第7話 要は、女の子ってみんな素敵な存在なのだ
「もう! 無茶しないでくださいよ橘君」
「わるいわるい」
学校見学が終わり、教室に戻ってくると昼休み。
席に戻ると、早速、多々良浜さんから苦言を呈された。
「そうだよ橘っち。男の子は護られるもんなんだから」
「はいはい」
三戸さんも苦言を被せてくるので、とりあえず口でだけは肯定しておく。
しかし、晴飛のような小柄なショタッ子はともかく、俺の方は前世的な男の平均身長は超えているし、高校1年生にもなれば、ある程度成長期が終わって身体つきも大人になっている。
そんな男が、女の子に守られるっていうのは心理的抵抗感があるな。
「さて、お昼か。俺、学食に行くつもりだけど2人はどうする?」
「「は?」」
多々良浜さんと三戸さんが呆けた顔をする。
え、何?
何か俺、また変な事言っちゃいました?
「何を軽く言ってるんですか橘君。学食に男の子が行くなんて、あり得ないですよ」
「そうだよ! 無理無理! 他の学年の女子生徒に囲まれちゃうよ!」
ええ……。たかが、学内施設を使うために、そんな大事に?
「でも俺、弁当も何も準備してこなかったぞ。ここの学食はおいしいって聞いてるし」
昨夜、家の机に置かれた学校パンフを見て楽しみにしていたのだ。
何しろゲームではなく、五感で味わえるのだから、美味しい学食はハニ学ファンとしてはチェックしておきたい裏設定だと思ったのだが。
「ダメです」
「ちゃんと橘君の分のお弁当もありますから」
けんもほろろに拒否される悲しき俺……。
そういえば、ゲーム中でも学食に行く描写が無かったんだよな。
他のギャルゲーだと、一人で学食を食べている時に、たまたま他のクラスや学年の女の子と仲良くなるというのは定番なのだが、どうやらそういうチャンスの芽はこのように潰されるらしい。
これは確かに、男の子に過保護な世界ならば頷ける。
設定が細かく作り込まれてるな。
「そうなの? じゃあ、折角のお弁当だから外で」
今日は天気もいいしな。
中庭のベンチや芝生の広場なんかでピクニック気分で食べたら気持ちよさそう。
「それも、まだ駄目です!」
「え~、多々良浜さんのケチ~」
「橘っち。ここは、みな実っちの言ってることが正しいから。それに……」
「それに?」
含むところがある風に言いよどみ、チラッと後方に視線をやる三戸さんに、俺が尋ねる。
「他のクラスメイトとも親交を深めないと、そろそろ私とみな実っちがクラス内で浮いちゃうからさ」
「ああ……なるほど」
気づけば、三戸さんの後方には、お弁当の包みを持ったクラスの女子生徒たちがにじり寄って来ていた。
「了解了解。みんなと仲良くしたいしね。でも、クラスの皆と交流したら学食には絶対行くからね」
今日は諦めるけど、絶対に一人でこっそり行ってやろ。
「分かってます」
「じゃあ、出席番号順に10名ずつの3グループを作って、今日は1グループが一緒に橘君とランチで」
「「「「っしゃ、おらぁぁあぁあああああ!」」」」」
雄叫びを上げ、何度もガッツポーズするクラスメイトたち。
たかが俺ごときとのランチが決まっただけなのに、みんなオリンピック誘致に成功した張りに喜んでるな。
なんか人生楽しそうで羨ましい。
◇◇◇◆◇◇◇
「橘君! この卵焼き自信作なんです! 食べてください!」
「いただくよ。うん、砂糖と醤油と出汁がバランスよく入ってて俺好みだ」
「はわわ……。俺好みって、それってもう『お前は俺の物だ』っていう宣言? 好き……」
卵焼きを褒めただけで、随分と論理の飛躍があるな。
「わ、私の唐揚げも!」
「うん。下味がしっかりついてて美味しい。昨晩から俺のために準備してくれてたんだ。ありがと」
「はうう……。陰の努力まできちんと褒めてくれるなんて……。こんなの幸せ夫婦生活の妄想が捗りまくる……」
まぁ、俺も前世では独身貴族だったから、料理はそれなりにできるし。
「私も!」
「私のも食べて!」
どうやら、クラスの女子たちは皆、俺と弁当を食べるために、だいぶ多めにお弁当を用意してきたらしい。
前世の高校生活では、可愛い女の子に手作りお弁当を作ってきて貰いたかった人生だったが、まさか初体験から1日で経験人数が9人になるとは思わんかった。
って、ん?
