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第8話 別に隣からお前のチ〇コなんて覗き見ないぞ

「う~、食った食った」


 昼休みの終わりがけ。

 クラスの女子たちからのお弁当の貢ぎ物で腹がパンパンな俺は、トイレに向かっていた。


 成長期まっさかりの男子高校生の胃袋をもってしても、さすがに10人の女の子からお弁当を分けてもらったら、腹はいっぱいになる。


 際限なく弁当を勧められるので、こうしてトイレを理由にお弁当タイムは切り上げさせてもらった。


 ちなみに、ほぼ女子高みたいなもんであるハニ学は、男子トイレが極端に少なく、なんと1階の職員室の隣にしかない。


 めちゃくちゃ不便だが、これは警備上の問題で、男子トイレは色々と狙われるから教員の目がある職員室の隣に配置されているとのこと。


 男子トイレが色々と狙われるのは、前世持ちの俺には意味がよく分からない。

 ハニ学のゲームは18禁ではなかったからな。(すっとぼけ)


 さて、とっとと用を済ませますかねっと。


 学生証ICカードでロックを開けて、トイレに入る。


「ひゃ⁉ あ、なんだ知己くんか」

「おう晴飛。なんだよ可愛い悲鳴上げて」


 男子トイレの中には先客がいた。

 入ってきたのが、同じ1年の俺だと分かり晴飛はホッとした顔をした。


「ご、ゴメンね変な声出して。知らない男の先輩かもと身構えちゃったんだ」

「ああ、そういう事ね。しかし、男子トイレは本当に広いな」


 そう言いながら、俺は晴飛の隣のカウンター椅子に座る。


 なんとこの世界の男子トイレは化粧台部分がだだっ広く、カウンターと椅子、そして照明ライト付きの大きな鏡、化粧水や洗顔フォーム、油とり紙などのアメニティが完備されたパウダールームがあるのだ。


 元の世界でも女性用のパウダールームが設置されている施設もあるが、男子トイレでは絶無だ。


 こういう特別扱いからも、男子は大事にされていることが分かる。


「うん、広すぎるよね」

「ああ。何なら、ここで便所(めし)ができそうなくらい快適な場所だな」

「アハハ! たしかに」


 匂いも主目的の便器があるエリアとは隔てられているので何ら問題ないし、快適な便所飯ライフが約束されている。


 この貞操逆転世界ならば、たとえ便所飯をする事態になっても安心だ。


「あ~、しかしいっぱい食べたから顔の脂がやべぇ。ちょっと顔洗おうっと」


 お弁当の主におかずばっかり食べてたからな。


 クラスの女子たちも、唐揚げなどのメインおかずをくれるので、どうしても脂っこい物ばかりになっていたのだ。


 久留和さんのタコさんウインナーも揚げ焼きでカリッとしてて旨かったな。


「ああ……。知己くんも、クラスの女の子からたっぷりお弁当もらったんだね」


 苦笑いしつつ、晴飛がお腹を押さえる。


「晴飛の方もそうだったのか。お前は少食そうだから、大変だな」


 晴飛は小柄でショタっ子だし、あまりたくさん食べれる感じのキャラじゃないからな。


「でも、女の子たちが頑張って作ってくれたお弁当だから、ちゃんと食べないと悪いから」


 そう言って、晴飛はパウダールームに置かれた胃腸薬を飲んでいた。

 健気な奴だな。


「そろそろ昼休みも終わりそうだし、ションベン行ってくるわ」

「え?」


 晴飛との男同士の雑談の時間も楽しいのだが、男子トイレが遠い分、午後の授業の開始時刻までに主目的を果たさねば。


「晴飛はもう済んだのか? まだなら、連れションする?」

「あ、いや、ボクはその……」


 何故か焦りだす晴飛。なぜか顔が赤い。


「……? 別に隣からお前のチ〇コなんて覗き見ないぞ」

「チン……⁉ ぼ、ボクは個室でする派なの!」


 そう言って、晴飛は慌てて個室に入ってドアを閉めた。


 パウダールームでの雑談はいいけど、連れションはこの世界ではNGなのだろうか?


 流石に、ゲーム内では男子トイレの描写はなかったからな。

 そこまでリアルな作り込みは誰得だし。


 そう思いながら、俺は小便器で立ちションする。


「晴飛まだ~?」


 用を足した俺は、個室のドアに向かって声をかける。


「なんで、ドアの前にいるの知己くん! そんなんじゃ、出るものも出ないよ!」

「いや、晴飛が男子トイレから教室まで一人で歩くの危険じゃないかと思ってな。一緒に行くから待ってるよ。とっとと出しちまいな」


 トイレに向かう時にすれ違った他クラスや他学年の女子生徒から、けっこう視線を感じたんだよね。

 俺は別に平気だけど、晴飛はショタっ子な見た目だから、攫われそうで心配なのだ。


「大丈夫だから! 江奈さん達、クラスの女の子が迎えに来てくれることになってるから! 先に行ってて!」

「あ、ああ……わかった」


 大人しい晴飛にしては随分な剣幕な物言いだったので、俺の方も大人しく個室のドアの前から離れた。


 なんだろ?

 まぁ、大きい方がしたかったのだろうなと結論付けた俺は、無駄に豪華なパウダールームで手を洗って男子トイレを出た。


 すると、行先に何人かの人影が。


「あ……」

「おう、江奈さん達。お疲れさん」


 男子トイレを出て、職員室を通り過ぎた廊下の辺りに、江奈さん達1組女子が待機していた。

 俺を見て、一同はたじろぐ。


「ど、どうも橘さん」

「晴飛は、もう少しトイレに時間がかかるみたい」


「そ、そうですか」


 同じ男の情けだ。

 晴飛が大をしている事は、女の子たちには黙っていよう。


 しかし、大きい方をしているという事は、やっぱり昼食のお弁当の量が影響しているのかも。


「あ、江奈さん」

「ま、まだ何か?」


 う~む。

 この間の1組と2組のいざこざに割って入った時のトラウマからなのか、江奈さんは俺に対してセンシティブに反応するな。


 まぁ、晴飛とまるでタイプの違う男の俺と対峙して怖い思いをしただろうし、ここは用件だけ伝えておこう。


「晴飛のお弁当についてなんだけど、明日からは量を考えてあげて。晴飛、トイレでちょっと苦しそうにしてたから」

「あ……やはり、そうなのですか」


 江奈さんも薄々感づいていたのか、心配そうに男子トイレの方を見やる。


「うん。あいつ、優しいからお腹いっぱいって言って残せないだろうし、量を減らしてって言うのも遠慮しそうだから、それとなく江奈さんの方からクラスの子たちに伝えてあげてね」

「分かりました」


「用はそれだけ。じゃあね」


 そう言って、俺は江奈さんと別れ教室の方へ歩を進めた。



「今日は頭ポンポンしてくれないんだ……」


 去り際に江奈さんが何か言っていた気がしたけど、遠ざかる俺の耳にはよく聴こえなかった。

晴飛ってどっちなんでしょうね(意味深)


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