第33話 準備万端な私たちに隙は無い
【多々良浜みな実_視点】
昼休み。
クラスの子たちが、昼食を10秒チャージで済ませて、クラス入れ替え戦の練習や鍛錬に走り出す慌ただしい教室の中。
そこで私たちだけは机を寄せ合っていた。
「では絵里奈ちゃん。知力部門長としての進捗具合を報告してください」
「うん。知力部門は現在、クイズ研究部から例題集や時事問題などのインプット作業を1日8時間実施中。そろそろ、出題時の回答動作のためのアウトプットの練習の比重を上げようと思ってます」
「よろしい。では、続いて体力部門長の久留和さん、報告をお願いします」
「体力部門は、参加候補者を瞬発力タイプ、持久力タイプ、球技特化タイプに分けてそれぞれのレベル底上げのトレーニングを実施中。過去のクラス入れ替え戦での競技内容を参考に、当日発表される競技によって、どういったメンバーで臨むかのチームパターン案を作成、検証している所だ」
「よろしい。では、お嫁さん力部門ですが、これについては当日の競技内容の振れ幅が大きいため、万能タイプをメンバーとしていますが、決定力不足に懸念があります。場合によっては、当日に発表される競技内容に応じて、他部門から急遽メンバーを選抜する可能性もあります。その点を、各部門長からメンバーに伝えておいてください」
「「了解」」」
準備は実に順調です。
その分、クラスの皆さんには負担をかけてしまっていますが、橘君を奪われる恐怖を考えたら、おちおち眠ってなんて居られませんし。
「うむ、素晴らしい練度の高さだ。これなら3組に後れを取ることは無いだろう。担任として鼻が高いぞ」
「エッちゃん先生。ご高評痛み入ります」
クラス対抗戦の本番が見えてきたが、クラス内の士気は高い水準を維持している。
「個人的には、多々良浜には含む所が無い訳ではないが、学級委員に選んだ私の教師としての見立ては間違ってはいなかったな。あくまで学級委員としてだけだが」
「ありがとうございます。クラスの男子を護る責任を最も重く負うのは私ですから。たとえ相手が誰であろうとも橘君を護るのが最優先です」
皮肉たっぷりのエッちゃん先生に対し、私は涼しい顔で答える。
「クラスの男子の意志も重要だと私は思うがな。あくまで、教師として生徒の健やかな成長を願っての立場でだが。まぁ、夜道を一人で歩き回るような不良娘には分からないだろうか」
「無垢な男の子の純潔を護るのは成長より大事ですよ。不可逆な行いは慎重であるべきと考えるでしょう。淫行教師じゃないならば」
エッちゃん先生は、この間の橘君の家庭訪問を私に邪魔された事を恨んでいるご様子。
ただ、己の行動を顧みると、事を表面化させたらダメージが大きいのはエッちゃん先生自身なので、こうして私に遠まわしな嫌味を言う事しかできないので、捨て置けばいいのです。
「何か、みな実っちは学級委員長として凄味が出てきたよね」
「そうだな。最初は自分に務まるか、あんなに不安がってたのにな」
横で私とエッちゃん先生のやりとりを見ていた絵里奈ちゃんと久留和さんが、しみじみといった様子で唸る。
「もう、絵里奈ちゃんも久留和さんもからかわないでください。私は、ただクラス対抗戦に向けて、後悔の無いように動いているだけです」
「うん。これなら私たち勝てるね」
「ああ。勝利に向けて一部の隙もないぜ」
私たちの自信の源は、橘君の価値にいち早く気づいていた事だ。
故に危機感を持って、私たちの宝物を奪われんと、修練をスタートさせていた。
だから、3組がクラス対抗戦を申し込んできても私たちは動じなかった。
そして、今は橘君断ちもしてストイックに自分たちを追い込んでいる。
私たちが橘君の沼に溺れて腑抜けているという見立てでの奇襲でしょうけど、甘かったわね3組の皆さん。
それとも、橘君は素敵な男の子だから、なりふり構わずに獲りに来たのか……。
どちらにせよ、準備万端な私たちに隙は無い。
どんなトラブルが起きようとも、冷静に対処してみせる。
「た、た、た、大変です久留和の姉貴ぃぃぃいいいい!」
「どうしたんだ、騒々しい」
体力部門のクラスメイトの子が血相を変えた顔で教室に飛び込んできた。
彼女はたしか、今日の橘君の護衛当番でしたか。
まぁ、護衛当番と言っても橘君はフラッといつの間にか忍者みたいに居なくなっていたりするので、中々護衛は大変みたいですけど。
「た、橘君が……。知らない女と学食でイチャイチャしてる……」
「「「「「「「はぁぁぁぁああああああああ⁉」」」」」」
絶叫が2組の教室内をこだました。
はい修羅場~。
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