月のひかりと秘密の約束
夜空に、まんまるな満月がゆっくりと浮かんでいました。
その白い光は、まるで森全体を包み込むやさしい魔法のランタンのように、静かに大地を照らしています。
家の窓からもその光がのぞき、森の小道までが銀色の絨毯のように輝いて見えました。
ミミはおかあさんに「すぐ帰るから」と声をかけ、そっと外へ出ました。
長ぐつを履き、首にマフラーをぐるりと巻いて、ひんやりとした夜の空気を胸いっぱいに吸いこみます。
森へ向かう足取りは軽く、それでいて少しだけ緊張を帯びていました。
「ノノ、今日の約束って……どんなことなの?」
隣を歩くノノは、満月の光を受けて葉のような髪をきらめかせながら、にっこり笑いました。
「今日はね、月のひかりが森を守る魔法になる特別な夜なんだ。だから、みんなで森と未来を守る“秘密の約束”をするんだよ」
その言葉に、ミミの胸はぽかぽかと温かくなりました。
満月の光が差し込む森の小道は、昼間よりも明るく、足もとには白い花が月明かりに透けて咲いています。
森の奥の広場に着くと、すでにメメやココ、ほかの妖精たちが集まっていました。
彼らはみんな、月の光を浴びてほのかに輝いていて、まるで星たちが地上に降りてきたようでした。
空の上では、満月のまわりを小さな星々が静かに瞬き、今夜の儀式を見守っているように見えます。
「さあ、はじめよう」
ココのやわらかな声が響き、みんなは輪になって手をつなぎました。
月の光が頭上から降りそそぎ、輪の中央に淡い光の柱が立ちのぼります。
それは風も音もない、ただ静かで、心の奥に響くような光でした。
ノノはミミの手をぎゅっと握りながら言いました。
「この約束はね、心のなかでずっと守る魔法なんだ。どんなにつらいことがあっても、この月の光を思い出せば、きっと勇気がわいてくるよ」
ミミはうつむきながらも、小さくうなずきました。
「うん、守るよ。森と、みんなのこと」
メメが目を閉じ、やさしく呪文のような言葉を唱えはじめました。
その声は静かな旋律になり、月光に溶けこむように森中へと広がっていきます。
ひとり、またひとりと妖精たちがその言葉を口ずさみ、やがて森全体がひとつの歌声に包まれました。
ミミも胸がいっぱいになりながら、心の中で同じ言葉をくり返しました。
「守る、守るよ。未来と森を……」
その瞬間、満月の光がひときわ強く輝きました。
まるで星の粒が地上に降りそそぐように、森全体が銀色に染まります。
それは、約束を祝福するような魔法の瞬間でした。
やがて儀式が終わると、森は再び静けさを取り戻しました。
月光だけが優しく残り、妖精たちはひとり、またひとりと帰路につきます。
ミミもゆっくりと森を抜けながら、空を見上げました。
満月はまるで見守るように輝き、ミミの心の奥にもやさしい光がともっていました。
「約束って……守るのがむずかしいときもあるのかな」
小さくつぶやいたとき、足もとの草むらからふわりと光の粒が浮かび上がりました。
それは、“こだまのささやき”のひとつ。
ミミの手のひらにすっと舞い降りると、ほのかな温かさを放ちながら語りかけるように光りました。
『ミミ、君のこころが強ければ、約束はいつだって守れるよ』
その声が心の奥でやさしく響き、ミミは微笑みました。
「うん……がんばる」
家に戻ると、おかあさんが窓辺で待っていました。
「遅くなったわね。でも、顔が輝いているわよ」
ミミは照れくさそうに笑いながら、マフラーを外しました。
「うん、森と未来のための約束をしてきたの。魔法みたいに、すごくきれいな夜だったんだ」
おかあさんはミミの髪をやさしくなでて言いました。
「その魔法は、きっとミミの中でずっと輝き続けるわ」
その言葉に背中を押されるように、ミミはそっと空を見上げました。
月の光は静かに差し込み、部屋の中を淡く照らしています。
ミミはベッドに横たわりながら、胸の中でそっとつぶやきました。
「この光を、忘れないように」
やがてまぶたが閉じると、夢の中でも月が微笑み、森とミミの物語をそっと照らしていました。
それは、新しい季節と冒険の始まりを知らせる、静かな夜の約束でした。




