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第25話 そうやって、すぐ誤魔化す……

「ん~、どれにするかな」


「どうしたんですか?橘君」


 1枚のプリントを前に、俺かま教室の机で思案に暮れていると、隣の席の多々良浜さんが声をかけてきた。


「いや、芸術の選択科目はどれを選ぼうかと思ってさ」


 目の前にあるプリントは、音楽、美術、書道の芸術科目の内、どれを選択するのかの希望を回答する照会文だった。


 全員が希望どおりとは行かないようで、第一希望から第三希望まで書くようになっている。


「え? そもそも橘君は芸術科目を選ぶ必要はありませんよ?」

「へ?」


 多々良浜さんの回答に俺は呆けた声を出して、持っていたボールペンを床に落としそうになる。


 ボールペンを落としかける気配を察して、周囲の席の女の子たちが縮地法ばりの速さで駆け寄ってくるが、事なきを得る、


 しかし、多々良浜さんの言っていることはどういうことだ?

 この世界の男は、芸術科目を履修する必要がないのか?


「女子生徒は1年間同じ芸術科目を履修しますが、男子生徒は3科目をローテーションで履修することになっています」


「え、なんで?」


「そうしないと、男子生徒が履修する芸術科目に女子生徒が殺到するからです……」

「ああ、なるほど」


 頭の中が前世の男子高校生並みにピンク色の頭をしている女子高生なら、そりゃそうするよな。


 俺も逆の立場なら、そうするもん。


 でも、特定の科目に生徒が偏ったら授業が成り立たないから、こういう措置が取られてるのか。


「これは女子の選択希望照会用のプリントですね。先生が間違えて配ったんだと思います」

「なんだ、エッちゃん先生のミスか」


 おっちょこちょいのドジっ子女教師め。


「しかし、最近のエッちゃん先生は様子がおかしいですね。ついこの前はウキウキしていたと思ったら、その後は塞ぎ込んでますし」


「そっか。心配……」


 多々良浜さんと同様に、心配だねと他人事のように言おうとして気づいた。


 エッちゃん先生に元気がないのは俺のせいだ!


 家にエッちゃん先生を連れ込んで母さんと鉢合わせしかけて、慌てて帰した後に、俺ってば何のフォローもしてない。


 これは、この貞操逆転世界で女の子に優しくするという俺の基本理念に反する失態だ。


「ちょいとエッちゃん先生に連絡してみるかな」


 前回、寸止めさせたから辛抱たまらんだろうしな。


 前回から数日間空いて、ちょうど料理の作り置きのストックも冷蔵庫にないしなと、俺はスマホでメッセージアプリを開く。


「……橘君って、先生の連絡先知ってるんですか?」

「うん。この間、教えてもらった」


 まぁ、担任の先生だし、緊急の連絡もあるだろうしということで、この間家にエッちゃん先生が来たと時に連絡先を教えてもらっていたのだ。


「芸術科目の選択について尋ねるなら、わざわざスマホで連絡を取る必要は無いんじゃありませんか?」


「え? あ、まぁ、そうなんだけどさ……」


 ジトっとした目と冷たい物言いの多々良浜さんに、たじろぐ俺。

 まぁ、たしかに芸術科目の選択については、職員室で聞けばいい話ではあるんだけど……。


 でも、さすがに職員室で『また俺の家に来ていいよ』なんて話をするのは憚られた。


「じゃあ、私が職員室にいる先生に聞いて」


「あ、そうだ、みんな~! このクラスのグループチャットルーム作ったから、みんなの連絡先教えて」


 追及された俺は、ここでカードを切った。


「え、マジ⁉」

「それって橘君も居るグループチャットってこと?」


 俺の宣言にワラワラとクラスの女の子達が集まってくる。


「そりゃ、そうだよ。俺だけハブられたら泣いちゃうよ。はい、コード出してるからみんな読み取って」


 笑いながら、俺はグループの招待ページのコードをスマホに表示して皆に示す。


「これが夢に見た男の子の連絡先……」

「BOTやAIじゃなくて、生身の男の子の連絡先なんて……生きてて良かった」

「ありがたや、ありがたや」

「くれぐれもクラス女子オンリーのグループに誤爆しないでよね」

「あそこの書き込み内容ひどいもんね」


 皆が、まるで洗礼を受けるように、きちんと列をなして俺からグループチャットの招待コードを受け取る。


 あと、ついポロリしてるけど、やっぱり女子だけのグループってあるんだね。

 まぁ、男の俺がいたら話しづらいこともあるのだろうけど、内容が気になるところ。


「橘君……。この騒ぎで、さっきのエッちゃん先生と連絡先交換していたことを有耶無耶にしようとしてますね」


「多々良浜さん。そんなハリセンボンみたいに頬を膨らませないでよ。可愛い顔が台無しだよ」


 列の最後に並んでいたのは、さきほど俺を追及していた多々良浜さんだ。


「そうやって、すぐ誤魔化す……。私は、学級委員長なんですから、橘君のペースに呑まれるわけには……」


「じゃあ、多々良浜さんは俺の連絡先要らないの?」

「そ、そんな……」


 俺がスマホを制服の上着のポケットに入れてしまうと、あからさまに動揺する多々良浜さん。

 学級委員長の職責と欲望との間で揺れ動いているのが丸わかりである。


「うそうそ、イジワル言ってゴメンね。家でもクラスの事で相談することあると思うし。夜に長電話とかしよ」


「そ、それって……古事記にも記されている、付き合う直前の男女がするという寝落ち通話という奴ですか⁉」

「そう、それ」


 寝落ち通話って古事記にもちゃんと記されてるのね。

 まぁ、前世の俺はそんな甘ずっぽい経験なかったけどな。(泣)


 まぁ、俺以上に多々良浜さんがポ~ッとしているので、とりあえずエッちゃん先生の事は誤魔化せたか。


 ほっと俺は胸をなでおろし、クラスチャットグループのお初メッセの通知の嵐の中、エッちゃん先生に連絡を取るのであった。

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― 新着の感想 ―
この世界には日本書紀はないのかなあ。新約聖書的な位置づけでw 今の子はライン通話とか無料で話すのかな。昔は値落ちしている間も電話料金かかってたんだよねえ。携帯、そしてスマホは随分と世界を変えたものだ…
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