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72話 蒼く、暗く1

※皆様も体調にはお気をつけくださいね……?

   †  †  †


 無人島のダンジョン探査二日目、岩井駿吾(いわい・しゅんご)はひとつの疑問に襲われていた。


「……転移門(ワープ・ポータル)を使う、んですよね?」

「うんうん」


 駿吾の右側、手を繋いで篠山(しのやま)かのんが頷く。次に左側を見れば、やはりセリーナ・ジョンストンが手を繋いでいた。


「……どういうこと?」

「あんまり性能の良い転移門じゃないから、効果範囲が狭いんでしょ?」


 セリーナの言うことはわかる。かのんからも「あんまり範囲の広いのだと、調査費から足が出るんだよねー」と言われていた。

 駿吾は振り返る。藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)の姿は見えないが、背中に抱きつかれている感触だけは伝わった。


「えっと、こ、れで……?」

「は、い……大丈夫、です」


 紫鶴は駿吾の両手が塞がり『ツーカー』が使えないので、肉声で答える。それを確認すると、かのんが一本の“杭”を取り出す――転移門用の杭が駿吾の足元に突き刺さると半径一メートルほどの魔法陣が描かれ、光に包まれる。


『なにかあれば、ワシを呼ぶのじゃぞー』

「あ、うん。行ってき――」


 ます、と駿吾がスネグーラチカに言い切る前に、二階層のフロアボスの部屋へと転移した。


   †  †  †


 ――戦乙女(ヴァルキュリャ)。北欧神話における戦場で生きる者と死ぬ者を定める戦死者を選ぶもの(選定者)、奇しくも駿吾のコードとなった“ヴォーダン”に仕え、英雄を死者の館(ヴァルホル)へと導くのが戦乙女だ。


「うん、やっぱり新鮮ね。こっちだけで戦うのも」


 光の槍を手に純白の鎧を纏い、金色の髪をなびかせて戦場を駆けるセリーナの姿はまさに戦乙女と呼ぶのにふさわしい。長杖を持つマーフォーク、マーフォーク・メイジたちが起こす《大津波(タイダルウェイブ)》へと、セリーナは迷わず飛び込んだ。


「――南斗」

『承知』


 駿吾の呼びかけに、南斗が石斧で床を殴打――バキバキバキバキ!! と凍りついていく津波、その中心を光の槍で刺し貫いてセリーナは一気にマーフォーク・メイジたちの頭上へ。


「――hagalaz(ハガラズ)


 それは破壊を意味するルーン、虚空へセリーナが刻んだハガラズのルーンと同時、マーフォーク・メイジたちが粒子となってかき消えていった。


   †  †  †


【個体名】なし

【種族名】マーフォーク・メイジ

【ランク】D

筋 力:D

敏 捷:D+

耐 久:D-

知 力:‐

生命力:D

精神力:C


種族スキル

《水陸適応》

《魚人泳法》:D


固体スキル

《習熟:長杖》:D

《習熟:魔法:水》:C


   †  †  †


「うん、相手がこのくらいならルーン魔術も効果があるわね」


 どうよ、と振り返って笑顔を見せるセリーナに、駿吾もコクンと頷いた。


「うん、すごいね、やっぱり」


 駿吾はしっかりと自身の“魔導書(グリモア)”を開き、改めてセリーナのデータを確認する。


   †  †  †


【個体名】セリーナ

【種族名】戦乙女

【ランク】A

筋 力:B (B+)

敏 捷:A (A+)

耐 久:B+(A-)

知 力:A (A+)

生命力:A (A+)

精神力:A (A+)


種族スキル

戦死者を選ぶもの(ヴァルキュリャ)

《乙女の戦装束:光》:A

《愛捧げし英雄:シュンゴ・イワイ》


固体スキル

《Dチルドレン》:A

《習熟:槍》:A

《習熟:ルーン魔術》:A


   †  †  †


 戦乙女自身が飛び抜けてAランクでも強いわけではない。しかし、ルーン魔術の汎用性の高さとバランスの良さは特筆に値する。

 特に種族スキル《愛捧げし英雄》は、その指定された相手の目の前では全能力が一段階上昇する――これは死の精霊を起源に持つ戦乙女が、一個の存在として英雄と共に歩むようになった習性から発生したスキルだ。


(……ボクで、いいのかな?)


