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第24話 そ、そういう知己くんはどうなのさ?

 

 放課後。

 俺の家の玄関前。


「一瞬だけ待ってて。部屋、片づけてくるから」

「う、うん……」



 何だか初めて彼女を家に連れ込むような会話を繰り広げている俺と晴飛。

 ただ、男友達と放課後に家で遊ぶだけなのにおかしいな……。


 晴飛みたいな可愛い男友達なんて、前世の俺には居なかったしな。


 だが、違和感には他にも原因があって。


「それでは、橘君。お話が終わるまで、私と江奈さんは玄関前で待機しています」


 それぞれ、女の子同伴って所かな。

 一緒に来ているのは俺に多々良浜さん、晴飛に江奈さんのそれぞれ学級委員コンビだ。


 え? 男友達と遊ぶのに、女の子が一緒って何を言っているか分からないって?

 俺も、意味が分からないよ。


 前世的には、リア充死ねってなるよね。


「いや、掃除はすぐに済むから。あと、多々良浜さんも江奈さんもよければ家に上がってよ」


 俺の言う掃除は、実際は例の隠し部屋の扉がちゃんと閉まっているかどうかを確認する程度だ。

 今日は、急な自宅への招待だから、ちゃんと秘密の部屋の扉を閉めてきたか自信が無かったのだ。


「そういう訳にはいきません。今日は男の子同士の語らいなのですから、女の私たちがいるのは野暮というもの。私たちは万が一のための護衛です」


「女の子を自分の家に軽々しく上げようとしないでください……私も一応、女なんですよ……」


 誘ってみたが多々良浜さん達には固辞されてしまった。


「ボクも、女の子を部屋の外に待たせて橘君と落ち着いてお話なんて出来ないな。別室なら話はきこえないだろうし」


 と、ここで晴飛からも援護射撃が入る。


 そうだよな。

 男女比同比率の前世持ちの俺としても、女の子を外に待たせておくのは心理的抵抗が大きい。


「でも、そんな……」

「知己くんは構わないんだよね?」


 腰が引けている江奈さんを尻目に、晴飛が珍しくやや強引に話を進める。


 晴飛ってやっぱり、この世界の男にしては格段に女の子に優しいよな。


「おうよ。それに、多々良浜さんと江奈さんみたいな美人さんだったら、襲われても俺としてはウエルカムだし」


 晴飛の意を汲んで、遠慮する女の子2人が俺の家に上がる心理的ハードルを下げるために冗談を飛ばす。



「「「……………」」」



「あ、あれ?」



 シーンと静まり返る3人。

 って、晴飛も引く側なの?


