10:なんか増えたのよ
「ニクスさん、私の見間違いかな?」
「いや、俺にも同じものが見えていると思う」
クィーンの足元で丸まって寝ている昨日の熊さん、子ユノク。
何故そうなった・・・
可愛いよ?可愛いけど馬と熊、普通に考えたら獲物と捕食者の組み合わせでしょうがよ。
そうは思ってもクィーンは満足そうにしていて、追い払うのも忍びなくてこのまま様子を見る事になった。
今日も私は罠の見回りをして掛かっていた獲物を回収し捌く予定だ。
ニクスさんはアングリーベアを求めて狩りへと出掛けた。
「えー・・・」
罠に掛かるのってマスクラットとウッドチャックだけじゃなかったのか。
ペンギンらしきものが掛かっているのだけど?
しかも70㎝くらいあるんだけど?
私が知っているペンギンよりも羽が大きくて飛びそうなんだけど?
どうしろというのだこれ、元気いっぱいジタバタしているから近付いたら突かれそうなんだけども。
マスクラットやウッドチャックなら仕留めるのにも慣れてきた。
けれどもペンギンは初めてなんですけども・・・
嘴や脚なんか猛禽類みたいに鋭いし、これ本当にペンギンなのかな。
悩んでいても仕方がない、まだ見て廻らないとならない罠は残っているのだ。
(ごめんよ、これも生きる為の生存競争なんだよ~)
意を決して手斧を握りしめて近付く。
『 グルルルゥ クァークワッ クァークワッ 』
アヒルとロバを足して割ったような鳴き声・・・
シュッシュと嘴で攻撃してくるけど仕方が無いよね、ペンギン?も生きる為に必死だよね。
解かるよ解かるけどもね、ごめんよおばちゃんも必死なのよ。
こちらも手斧をブンブンと振り回して嘴を避けながら狙いを定める。
なるべく苦しめない様に、出来れば1撃で首を・・・って首太いし目付きが怖いよ!
これは無理に首を狙わずまずは脳天狙って気絶させよう。
ゲシッ!
ペンギンを気絶させる事に成功したけど、私の鳩尾には綺麗なスタンプが押された。
そうペンギンの足跡である。
パルカに穴が開いてしまったではないか、まぁそのお陰で私は無傷で済んだのだけども。
その後は思い切りの力を込めて首を切断した。
この毛?が使い道あるのかどうなのかが解らなかったので内臓を取り出すのはニクスさんに聞いてからにする事にした。
他の罠も見回り、掛かっていた獲物を回収して小屋に戻るとニクスさんも戻っていた。
「キヨカ、ペルディプテスを仕留めたのか」
「ペルディプテス? よく解らないけど罠に掛かってた」
「警戒心が強いから罠に掛かるのは珍しいな」
「そうなんだ。
マスクラットやウッドチャックしか居ないと思ってたから驚いたよ」
聞けばやっぱりお腹の毛? 羽毛?も売れるのだそうで(しかも高値)いつもと違う捌き方になるのだそうだ。
ニクスさんはニクスさんでアングリーベアを仕留めていた。
やっぱりこれも私の知ってる熊とは違っていてパッと見はヒグマに似ているんだけど、ステゴザウルスみたいに背中にヒレ(なんか違う)みたいなのが付いているのよ・・・
しかも2.5mくらいと大きいし、気性も荒いのだとか。
うん、さっきのペンギン、ペルディプテスが可愛く思えて来た。
このアングリーベアは依頼のだから内臓だけ抜いておく。
明日は自分達用に狙うのだそうで、ここに居られるのも後4日、獲れるといいな。
熊肉は美味しいらしいので楽しみだ。
2日後に私達用のアングリーベアが獲れた。
この時は私も一緒に行っていたので狩りのやり方を見る事が出来た。
弓で狩るのかと思っていたけど銛というか槍というか、そんなので狩っていた。
うん、私には無理だ。あんな重そうなの投げれる気がしない。
アングリーベアも内臓の一部以外は食べる事が出来るそうなので小屋に持ち帰り解体していく。
毛皮も温かくて敷物や毛布として使われるようだし、犬歯や爪はお守りやアクセサリーに加工するのだとか。
私達が食べない部分は子ユノクにあげるのだが、この子は私達が居なくなったら大丈夫なのだろうか。
少しは肉が付いてきたようにみえるけどまだアバラが浮いているんだよね。
結局私達はこの子ユノクを連れて帰り飼う事になった。
私じゃないわよ?私が言い出したんじゃないわよ?
クィーンがイヤイヤと首を振って子ユノクから離れなかったのでニクスさんが根負けした形だ。
そのクィーンはすっかりご機嫌である。
一応バパールおじさんにも報告はしておく事になった。
帰宅したら子ユノクの小屋も作らないとだね、雪が降る前に大忙しだ。
小屋が出来上がるまでは家の中に入れておく事にした。
そして私と一緒に寝る事にしたのだけどこれがまた大変だった。
クィーンが自分も一緒に寝ると言わんばかりに入ってこようとするのだ。
あのねクィーンさんや、愛着がわいた気持ちは解からなくもない。
解らなくもないけども!クィーンが入ってきたら私のベットは間違いなく潰れて壊れるね。
クィーンの小屋の真横に作るからそれまで我慢してもろて・・・
え? 隣接だと嫌なの?