 自分が英雄か? と言われると、やはり疑問符を抱くのが駿吾という人間だ。セリーナに聞けば、あっさりと答えるだろう――英雄かどうかなど、本人じゃなくて周りが決めるのよ、と。


「……三階でこれかぁ。うん、やっぱりCランクは軽く越えてくるかも」


 アステロペテスの肩の上、かのんが集めたデータを確認してそうこぼす。二階層のフロアボスの部屋では、もうあの転移門の気配はなかった。常時繋がっている訳ではなかったのが、幸いだが――。


『妙です。三階から、少し感覚が変わりました』


 そう『ツーカー』のメッセージで紫鶴が伝えてくる――駿吾の“左目”の代わりをする、と彼女が自ら伊吹大蛇(イブキノオロチ)の視力で“観察”しているのだ。

 姿を《隠身》で隠しても紫鶴の緊張は伝わってくる――より深く、暗い海の見える迷宮からする異様な気配がしているのが見えているのだ。


 ひたり、と足音がした。ダンジョンの奥、暗闇から現れたのは深海のような暗い蒼をしたマーフォークが四体だった。


「……なに? 変種?」

『変種つうか……なんだ? 妙に――』


 ボレアスの思念が伝わり終わる前に、蒼黒いマーフォークたちが身構える。その手に握られていたのは、錆びついた刀だ。今までのマーフォークとは、明確に違う。


「北斗、南斗。頼める、かな?」

『応さ』

『承知』


 北斗と南斗が、刀を構えるマーフォークたち相手に相対するように前に出る。その横にセリーナが並び、振り返ることなく告げた。


「シュンゴとカノンは任せたわよ、シズル」

「は、い……この身に、変えまして、も」


   †  †  †


「そろそろ、なにかあるなら遭遇しておるころかの」


 地上、木陰で涼んでいた蘆屋道満(あしや・どうまん)がこぼす。それに刀を振っていた御堂沢氷雨(みどうさわ・ひさめ)が手を止めた。


「……なにか、とは?」

「さての? 儂も目にしてみんとわからんよ。ただ、あのだんじょんというのはなかなかに厄介なものでの」


 ガリガリ、と木の枝で道満は砂浜になにかを記していく。それを氷雨は覗き込んだ。


「だんじょんというのは、物の怪どもと同じ情報から生まれる存在じゃ。例えば西洋で言えば複数の獣を合成した魔獣と言えば――」

「キマイラ、でしょうね。ギリシャ神話の」

「うむ――」


 西と書かれた文字の下に、道満はきまいらと記す。獅子の頭に山羊の胴体、蛇の尾を持つ魔獣――まさに正しくキメラ合成生物と言うべき存在だ。


「これが東洋、この国であるのなら鵺と言うのが代表格になるじゃろう」


 道満は、東と書かれた文字の下に鵺を記す。猿の顔に狸の胴体、虎の手足と蛇の尾持つ物の怪――道満自身も使える化生だ。


「重要なのは『複数の獣の要素を組み合わせた魔物が出現するだんじょん』があるのであれば、その土地由来のもんすたーが出現しやすいのじゃよ」

「……ですが、この国のダンジョンではどちらも見られるのでは?」

「まぁの。それがこの国のおっかないところなんじゃが――()()()()()()()()()()()なんじゃよ」


 実際にその目で見てきた道満からすれば、明治維新の文明開化以後のこの国はあまりにも柔軟に洋の東西を問わずにさまざまな文化を受け入れてしまった――それが、“迷宮大災害ダンジョン・カタストロフィ”では如実に現れた。


「柔軟すぎるというのも考えもんじゃよ。多くの情報を懐に入れてしまったからこそ、この国のだんじょんは世界でも類を見ないほど、多くの物の怪を生み出す――さて、その上でじゃ」


 魚人――そう砂浜に書いた道満は、苦笑しつつ言った。


「この国の“情報”は、この魚人という言葉で一体、どれだけのモノを連想するのかのぉ? ――正直、ゾっとせんわい」


   †  †  †

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― 新着の感想 ―
[一言] >日本における魚人の連想 ……あっ(察し インスマス産まれも範疇か、ヤバいっすね。
[一言] 父なるダゴン、母なるハイドラ、いあいあ。 クトゥルーはインスマスの底で眠っていて欲しいけど、クー子が出てきたからなぁ。
[良い点] でもこの国だと、その連想した妖怪物の怪モンスター、最終的には全部人間に友好な萌えキャラになるんでしょ?(暴言
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