「やっぱり女の子2人には外で待っててもらおうか……」

「え、なんで?」


「いいから、早く知己くんは掃除してきて!」

「は、はい……」


 何故か翻意された晴飛に指示されて、俺は素直に部屋へ一人で入って行った。


 その声音は何故か怒っているものだった。




 ◇◇◇◆◇◇◇




「へぇ。ここが、男の子の部屋か」

「別に珍しいものもないだろ」


 部屋の中を一瞥して、なぜか物珍しそうにキョロキョロとする晴飛。


 頼むから、あまりウロチョロすんなよ。

 見られちゃまずい物が満載の秘密部屋がすぐそこにあるから、正直落ち着かない。


「ベッドの下にエロ本があるのが定番だけど、知己くんはどうかな?」

「そんなベタな場所に置くかよ」


「えへへっ、そっか残念」


 いたずらっぽく舌を出しておどける晴飛。

 男2人きりで気を許してるのか、妙に晴飛のテンションが高いな。


「こういう男友達の家に来るのは初めてなのか?」

「うん。ボク、男友達って居なかったから……」


「そうか。んじゃ、ベタに一緒にゲームやろうぜ。大乱闘アタックブラザーズってやったことあるか?」

「うん、やったことあるよ。対面での対戦ってボク初めてだよ」


 大乱闘アタックブラザーズ、通称アタブラは言わずと知れたアクション格闘ゲームで、対人戦が超楽しい。


 野郎同士で家でやるゲームでは大定番のゲームだ。

 俺も前世でやりこんだ。


「どれ、俺がもんでやろう」

「負けないよ」


 手慣れた手つきでゲームのコントローラを握りモニター前に移動する晴飛。


 可愛い顔して晴飛は、意外とゲーム好きみたいで結構強い。

 10戦ほどしたが、今のところ勝敗は五分五分だ。


 って、つい普通にゲームを楽しんじまった。


「そういやさ~晴飛」

「なに~?」


 11戦目の真っ最中に俺が仕掛ける。


「昼休みでの話の続きだけど、好きな人はいるん?」

「えぇ⁉」


「はい、晴飛。足元がお留守」

「あ、ズルい! 知己くん! そうやってボクを動揺させる作戦だな」


 躍起になってファイアボールを投げつけてくる晴飛のキャラをあざわらうかのように、俺の自キャラは緊急脱出で距離を取り、こちらの得意なエリアに誘う。


 そして、まだゲームに意識を向けようとしている晴飛は、男同士の恋バナの沼に自分がはまっていることに気づいていない


「で、どうなん?」

「そ、そういう知己くんはどうなのさ?」


 たしかに、恋バナで一方的に聞きまくるのは良くないな。

 ここは、晴飛の胸襟を開くためにも、こちらから色々と開示すべきだな。


「俺か? そうだなー。多々良浜さんや三戸さん、久留和さんとは仲良くなれたかな」

「ふーん……」


 自分から聞いておいて、何故か素っ気ない晴飛。

 ゲームでは晴飛のキャラから竜巻旋風脚の大技を繰り出され、それをモロに食らう俺の自キャラ。


 聞いておいて、俺に興味ないんか?


 まぁ、この男女比が歪な1:99の世界では、『女の子と仲良くなったぜ!』位では、武勇伝にもならないか。


 しかし、この場は男同士の恋バナ。

 ここは、かましてやらんと男がすたるというもの。


「そういや、この間は担任のエッちゃん先生をこの部屋に連れ込んだな」

「ええ⁉」


 年上女教師カードはさすがに強力だろ。


「家来る?って誘ったらご飯作りに来てくれてさ」

「い……家にって……じゃあ、その後……」


 ゲームでは俺の反撃の、突進からの投げ技をモロに喰らう晴飛のキャラだが、晴飛はゲーム画面ではなく俺の方をあんぐりと口を開けて見ている。


 ふっ、勝ったな。

 女教師を家に連れ込むって、中々のトロフィーだろ。


「安心しろ。その後、邪魔が入ったから俺はまだ童貞だよ」


 晴飛にかませて満足感を得た俺は、サラッと撤退。

 ここで、俺だけ大人の階段上ってレベルが段違いなのを見せてしまうと、晴飛が委縮してしまうからな。


 俺の目的は、あくまで晴飛に女の子に積極的になってもらうために焦らせるのが目的なんだから。


「あ~、よかった……」


 俺がまだ自分と同じく清い身体であることに、晴飛は安堵している様子。

 前世でもあるあるだが、仲の良い野郎友達に彼女が出来ると、急速に焦るもんな。


「心配しなくても、お互い彼女が出来ても、たまにはこうやって男友達同士で遊ぼうぜ。こういうのは、やっぱり別腹だし」


「う、うん……。そうだね」


 まぁ、いざ彼女が出来たら大体の場合は多くの時間を彼女に割くことになって、男友達同士で会う頻度はグッと減っていくんだろうけどな。


 前世の経験からそう言いかけたが、無邪気に喜ぶ晴飛の顔を見ると、そうは言えなかった。


 いつの間にか2人とも話に夢中になっていて、タイムアップで両者引き分けとなった。

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― 新着の感想 ―
「ここが、男の子の部屋か」って、自分の部屋はなんやねんw 秘密の組織は何をどこまで知って、どうしようと思っているのかなあ。
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