11:センスがおっさんよね
久々におばいけが食べれると思うと嬉しくなる。
おばいけとは皮付き脂身を薄くスライスして茹でた後に水に晒した物で、酢味噌で食べると美味しいのよ。
あ・・・ 酢味噌無いじゃん、味噌が無いんだから作れないじゃんよ。
がぁーん・・・
仕方が無い、赤身と同じ様に生姜醤油で食べよう・・・
私の実家では赤身を凍らせたままスライスして食べていた。
ルイベと同じ様な感じだね。
竜田揚げやカツにしても美味しいけど、私はこの凍らせた刺身が一番好きだった。
ニクスさんは食べた事が無いのだそうで、どんな反応をするのか楽しみだ。
「もう無くなった、おかわりは・・・」
「駄目!キートは貴重なんだからちょっとずつ食べるの!」
「頼むよキヨカ、もう少しだけ」
「だぁめ!ニクスさんのちょっとはちょっとじゃないんだもの!」
気に入ったようだったので、また購入機会があった時はもう少し多めに買っておこうと思った。
翌日からは厩の改装を始めた。
私も家事の後手伝っている。
早くしないと雪が降ってしまうからね。
そう言えば、クィーン達は暖房無くてもいいのだろうか。
そう思ったけどちゃんと暖炉があったので安心した。
薪として使われるのは立ち枯れしたトウヒが多い。
針葉樹で火の着きはいいけど燃焼時間が短いというイメージだったのだけどこの世界では違うらしい。
幅10㎝くらいの薪1本で4~5時間ももつ。
寝る間などはもう少し太めの薪を入れておけば朝までもつので驚いた。
そして私はもっと驚く事になる。
クィーンは夜間、自分で暖炉に薪をくべているらしい。
マジで? むちゃくちゃ優秀じゃないよクィーン。
こうやって(口に咥えて) こう(暖炉にぽいっ)
ドヤ顔で鼻息が荒い。
うんうん、凄いね流石だねクィーン。
流石に自分で火は起こせないから、そこだけ宜しくね?
はいはい、わかったよ。
そして2日程で改装は終わり厩は8畳くらいの大きさになった。
この冬はこれでいいだろうとの事で、次の夏にカムイの成長具合と相談しながらまた考えるらしい。
雪が降る前に終わってよかったと思う。
最近はすっかり冷え込むようになったから、いつ雪が降ってもおかしくない状態だ。
そう思ってたのに朝起きたら一面銀世界になってたよ!
確かにいつ降ってもおかしくないとは言ったけども、行き成りごっつりと積もったね・・・
「今年の初雪は少なく済んで良かったな」
「へ?! これで少ないの?」
「例年なら1mは積もるな」
マジかー、私としては50㎝でも十分多いんだけども。
そっかぁ、これで少ないのか。
でもまぁ雪が降る日は少ないって言って・・・もしかしてこれまた私の思ってる感じと違ったり?
「ニクスさん、一冬で何日くらい雪が降るの?」
「そうだな、平均すれば月に1回くらいか」
あぁぁ、やっぱり私が思ってたよりも多かった。
私が住んでいた場所は海沿いだったから強風は吹き荒れるけど雪は1シーズンで2~3回降るくらいだったんだよね。
これは覚悟しておかないと雪掻きが大変そうだ。
「ああ、心配はいらないからな。
雪掻きは通路部分だけでいいし俺とクィーンでやるから」
「ここでもクィーン大活躍なのね」
玄関先とかちょっとした場所くらいは手伝えるけど、後はお任せしようと思う。
そして少しは筋力も付けなければとも思った。
もっとも此処での生活をしていればそれなりの筋力はつきそうだけどね。
長い冬の間何をして過ごすのかと言えば、溜めてあった皮をなめしたり爪や犬歯の加工をしたりするのだそうだ。
どれも手間暇かかる作業になるのでどの家でも皆冬の間そういった作業をして過ごすのだそう。
ニクスさんに教えてもらいながら私も作業に挑戦だ。
皮のなめし作業は知識としてはしっているけど、実際にやった事はない。
まずは刃の無いナイフで皮の裏というか内側に残っている脂や薄い膜をこそぎ取っていく。
これが結構な重労働となる。
ニクスさんは冬は長いのだからゆっくりやればいいと言う。
確かに急いでやるような物ではないよね。
脂や膜が残っていると劣化の原因にもなるから速さよりも丁寧さが求められる。
ずっと前かがみになってやるので腰にくる・・・が黙々とやる作業は案外私にむいているようだった。
こそぎ取って綺麗になっていく皮を見るのは楽しい。
「キヨカは作業が丁寧だな、それなら高品質として高値になりそうだ」
「やったね!」
脂や膜を綺麗に取り除いた後はハンノキの樹皮を煮出したタンニン液を塗っていく(毛の無い内側に)
腐敗や劣化の防止になって柔軟性も出るのだとか。
ちなみにこのタンニン液は柱とかの防腐剤としても使える。
日本でも昔は渋柿の搾り汁を発酵させて作る柿渋も木材の防腐剤として使われていたよ。
ムラにならないように、何度か塗って乾かせば完成。
裁縫が得意な人であればアノガジェやマクラクなんかを作ったりするのだろうけど、ニクスさんも私も裁縫に関しては・・・・ね?
