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12/25

12:叫ぶわよ

今日は牙や爪、骨などの加工をしている。

頭蓋骨から牙や歯を取り外したり、爪を1本づつに切り離したりと思ったよりも力が必要となった。

パーツごとに分解できたら冷暗所にて乾燥させるのだけれど、この時期であれば廊下で十分だ。

乾燥したら余分な毛をカットしたり磨いたりするのだけど、この時は注意力と集中力が必要になる。

牙や歯、爪はいずれも鋭いのよ。

見た目は先が尖って無くて、そこまで鋭くない様に見えるのにね。

その後にアクセサリーやお守りなどの加工をするのだけど、模様を刻む場合はカービングナイフの様な小刀でやる事になる。

彫刻刀が欲しいと思ってしまった。

仕上げはトウヒの樹脂でコーティングすればOK。

これもかなり時間が掛かる作業となるけど、冬の間のいい時間つぶしになっていいと思う。


残酷だ、グロテスクだと言う人も元の世界だと居るんだろう。

でも命を頂く訳だから、可能な限りは資源として使いつくすのが礼儀だと思う。

なぁんて私も最初は色々と抵抗があったりもしたのよ?

でも無駄にしたりしたら、なんか申し訳ないなと今では思うようになった。

私達が食べない部位なんかはカムイが食べるし、カムイも食べない部分は埋めて大地に帰す。

きっと昔の人の考え方もこんな感じだったのかもしれない。


そんな感じで冬の3ヵ月くらい経過した頃だろうか。

ニクスさんの元同僚だと言う白キツネの獣人さんがやって来た。

よくこんな真冬に来たなと思ったけど、考えてみればホッキョクギツネやアカキツネなんかは極寒の北極圏で生活しているのだから白キツネさんも大丈夫なのだろう。

真っ白なフワフワキツネの姿だったし。


家の中へ招き入れると獣人の姿に戻った白キツネさんはイケメンだった。

ライトグリーンの目に銀色の髪。

そう言えばニクスさんもイケメンだよ? と言うより、獣人は皆美男美女だ。

白キツネさんの名前はルナーさん、休暇を利用して会いに来たのは建前で騎士団を代表して噂の真相を確かめに来たのだそうだ。

噂の真相ってなによ、もぉね、嫌な予感しかしないわよ。


「ニクスの肩が治って未婚の父になったと言う噂が騎士団内で流れているんだ」

「未婚の・・・」

「父・・・」

「やはり違うようだな」

「んむ、未婚の父ではないな」

「まぁある意味保護者と言えば保護者なのかもしれませんけどね」


と言う訳で、町の人にした説明と同じ説明をルナーさんにもした。


「森の中でぽつんと・・・

 名前以外の記憶が・・・なんてこったい。

 こんなに小さいのに怖かっただろうにな。

 キヨカをこんな目に合わせた奴にはきっと天罰が下るだろうよ」


ルナーさんは目を潤ませてしまった。

ごめんなさい、中身はおばさんなんですと心の中で謝っておいた。

そして私をこんな目に合わせたのは人族の神様らしいです・・・

天罰・・・たぶん上司の神様が下してくれたんじゃないかな。


「それで肩の方はどうなんだ? 治ったのか?」

「まぁな、キヨカのお陰でこの通り上がるようになった」


と腕を振り上げて見せてるけどニクスさんや?

私のお陰なんて言い方をしたらルナーさんがとんでも勘違いをするんじゃないかな?


「もしかしてキヨカは魔法が使えるのか?」

「へ? 魔法ってなに? そんなのあるの?」


魔法が存在する世界なのかと驚いていたら2人が説明してくれた。

エルフ族と魔族、一部の人族は魔法と言う物が使えるのだそうだ。

へぇ、そんなファンタジーな世界だとは知らなかったよ。


「キヨカは魔法に興味があるか?」

「うーん、ある様な無い様な。実際に見た事が無いからなんとも言えないな」

「王都にくれば見る機会もあると思うぞ」

「王都・・・ 都会怖いよ」

「ぶっ、何故に」

「私すっかりここの暮らしに慣れたし

 町の人達も穏やかで優しい人ばかりなんだよね。

 都会だと人も多いだろうから、色々な価値観や考え方の人がいるでしょ?

