃないわよ!

ユマンにはマトモな連中居ない訳? 居ないからこうなってるんだろうな・・・

高校生なんでしょ?我儘ばっか言ってんじゃないわよ!

私の知ってる高校生はもっとまじめに将来の事考えて動いてたわよ!

自分で働きたくないからって人に押し付けようとするんじゃないわよ!!

普通に考えてさ、マトモな聖女が現れたらその女子高生お払い箱だと思うのよ。

そこら辺解ってるのかしらね?

まぁ私にはそんな力無いし欲しくも無いし、アンポンタンの考えなんて理解出来ないわよ!ふんっ。

まぁそっちはそっちで好き勝手してるんだろうし、私も私で好きに暮らすつもりだから金輪際関わらないで頂きたい切実に! ホント切実に頼むよ!

兎に角さっさと諦めてもらって、私達がここへ戻って来れる日が来るのを願う。

それまではオンスさんが時々家の様子を見に来て管理してくれるそうだ。


クィーンは荷運びだろうが長旅だろうが任せろと言ってくれて頼もしい。

カムイにもしっかり食べて体力をつけろと発破をかけている。

カムイは筋トレのつもりなのか、強風の中1日1本何処からか丸太を持ってきてくれている。

えらいねカムイ、でも無理はしないでね?



そんなある日バパールおじさんが相変わらずの熊の姿で荷車を引っ張ってやって来た。


「旅に必要な物を持って来たから使ってくれ。

 それとな、司教様の新しい赴任先なんだが双子の弟がそこで町長をしている。

 だから何も心配はいらんからな」

「バパールさん・・・」

「バパールおじさんだ」

「バパールおじさん、ありがとう!」むぎゅっ


きっと聞きたい事だってあるだろうに何も言わずにいてくれる。

私はありがたくて嬉しくて、思わず抱き着いた。


「町の皆も心配していたよ。

 訳ありなのはそれとなく解っている。だけどまたいつか戻っておいで。

 皆で待っているからね。それとこれだけは約束しておくれ。

 旅に出る時は黙っていかずに必ず声を掛けてくれるかい?」


私は言葉にならなくて、うんうんと頷く事しか出来なかった。


「町長、ありがとうございます」

「2人共、町の大事な仲間で家族同然なのだから気にするな」


そう言ってバパールおじさんは帰って行った。

荷車にはティピー一式と寝袋、移動用の小さなストーブが乗せられていた。

どれもこれから作ろうとしていた物だったので本当に感謝しかない。

荷車は雪が被らない様に納屋へと入れておいた、と言うよりはクィーンがさっさと運んでくれていた。

本当に頼もしいねクィーン。

夏になったらクィーンの大好きな林檎をいっぱい採って来てあげようと思う。

読んで下さりありがとうございます。

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