なので冬が終わったら毛皮として売るのだ。
本日の夕食はサケとじゃが芋のグラタンとサラダにパン。
ラックスプディングを作りたかったのだけど卵が無いのでグラタンにしたのよね。
卵は初夏の御馳走らしいのよ。
そりゃそうか、こんな極寒の地で養鶏とか無理そうだもんね。
あれ?だったら夏に食べた卵は何の卵だったんだろうか・・・
気になったので聞いてみる。
「ニクスさん、夏場に食べた卵って何の卵だったの?」
「ああ、あれはカモメやウミツバメなどの海鳥のだな。
当たりだとガチョウやハクチョウも採れるぞ」
カモメやウミツバメ、ガチョウまでならなんとか受け入れる事が出来るけどハクチョウ・・・
いやいや、貴重な栄養源なのだから今までの感覚とは切替なきゃね。
そっかぁ養鶏と違って野生の卵は有精卵になるから、やっぱり命を頂く事になる訳で感謝して食べないとだな。
加工作業をしながら雑談をして、天気のよい日(風の無い日)にはクィーンやカムイの散歩がてら薪集めをして過ごして居る。
天気が良いと言っても寒いのは寒いわよ?
睫毛や鼻毛も凍るからスキーの時に使う様なフェイスガードや目指し帽が必須になる。
ゴーグルも欲しいところだけど無いので仕方が無い。
体感温度? 解らないわよ、経験したことが無い寒さだもの。
寒いと言うより痛いかもしれない。
獣人の皆さんはよく平気だね、やっぱり慣れなのだろうかと思ったけど違ったよ。
2足歩行の獣タイプや4足歩行の獣タイプになってるんだもの!
モッフモフ仕様になってるんだもの、暖かいんだろうなぁ羨ましい。
カムイはまだ痩せ気味だけど、少しずつ回復しているように思う。
ユノクもホッキョクグマ同様、冬眠しないらしいのでしっかりと餌も食べて貰わないとだね。
頑張って大きく育つんだよ。
たまに小型の獲物と遭遇する事もある。
トガリネズミやタビネズミ、イタチなどでこれらは繁殖力が強いので通年狩りが可能なのだとか。
私の知っているトガリネズミはモグラに似ている見た目なのだけど、違うのよ。
頭がね? トの文字みたいなモヒカン刈りになってるのよ、おやじギャグかよ!と叫びそうになったよね・・・
タビネズミなんか童話の挿絵にありそうな姿でさ、木の棒の先に風呂敷包みくっつけて肩にしょってるのよ・・・
誰が名付けたのかはしらないけど、センスがおっさんよね。
イタチはそのままの見た目で安心したのだけど、安心したら駄目だった。
忘れてたよ【イタチの最後っぺ】
これくらったらしばらく匂いが取れなくて悲惨な目にあう・・・
え? 私? 喰らいましたがなにか?・・・
仕方がないじゃない、すっかり忘れてたんだから。
でもイタチの毛皮は高値になるのでありがたい。
ネズミ達は予想外にもお肉が美味しかった。
ヒュォォォ
物凄い風の音で目が覚める。
風速計が無いのでどの位あるのかは解らないけど、私の経験上過去最高じゃなかろうか。
私が住んでいた所は冬場だと平均10~15mの風が吹き最大は40mだった。
でも明らかにそれよりも吹いてる気がする。
それでも家があまり揺れないのはログハウスだからなのかもしれない。
「此処はまだいい方だ、森の中だしな。町だともう少し大変だろうな」
「あー、多少なり木々が風除けになってくれてるのか」
「んむ、町中だと木は無いからな」
だから町には平屋が多かったのか、二階建てとかにしたら吹っ飛びそうだもんね。
代わりに町の家には地下室があるのだそうだ。
なるほど、地下だと避難場所も兼ねていいかもしれないね。
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