 いい人ばかりとは限らない訳だし犯罪とかもありそうだしね?」

「確かに犯罪も多少は起こるな」

「犯罪までは行かずともイザコザも起こるしな」

「でしょ? ほら怖いし面倒くさい」

「ニクス、怖いは解かるが面倒臭いとかって子供としてどうなんだ」

「どうなんだと言われてもな。

 それに確かに面倒臭い事もあるではないか。王侯貴族とか他国大使とか」

「あー、それはまぁ確かにな」


王侯貴族とかの貴族制度もあるのか、よけいに面倒臭いじゃないか・・・

それにしてもルナーさんは本当にニクスさんの肩が治ったのか、未婚の父になったのかを確かめに来ただけなのだろうか。

なんとなくだけど、それ以外にも何かあるような気がするんだよね。


「ルナーさん、本当にそれだけの確認で此処へ来たんです?」

「ん? ああ、そうだよ」

「なぁんか違う気がするんですけど」

「何故そう思うのかな?」

「未婚の父かどうかなんて騎士団には関係の無い事ですし

 肩が治ったかどうかに関しては

 治っていれば騎士団に呼び戻したいのかなと思いまして」

「うっ、意外と鋭いね・・・」

「王都からはそれなりに遠いでしょうし、こんな森の中までわざわざ来るなんて

 噂の真相確認だけじゃないと思うでしょ普通。ねぇニクスさん」

「まぁどうせ呼び戻しに来たんだろうとは思っていた」

「そ、そうか。どう切り出すか悩んでたんだがな・・・」


どうやらニクスさんは騎士団の中でもかなり人望が厚かった様で、復帰して欲しいとの声が多いらしい。

面倒見がいいもんなぁ、後輩だの部下だのとニクスさんを慕っていた人は多いんだろうな。


「だがな、俺が騎士団に居たのは100年前だぞ。

 今は今でそれなりに纏まっているのではないのか?」

「纏まってはいるよ、いるんだけどさ。

 神託が下りたとかで騎士団をもう1つ立ち上げるってな話が出てるんだよ」

「神託?」

「人族の国の1つ、ユマンで聖女が現れたのは知っているか?」

「いや、知らぬな」


1年前、ユマンに異世界より神がつわせた聖女が現れたらしい。

それがどう関係するのだ。

いや個人的には関係してるんだろうけどもね?

きっとその聖女とやらと間違えられたのだろうから。

他国、しかも他の大陸で聖女が現れたからなんだと言うのだ。


「その聖女が神託を受けて、聖女の同胞が北の大陸の何処かに現れたから

 探し出して連れてくるようにと言い出してな」

「なるほど。

 その聖女の同胞とやらの捜索隊を立ち上げる為に俺を呼び戻そうという事か」

「なぁニクス。もしかしてキヨカは・・・」

「ちょっとルナーさん待ってくれる? ニクスさん、2人で話したいかな」

「ああ、解かった」


私とニクスさんは廊下へと出て話をする。


「ルナーさんて信用出来る?」

「ああ、両親と弟の次には信用出来る相手だ」

「そっか、じゃあ私も信用してみようと思う。

 だからさ、これから教会行こう」

「教会? なるほど、神に問い合わせをするのか」

「問い合わせじゃないわよ、文句に決まってるじゃない」

「そ、そうか」


ルナーさんには悪いけど、まずは見せた方がいいと思うんだよね。

前回同様きっとルナーさんにもニクスさんや司教様みたいに見る事が出来るだろうからさ。

という訳で、戸惑うルナーさんを引き連れて教会へ向かった。


「おや兄さんにキヨカさん。いかがなさ・・・こちらへどうぞ」


司教様は私の表情から察してくれたのだろう、礼拝室へと案内してくれた。

ふぅと深呼吸をして神様に呼びかける。

今回は頭の中でとか心の中でじゃないわよ、声に出して呼ぶわよ!


「アリェーニャ様いらっしゃいます?

 アリェーニャ様今すぐ聞きたい事があるんですけど!

 いらっしゃらないならこのまま叫ぶので聞くだけ聞いておいてくださいね?

 聖女に下りた神託ってなんですかね?

 なんでその神託とやらで私の事が出て来るんですかね?

 勝手に拉致っておいて人違いでポイ捨てされたあげく

 勝手に神託に出して巻き込むとかすぅーっごく迷惑なんですけども!

 どこのアンポンタンですかねその神託下したのって。

 あの誘拐犯は処罰したんじゃないんですかね?

 もしかしてまだ処罰出来てないとかなんですかね?

 それとも後任の神とやらもスカポンタンなんですかね?

 巻き込まないでくれますかね?」


ここまで一気にまくし立てた所でペカッと光り、3度目の真っ白な空間に居た。

ニクスさんと司教さんは2度目なので多少はなれたのか、またかと言う感じだった。

ルナーさんは目が落ちそうなくらいにまんまるに見開いて固まっていた。


「数ヵ月ぶりですねアリェーニャ様」


私は手をパキポキ鳴らしグリグリ攻撃の準備をしながらニッコリと微笑んだ。

読んで下さりありがとうございます。

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