改装して一緒に過ごせるようにしてくれ?
いや今は子供で小さいけど成獣になったら・・・どのくらいになるんだろう。
え? 自分も大きいから大丈夫?
えぇぇ、本当に?
チラリとニクスさんの顔を見れば驚いて固まっている。
「ニクスさん?」
「キヨカ、クィーンの言ってる事が解るのか?」
「へ?・・・
あれ、そう言えばなんとなくではあるけれど、解かるね・・・」
「そんな加護あったか?」
「無かったと思うけどなんでだろう」
という事で明日依頼品を届けるついでに教会へ行ってみる事にした。
不貞腐れるクィーンをなんとかなだめて、自分達用の肉を保存庫へと詰め込んで行く。
これだけあれば余裕で一冬もつんじゃなかろうか。
ガラも2籠分採ってきたので町の皆で少しづつお裾分けしようと思う。
ちゃんと森の住人である動物達の分は残してあるよ?
私が収穫したのは全体の1/3程度だろうか、本当に大量にあったのよね。
疲れていたので夕飯は簡単に済ませた。
その後は子ユノクを洗う。
一応汚れ落としやダニノミの対策だったのだけどニクスさん曰くこの大陸ではそういった寄生虫や蚊は寒すぎて居ないのだそうだ。
なるほど、寒すぎて・・・・
そう言えばこの子の名前を決めないとだね。
一緒に暮らすのであればいつまでも子ユノクと呼ぶのもちょっとね。
森の主、森の守り神、だったらカムイでいいんじゃなかろうかと安直な考えが浮かんだ。
ニクスさんにそう言ったらいいんじゃないかと言われたのでカムイに決定。
「グルルルッ グルルルルッ チュッパチュッパチュッパ」
これは知っている、テレビで見た事があるよ。
子熊が甘える時に出す音だね、猫がゴロゴロ喉鳴らすみたいなものよね。
でもね?
チュパチュパ耳たぶ吸うのは止めてもろていいかな?
これだと私が眠れないよね、早めに小屋を作らねば・・・
翌日各依頼主に獲物を届けて代金を貰い、バパールおじさんの所へカムイ飼育の報告へ。
バパールおじさんは子ユノクのやせ細った体を見て察したらしく、これも何か縁があっての事だろうと言ってくれ町の皆への周知はしておいてくれるとの事だった。
いつもありがとうとお礼を言えば嬉しそうに笑ってくれた。
その後教会へと向かったら、弟くんは司祭から司教に昇進していたよ。
「兄さんにキヨカさん。本日はいかがなさいました?」
「んむ、少々確認したい事があってな」
事情を話すと石板のあるあの部屋へと案内してくれた。
石板に身分証明証と手を乗せてみる。
ペカーッ
3人で覗き込んでみれば【ヴィーザルの恩恵:身近な獣との意思の疎通】と追加されている。
ヴィーザルさんて誰・・・
「森の神ヴィーザルの恩恵ですか」
「もしかしてカムイを保護したからか?」
「でしょうね。よかったですねキヨカさん」
「良かったのかな?」
「身近な獣、つまりクィーンやカムイのような家族となった獣とだけならば
便利ではないか?」
「なるほど、確かにそうかも」
ヴィーザルさんは森の神様だったのか、素敵な恩恵をありがとうございます!
その後は司教様と別れて、町に来るのは最後になるかもしれないからと買い出しもしていく事にした。
そうだよ、忘れてたガラも渡してまわらないと。
2~3個づつになってしまうけど、皆喜んでくれた。
町にはタイミングよく隣り町からの行商人が露店を出していた。
隣り町は海にも面していて、海の魚や海洋哺乳類の肉や脂を売っていた。
私が目を付けたのはキートと言う海洋哺乳類のお肉と脂身。
これってたぶんクジラだと思うんだよね。
皮付きの脂身といい、赤身といい見覚えがあるもの。
そして醤油も売ってあった。
ゾヤソースと言う名前で隣国、エルフの治める国からの輸入品なのだそうだ。
何故エルフがと思わなくもないけど、作ってくれたエルフさんありがとうー!
やったぜ、これで料理の幅も広がるぜ!
キートの赤身と皮つき脂身を2ブロックずつ、ゾヤソースを3本ほど購入した。
食べ方は解かるかとお店の人に聞かれて、好物なのだと答えたらオマケで尾の身を少し付けてくれた。
おぉぉ、尾の身なんて貴重じゃないか!
お礼を言ってホクホク顔で帰宅した。
読んで下さりありがとうございます。
ブックマークや評価、アクション等本当に感謝です。
少しでも楽しんで頂ける様今後も楽しんで書いてまいりますので、今後共宜しくお願いします(*'ω'*)




