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第22話 自分が思っていた以上に強欲な女なんだな……

【江奈あやみ─視点】


「ねぇねぇ江奈さん!」

「は、はい。何ですか? 観音崎君」


 2限の休み時間。

 弾んだ声で、観音崎君が私に話しかけてくる。


 同じ学級委員として観音崎君と話す機会の多い私ですが、彼の純真無垢な笑顔は、毎回心臓に悪いです。


 っていうか、男の子なのに距離が近いです。


「橘君からランチに誘われたんだ」

「ランチですか⁉ 男の子同士で!」


 ザワッ! と、驚愕が1組の教室内に広がる。


「うん。行ってきちゃダメ……かな?」


 はう……可愛い……。

 そんな上目遣いでおねだりされては、女の子はどんなお願いでも聞いてあげちゃいます。


「あ、私のスマホの方にも2組の学級委員の多々良浜さんから、ランチの件で連絡が来ていますね」


 この間の学級委員会議で連絡先を交換していたのですが、早速役に立ちましたね。

 ただ、連絡先交換の時の多々良浜さんは、随分とイヤそうな顔をしていましたが……。


 ふむ。


 どうやら多々良浜さんは仕事はできるようで、メッセージに書かれた実施案は実現性もあり、かつクラス内の同意も得られそうなものでした。


「どう? 江奈さん」


「ええ、大丈夫です。今日のお昼に実施しましょう」


 スマホから目線を切り、ニッコリと観音崎君に笑いかける。


「良かった。楽しみだな~橘君とのランチ」

「観音崎君は橘君のことを気に入ってるんですね」


「え? あ、うん……。ボクにとっては、初めて仲良くなれた男の子だから。他の男の子って、面と向かってだと一切喋らなかったり、粗暴だったりしてさ……」


 遠くを仰ぎ見ながら観音崎君が苦笑いする。


 男性は圧倒的少数派なので、女人禁制の男性だけで集まるコミュニティや座談会があると聞いた事があるが、その時に苦い経験でもあるのでしょうか。


「橘君はそうではないと」

「うん。彼はボクの理想の男の子だよ」


「理想の……」


 嬉しそうに話す観音崎君を見て、私は思わず頭に手をやってしまう。


 入学早々に1組と2組との間で勃発したいざこざを見事仲裁してみせた時に、私の頭を優しく包んでくれた大きな手のひらの感触と暖かさが、まだ残っている。


「そんな!観音崎君は1組男子なんだから、この学園での一番の男子は観音崎君なんだよ!」


「私たちに優しくしてくれる理想の男の子なんだから!」


 観音崎君の橘君が理想の男子発言に、他のクラスメイト達が一斉にたしなめる。


「委員長も何か言いなよ」


「こういう時に真っ先にフォローするのがアンタの役目でしょ」


 更に外野から、ここぞとばかりに苦言の矢が私に降り注ぐ。


「ご、ゴメンねみんな。ボクが変な事言って」


 慌てて観音崎君がフォローしてくれる。


 男の子なのにこんな風に気が回る所が、本当に観音崎君は凄い。


 凄いのになぜ……。


 なぜ私は橘君にも強く惹かれるのだろうか……。



 男子が貴重なこの世の中において、私は男の子と日常的に接する機会を得られた。


 それも、飛びきり可愛くて誠実な男の子とだ。


 優秀でくせ者揃いの1組で学級委員長として手綱を握るためには、私とて全力を注力しなくてはならないと分かっている。


 それなのに、私はよそのクラスの男の子に目移りしている……。



 ───私って、自分が思っていた以上に強欲な女なんだな……。



 私を庇う観音崎君の小さな背中を見ながら、彼の男気への感動ではなく、他の男の子の事を考えてしまっている自分の浅ましさに私は、自己嫌悪に陥るのであった。

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