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夜空の星さがし

　満月の夜の魔法が、まだ森のどこかに残っているような静かな晩のことでした。

　空は澄みきっていて、無数の星が漆黒のキャンバスに散りばめられています。

　その輝きはまるで、森の上で誰かが小さな光をこぼしたかのようでした。

　ミミはいつものように、ノノと約束した森の入り口で待っていました。

　草の上には夜露が光り、風がそっと木々をゆらして通り抜けていきます。

「ねえノノ、今日も来てくれたんだね！」

　ミミはうれしそうに駆け寄りました。

　ノノは葉っぱのマントをひるがえしながら、得意げに笑いました。

「もちろんさ！　だって、今日は特別な夜だもの」

「特別な夜って……どんな夜？」

「星がいちばんきれいに見える夜。森の星たちも顔を出す夜さ。君に見せたいものがあるんだ」

　ミミの瞳がぱっと輝きました。

　二人は並んで森の中へと入っていきます。

　夜の森は昼間とはまったく違う顔をしていて、風の音も葉の香りもどこか繊細で、

　一歩踏み出すごとに世界が静かに息をしているのが感じられました。

「ねえノノ、どうして星はあんなに輝いているの？」

　ミミが空を見上げてたずねると、ノノは小さく首をかしげました。

「うーん、星はね、みんなの夢や願いが集まってできているんだよ。だから、あんなにキラキラしてるのさ」

「じゃあ……私の夢も、星になってるのかな？」

「もちろん。君の夢は、きっといちばん明るく光ってる星かもしれないね」

　ミミは頬をほんのり染めて笑いました。

　二人が小川のほとりまで来ると、そこに一本の大きな木が立っていました。

　枝のあいだからこぼれる月明かりが、地面にやさしい模様を描いています。

「ここだよ、ミミ」

　ノノが指さした先の草むらで、小さな光がふわりと揺れていました。

　それは虫でも、ほたるでもありません。まるで小さな星が地上に舞い降りたようでした。

「わあ……ほんとうに光ってる！」

「これは森の星。風の強い夜は隠れちゃうけど、今夜は静かだから顔を出してくれたんだ」

「触ってもいいの？」

「うん、でもやさしくね」

　ノノはミミの手をとり、そっと光の粒を手のひらに乗せました。

　それはほんのりあたたかくて、心の奥までやさしく染みこんでくるようでした。

「ぽかぽかして気持ちいいね」

「これは森の魔法のかけらなんだ。森の秘密や記憶を守っているんだよ」

　ミミは光を見つめながら、ぽつりとたずねました。

「どうして人間には見えないの？」

「人間はね、忙しすぎて小さな奇跡に気づけなくなってるんだ。でも君は違う。だから、僕たちに会えたんだよ」

「……うれしいな。ノノと出会えてよかった」

　ノノはにっこり笑い、ミミの髪にそっと触れました。

　その瞬間、森の奥で風がやさしく鳴り、葉っぱの音が星の歌のように響きました。

　二人はさらに奥へ進みました。

　草むらのあいだや、木の根もと、岩の上……いくつもの小さな光がちらちらと瞬いています。

「ほら、ここにも！」

　ノノが指さす先で、またひとつ光が生まれました。

「星ってね、ひとつじゃなくて、たくさん集まって大きな光になるんだ。僕たちも、君も、みんなでひとつの光を作ってるんだよ」

「わたしも……みんなの光の一部なんだね」

「そう。だから大切にしよう。自分の中の光も、まわりの光も」

　夜風がそよそよと吹いて、二人の髪とノノの葉っぱのマントをやさしく揺らしました。

「ねえノノ、星たちは何を話しているのかな？」

　ノノは目を閉じて、静かに耳をすませました。

「風に乗って、願いや秘密を語り合ってるんだ。ミミも、聞こえる？」

　ミミもそっと目を閉じました。

　風の音、葉のさざめき、小川のせせらぎ……

　それらがひとつになって、まるで星たちの歌のように聞こえてきました。

「……ほんとうだ。星たちの歌が聞こえるみたい」

「それは森の魔法だよ。この星さがしはね、ただの遊びじゃない。心を静かにして、自然とつながる大切な時間なんだ」

　ミミは深く息を吸いこみ、夜空を見上げました。

　無数の星々が瞬き、森の星と空の星がひとつに溶けあって見えます。

「私も、もっと強く輝けるようにがんばるね」

「それでこそ、森の星だ」

　ノノはうれしそうに笑い、ミミの手をやさしく握りました。

　その手のぬくもりが、夜の冷たさを忘れさせるほどにあたたかでした。

　空の星と森の星が重なり合い、二人の心に静かな光が灯ります。

　まるで、ふたつの世界が見えない糸で結ばれたようでした。

「また一緒に星を探そうね」

「約束だよ、ミミ」

　その言葉とともに、ふたりの間にひとすじの流れ星が走りました。

　星降る森の夜に、新しい約束が静かに輝きを放ち、それはこれからの未来へと続く、光の道のはじまりになりました。