たしか、今日のグループは10名の女子がって言ってたよな?
1人、お弁当のおかずを貰ってない子がいるなと、お弁当グループを見渡す。
俺が視線を向けると皆が嬉しそうに微笑むなか、1人だけ顔を上げずに弁当箱を抱え込むようにして俯いて食べている女の子がいた。
ただ、本人は小さくなって目立たなくしているつもりっぽいが、残念ながら高身長の彼女では、いささか無理があった。
って、あれ?
この子って……。
「ええと、久留和さんだっけ?」
「……!? ひゃ、ひゃい!」
ゲームではよく知っているが、ここは初対面顔で、久留和清華さんに話しかける。
身長が俺より高くて、褐色肌に銀髪という特徴的な子で、目付きも鋭い女番長っぽい女の子だ。
「さっきの1組の子達とのいざこざの時に、クラスの皆のために矢面に立ってくれてありがとう」
「いや……。コワモテで無駄にタッパのある私は、それくらいでしか役に立たねぇし……」
久留和さんはぶっきらぼうに言って、そっぽを向いてしまう。
けど、照れてるのは、耳が赤いからバレバレである。
なんだ、この女番長。
可愛いじゃん。
「そういえば、久留和さんからはお弁当のおかず貰ってないな。弁当なしの俺に一つ分けてくれない?」
「はぁ!? わ、私のはダメだ! 腹減ってるなら、他の子からいくらでも貰えるだろ」
そう言って、久留和さんは自分のお弁当を腕で抱え込んで隠す。
身体がデカイから、マジで弁当が見えないな。
「俺は久留和さんのお弁当のおかずが欲しいの。ちょうだい? 俺、男の子だよ?」
「ぐ……」
ここで男子特権を振りかざす俺。
世間一般的にはもちろん、由緒正しき共学校のハニ学では特に、男子の発言に対して異を唱えるのは難しい。
「見て、笑うなよ……」
羞恥と屈辱にまみれながら、彼女が胸元に抱き込んだ秘部をさらけ出す。
嫌がっている女の子相手に無理やり御開帳させることができる、この世界での男という立場は最高だ。
「お、タコさんウインナーだ」
威圧感のある見た目とは裏腹に、可愛らしいサイズのお弁当箱に詰め込まれた彩りの良いお弁当。
その中の主役のタコさんウインナーは、足を8本に割いているだけでなく、黒ゴマでちゃんと目を作っている力作だ。
「ど、どうせ私みたいな厳つい見た目の奴には似合わねぇよ……。笑いたきゃ笑えよ」
俺に命令されて、お弁当の強制御開帳となった久留和さんは半ばやけくそ気味で涙目になっている。
「笑うだなんてとんでもない。久留和さんみたいに可愛いお弁当だよ」
「え? 可愛い? こんな、男の子よりもデカイ女がか?」
「うん。俺、女の子の身長なんて気にしないから。ちっちゃい女の子は見上げてくる姿が可愛いし、同じ背丈の女の子とは目線があって楽しく会話がしやすくて楽しいし、背の高いスタイル抜群の女の子に包まれるのも嬉しいし」
要は、女の子ってみんな素敵な存在なのだ。
その事を、俺はこの世界の、軽く扱われることに悪い意味で慣れてしまっている女の子達に、分からせたいのだ。
「それって全人類の女子が守備範囲ってこと……?」
「なんだこれチャンスか?」
「いや、美男局は最初は天使の顔をしているって……」
「詐欺でも嘘でもいい。束の間でも夢を見れたなら……」
何故か、久留和さんの周囲の女の子達にもダメージが入っている様子。
あれ、今のって単体攻撃じゃなくて全体攻撃魔法でした?
「じゃあ、タコさんウインナー貰うね久留和さん」
シャットダウン状態で固まる久留和さんの弁当箱から、俺はおかずを強奪する。
「うん、ありがと……どうぞ、召し上がれ……」
メインのおかずを強奪しておいて感謝されるなんて、地球上にあり得るコミュニケーションなんだな~と、相変わらずの貞操逆転世界の歪さを感じずにはいられなかった。
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