第11話 一体、俺は誰なんだぁぁぁぁぁあああ!
「う~、今日も疲れたな」
自宅に帰りつき、カバンを投げ出してベッドに寝転ぶ。
でも、言葉とは裏腹に気持ち的には充実感に満ちていた。
『疲れた』は、いわば前世アラサーリーマンの俺の帰宅時の口癖が残っているようなもんで、高校生の若々しい身体は疲れ知らずである。
しかし、今日はたくさんの女の子とお弁当を食べたり、色んな子と話したりしたな。
そして学級委員になって、委員会決めをして。
盛りだくさんな一日だった。
そういや、クラスの女子たちは俺抜きでミーティングをするとか言ってたな。早速、学級委員なのにハブにされているが、まぁ、男の俺には聞かれたくない話なのだろうと気にしないことにした。
「それにしても、何かをしなきゃいけない気がするんだよな……」
別に放課後に用事なんてないのに、何か重要な事を忘れている気がする。
何ていうか、こう……。
日課にしている事をしていない気持ち悪さというか……。
そう、ランニング好きの人がランニングが出来ないでいることによりフラストレーションが溜まるみたいな。
「んじゃ、ちょっくらランニングでもしてみるか」
玄関にはランニングシューズがあるみたいだし、当たらずも遠からずだとは思うんだよな。
ひょっとしたら原作の橘知己のルーティンなのかも。
そう思った俺は、早速トレーニングウェアに着替えて、近所を適当にランニングしてみた。
「はぁ、ただいま。さすがに、高校生の身体だ。軽い軽い」
30分ほど走って帰宅したが、まさに羽根が生えたように足が前に進んで楽しいランニングだった。
前世では、久しぶりにランニングしたら膝を痛めたからな……。
───しかし、橘知己は随分と引き締まった身体してるんだな。
汗をかいて濡れたトレーニングウェアを脱ぎ、姿見で己の身体を見てみると、無駄な脂肪は一切ない、だが決して痩せているわけではなく、きちんと鍛えられてカットが浮き出ている筋肉たちを前に、我ながら惚れ惚れしてしまう。
この筋肉はゲームのキャラデザ担当の趣味なんだろうか?
主人公の友達で情報屋のサブキャラには無用な筋肉な気がする。
「しかし、ランニングは気持ちよかったけど、何かこれじゃない気がするんだよな」
シャワーを浴びて寝巻に着替えながら、俺はそう独り言ちた。
何かをしなくてはならない事は憶えているのに、それが何だったのか思い出せない。
100円ショップに行く必要があるのは憶えているのに、何を買わなきゃいけないのか憶えてない、現世のアラサーの俺みたいな健忘症なのか?
「何だったかな? こう……別の部屋で……」
別の部屋?
ここは一人暮らしをする上では十分な広さだが1ルームタイプの部屋だ。
他に部屋なんて……。
「たしかこっちの……」
直感に導かれるように、俺は家具も家電も何も置かれていない壁に手をやる。
『手のひら静脈認証確認しました』
(プシューッ!!)
「うぇ⁉ なになに⁉」
突然の機械音声が一人暮らしの部屋に響きガチでビビる俺。
と心拍数が上がっちゃった俺にはお構いなしに、白い壁に切れ目が入る。
それはまるで宇宙船のエアロックドアのように壁からせり上がり、そして開口部が開いた。
「すげぇドアのギミック……。橘君ってスペース系のSFとか好きなのかな?」
普通の住宅にはあり得ない設備に、俺は口をあんぐりと開けるしかなかった。
ええと……。
貞操逆転の世界なら、こういう秘密部屋みたいな物が男の部屋には標準装備なのか?
どんな裏設定だよ!
こんなの、ゲームには1ミリも無かった要素だぞ。
とにかく、中を確認してみるかと恐る恐る隠し部屋に入ってみる。
中に入って、まず目を引いたのがその広さだ。
これ、こっちの秘密部屋の方が寝起きしてる部屋と同等の広さだ。
位置関係を考えると、どうやらマンションの隣室が、このSFチックな扉でつながっているようだ。
そして、その部屋に所狭しと設置されたトレーニング器具たち。
それらは綺麗に整備されているが使い込まれている様子からも、おそらく頻繁に使用されていたと思われる。
橘君のこの筋肉美は、おそらくこの部屋のトレーニング器具で培われたものだと思われる。
「ふぅ……。なんだ、パーソナルジムだけか」
ちょっと驚いたけど、こんな設備なら願ったりかなったりだ。
たしかに、この男女比が1:99の世界では男はおいそれとスポーツジムに入会してトレーニングという訳にはいかなそうだしな。
うん、橘君はガチトレーニーとして、この設備を一人暮らしの部屋に設けたんだな。
プシューッ!って開く秘密部屋タイプでこっそり。
…………。
そう俺は、自分を納得させた。
いや、納得させたかった……。
「じゃあ、こっちの壁面に設置されてるアサルトライフルやハンドガンたちは何なんだよ……!」
そう言って呻くと、俺は頭を抱えてその場にしゃがみこんでしまう。
見て見ぬふりをしたかった……。
でも、無理だ。
だって、黒光りしてる銃器とか存在感が凄いし。
「流石にモデルガンだよね……。きっと橘君は、トレーニーでガンマニアって設定なんだよ、うん……」
そうであって欲しい……。
そう思いながら、震える手でハンドガンを手に持った。
「うわぁ……実銃なんて、持ったことないはずけど、この重さは多分本物だぁ……」
そして、グリップがめちゃくちゃ手に馴染むぅ……。
握った瞬間に俺は理解した。
このハンドガンは間違いなく、俺の相棒だと。
ちくしょう……。
相棒なら、同じ学級委員の多々良浜さんで間に合っているというのに。
「おっと、いけない。日課の銃の清掃をしないと。いざという時に弾が詰まっちゃ、命にかかわるからな」
そう言って、自然な手つきで銃コーナーの下にある作業机の引き出しを開けて、清掃キットを当たり前のように取り出したところで俺は寒気がした。
───俺、今なんて言った?
ってことは、橘君はこの銃をコレクションしているわけじゃなくて使用してるってこと?
「いったい……一体、俺は誰なんだぁぁぁぁぁあああ!」
哲学的な自問自答をしたが答えなんてもちろん返ってこず、ただ無機質な隠し部屋の中に俺の声が残響する。
「ん? 何だこれ」
銃のメンテナンスキットのカゴを置いた作業机の横に、何やら書類を綴ったフラットファイルがあった。
「こ、これは……」
ファイルを開いてみた俺は、次々とページをめくる。
「橘知己……お前、仕事は几帳面なタイプなのな……」
そう言いながら、俺は開いたページに貼り付けられた観音崎晴飛の写真を撫でた。
圧綴じのフラットファイルには整然と、そして大量の資料が綴じられていた。
はい。ようやく、本作タイトルの男友達が「大変」の部分が出てきましたね。
10話まで女の子にイケメンムーブかましてキャッキャウフフして、いい夢見れたか?
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