第30話 生徒会百合カップルはいいもんだな~
「では、寝室君と3組学級委員長の荒崎さんとのいざこざに君が割って入ったという事だね橘君」
「はい。そうです」
あの後、俺は生徒会室に連れてこられて一色会長から事情聴取を受けている。
事情聴取とはいっても、生徒会室の応接セットで紅茶をごちそうになりながらの気楽なものだけど。
つくづく、この世界は男に甘い。
「なるほど。周囲にいた第三者の目撃証言とも一致しているようだし、問題はないようだな。学園側にはそのように報告しよう」
「それは良かったです」
とは言え、今回はトラブルの相手が同じ男だったからな。
沙汰にどんな影響が出るかとヒヤヒヤしたのだが、心配はないようだ。
2組と3組の抗争なんてゲームでは描かれてないから、どう転ぶか分からなかったし。
「それにしても、橘君は面白い男の子だな。女の子が男に手を上げられそうになったからと争いごとに首を突っ込むとは」
記録していたパソコンのキーボードから手を放し、一色会長はソファに背を預けて笑う。
「そっすか?」
「ああ。男の子に関する問題は、周囲の女の子同士で解決するものだからな」
「そういうもんですか」
「ああ。だから、こういう男の子同士が当事者となるいざこざは生徒会としても骨が折れる」
「す、すいません……」
確かに、普段の男子生徒はお付きのクラスの女の子に囲まれてたりするしな。
入学当初の校内見学時の1組、2組での衝突時はそんな感じだったし。
「いや、意地悪な事を言ってすまない。別に男の子同士で直接ケンカしている事例も無くはないんだ。特にクラス入れ替え戦関係ではね」
「それはやはり、男もプライドを傷つけられてって事なんですかね?」
「まぁ、そんな所だよ。とは言え、1年生の入学早々に起こるのはお初だがね」
「なんかすいません……」
「ハハハッ! イレギュラーな事案に対応できてこその生徒会だ。この白銀の詰襟制服は伊達じゃない」
俺が恐縮すると、すかさず一色会長が何のことはないと笑い飛ばした。
気にするなと言外に励ましてくれているのだろう。
決断力もあって、下の者に気を使ってくれたりと、理想的なトップだ。
「そもそも1年生の4月からクラス入れ替え戦が起きるのが異例なんですよね?」
「そうだね。よく知っているね」
ハニ学のゲームでも1年生の4月にクラス入れ替え戦が発生するのは珍しいとの描写があったからな。
とは言え、ゲームでは1年1組と2組の間に起こるイベントなのだが。
「入学当初は、クラスの男の子の気質も分からないから様子見をする物なのだが、よっぽど橘君が1年3組の女の子には魅力的に映ったようだね。自分のクラスの男の子を早々に放り投げてしまうくらい」
「ああ……」
そう。
クラス入れ替え戦は、挑戦をする側にとってはクラスの男子生徒との信頼関係にかなりの亀裂を生じさせる。
だから、本来はクラス内でも意思統一をするのは中々難しい。
現クラスの男子と仲良くなるのを諦めきれない保守派と、ノーチャンスだからクラス入れ替え戦で打って出ようという開戦派に分かれて、クラス入れ替え戦への参加の是非を争う訳だ。
そして、1年の4月という今の時期は、どう考えても保守派が優勢なはずなのだ。
3組男子の虎嶺がよっぽど酷い男子なら話は別だが、先ほどの小競り合いの中での話を聞く限り、虎嶺は女の子と会話は出来ていたしな。
学校に最低限しか来ないのは、この学校の男子生徒のデフォルトみたいなものだし、3組という真ん中のクラスの男子として配置されてる点からもスタンダードだと言える。
っていうか、あのDV男が中位って、下位クラスはどれだけ酷い男子なんだ……。
「冷静な計算も出来なくなるくらい、3組の子たちは熱に浮かされているようだ。冷めていたのは荒崎学級委員長くらいか。まぁ、あの2人は許嫁のようだからかもしれないが」
「あ、そうなんですか」
下の名前で呼び合う気安い関係のようだったが、どうりで。
「まぁ、その点も他の3組のクラスメイトの子たちには不満ポイントなんだろうね。荒崎学級委員長は、許嫁の地位を利用してクラスの男子生徒である寝室くんを独占していると」
なるほど。
3組男子の虎嶺は既に荒崎学級委員長のものなので、同じ3組のクラスメイトの自分たちはノーチャンスなのではないか?
その疑念が今回の、早期でのクラス対抗戦に3組を踏み切らせたと。
共通の敵がいた方が集団がまとまりやすいのは、社会的動物である人間の性だな。
「戻りました」
生徒会室の扉が開くと、不機嫌な顔をした森戸副会長が入ってきた。
「やぁ、真子。寝室くんの聴取は済んだかい?」
「ええ。聞くに堪えない見苦しい自己弁護に耳が腐りそうです。これだから男は……」
「アハハハッ……」
嫌悪を露にした森戸副会長の愚痴に、男の俺としては苦笑しか返せない。
「ああ、失礼しました。橘君がまだいらしたのですね」
こちらに一瞥をくれると、森戸副会長は謝罪の言葉を口にする。
謝罪の口上だけは丁寧だが、大して悪いとも思ってもいないのは、その素っ気ない態度から丸わかりである。
この男が貴重な男女比1:99の世界においては、かなり珍しいタイプの女の人だ。
というか、粗相をした相手の男が質の悪い奴だった場合、かなりの反撃やペナルティを食らってもおかしくはない。
「まったく真子は、またそうやって……。すまないな橘君。森戸副会長の不調法ぶりを本人に代わって謝罪させていただく」
そう言って、一色会長が頭を下げるが、俺としては本当に気にしていない。
森戸副会長の男嫌いが校内屈指なことをあらかじめゲーム知識で知っている俺としては、別に彼女の素っ気ない物言いに嫌悪は感じない。
どちらかと言うと、『すげぇ! ゲームのまんまのツンツンキャラだ!』と感動すら覚える。
いや~、森戸副会長の序盤の男嫌いから来るツン状態はやっぱりいい。
このツン状態の序盤があるからこそ、今後のアレな展開の深みが増すものである。
「気にしてませんよ。同じ男として、女性を軽々に扱う風潮については、ボクの方から謝りたいくらいです」
「寛大な対応、痛み入る。それにしても橘君は大人だな」
「いえ、そんな事は」
「フンッ」
あ、一色会長が俺の事を褒めるから、森戸副会長が嫉妬してる。可愛い。
やっぱり生徒会百合カップルはいいもんだな~。
俺は、ゲーム上ではトロフィーコンプリートとして、もちろん一色会長、森戸副会長の百合カップルに挟まる男ルートもプレイしたが、個人的な嗜好としては百合カップルは神様視点で女の子同士のイチャイチャを眺めていたいタイプだ。
なので、この世界での一色会長、森戸副会長には幸せになって欲しいものだ。
「では失礼します。2人はごゆっくり」
───この後、俺が生徒会室から退出したら2人きりになった森戸副会長が一色会長に、頬っぺたを膨らませながら甘えるんだろうな~。
微笑ましい物を見るような目線と去り際の言葉に、一色会長と森戸副会長が怪訝そうな表情だったのを見届けながら俺は生徒会室を後にした。
あら^〜はゆっくり愛でたいものである。
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