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28話 三人寄ればって言うけれど、大概うるさいのは中心人物だよね

   †  †  †


「え? ダンジョンひとつ踏破してきたのか!?」

「……ウス」


 探索者協会(シーカーズ・ギルド)西多摩地区支部に約束の時間に到着した岩井駿吾(いわい・しゅんご)を、鷲尾倉吉(わしお・くらきち)が軽い驚きと共に出迎えた。

 なにか悪かっただろうか? 駿吾が戸惑っていると、倉吉は改めて問いかけてくる。


「……お前、どのくらいの頻度でダンジョンに潜ってる?」

「えーっと……二日ぐらいで。あ、Eランクダンジョンが、基本なので……」

「――良し、理解した。そのレベルになる訳だわ」


 倉吉が気を取り直したように笑う。アレだろうか、もしかして他の人とそんなに違うのだろうか? そう戸惑っていると倉吉がそれを察して答えた。


「普通、真面目な連中でも三日に一回とか、四日に一回とかそのぐらいの頻度だぞ。一週間に一度って奴らもざらにいる。もちろん、理由はあるけどな」


 普通、ダンジョンに挑むのは四人から六人ぐらいのチームを組む。そうなると全員の予定を合わせ、準備を整えないといけない。またスキル構成によって使う武器やアイテムも違うから、その手入れや消耗品の補充などに時間が取られるものだ。

 この場合、ソロ探索者――藤林紫鶴(ふじばやし・しずる)も同行しているが戦闘に加わらず監視者を自称しているのでカウントしないものとする――として単独でダンジョンを踏破したり、あまつさえ破壊する駿吾が異常なだけである。


「……そ、そうなん、ですか?」

「そうなんですよ――ま、悪いことじゃない、お前にはお前のペースがあるからな。ただ、人によっては驚くし、訝しがるってだけだ」


 仕事をしないよりずっとマシだぜ、と軽く背中を叩いて倉吉はフォローしてくれる。いい人だなぁ、と駿吾はしみじみと思った。あまり、今までの人生では近くにいなかったタイプの人だ。


「今日はダンジョン捜索メンバーの顔見せとちょっと足を伸ばして軽い捜索を行なうつもりだったが……それでいいか?」

「……は、い。事前に、聞いていたので……」

「そっか。わっかいなぁ、俺もそんな頃はあったけど、今は結構響くんだよなぁ。羨ましいわ」


 年は取りたくねぇわ、とぼやきながら倉吉は駿吾を誘導して歩き出す。それになんと返していいか分からず後ろから着いていった。


「おいーっす。揃ってるか?」

「遅いですよ―、鷲尾さんっ」


 会議室に入った直後、倉吉がそう出迎えられた。駿吾は慌てて時間を確認しようとするが、ピコンと紫鶴から『ツーカー』のメッセージが届いた。


『大丈夫です、時間通りです』

「お前、どんだけ楽しみにしてたんだよ、篠」


 そんな駿吾と紫鶴のやり取りには気づかず、倉吉は会議室のテーブルに身を乗り出して突っ伏していた相手を見る。

 年の頃なら一〇代後半ほど。くせっ毛の黒髪を無造作に結い上げ、分厚い黒縁眼鏡をつけた少女だ。その白衣という服装は清潔感はあるが、逆を言うとそれしかない印象の女性だ。


「だって、ほらほら! 例の彼が来るって聞いてて! お、そっちの子ですね!?」


 ガタン、と立ち上がった少女は迷うことなく犬の仮面をつけた黒ずくめの少年に駆け寄った。ビクゥ、と身体を驚きで跳ねさせる駿吾を見て、ペシと少女の頭を受け止めて倉吉が食い止めた。


「篠ぉ、初対面の相手には止めろっての」

「うぐぐぐぅ」

「あ、こいつは西多摩地区支部所属のダンジョン学の専門家で篠山(しのやま)かのんだ。年は一八……って! 力強くね!?」

「へっへっへ、最近、ダンジョンでレベル上がったんですよぉ」


 少女、かのんはでへでへと笑いながら駿吾に手を伸ばすが虚空を掴むだけだ。扉を閉めると倉吉はかのんの首根っこを引きずって強引に席に座らせた。


「そういうのは相手が面食らうから止めとけって言ってんだろうが! はしたない!」

「うっわー、考えが古いですよー、それ!」

「……そろそろ、次に話を進めてもらっても?」


 そう言ったのは、既に座ったまま険しい表情をした大男だ。筋骨隆々、と呼ぶにふさわしい鍛え上げられた肉体を持つ歴戦の探索者(シーカー)と言った風情の男だ。

 大男は駿吾に視線を送ると、軽く会釈して名乗った。


野畑虎彦(のばた・とらひこ)、Bランク探索者だ、よろしく頼む」

「……ウ、ウス。自分……は――?」


 そこで名乗ろうとして、もうひとりいたことに気づく。虎彦の横、影に隠れるように――その顔に駿吾は目を丸くする。

 なぜなら、彼が見知った顔だったからだ。


御堂沢氷雨(みどうさわ・ひさめ)()ランク探索者です」


   †  †  †


 黒塗りのバンに乗って、駿吾と紫鶴、氷雨、かのん、倉吉、虎彦の六人が乗っていた。迷うことなく運転席に虎彦が、助手席に倉吉が乗り込んだだめ、自動的に駿吾が後ろということになった。


「……御堂沢さん、どうして?」

香村(こうむら)本部長に頼まれたんです。事情を知っている者を集めたいから、と」


 あの時、氷雨もまたEランクに昇級していた。本人としては駿吾のオマケ、という形だと思っているが、今の彼女の相応の【DLV(ダンジョン・レベル)】は『15』であり、スキル構成も相まって充分Eランクとしてやっていける実力があった。


「氷雨ちゃんはあれでしょ? 駿吾君と知り合ったのは土蜘蛛八十女(やそめ)事件がきっかけなんだっけ?」

「そうですね。先に別の場所でニアミスしていましたが……」

『すみません、私も初耳でした……』


 あれ以来、氷雨と紫鶴は時折連絡を取り合う仲になっていたという。お見舞いにも何度か来てくれたが……まさか、こうやってまた仕事を一緒にすることになるとは思わなかった。


「あー。なぁ、御堂沢って()()?」

「はい、その御堂沢だと思います」


 言いにくそうに訊ねた倉吉は、その返答で納得した。それ以上倉吉が追求しなかったので、駿吾もなにごとかと思ったが触れはしなかった。それを察したのだろう、氷雨が自分から言った。


「うちの祖父が“最初の探索者たちファースト・シーカーズ”のひとりで。探索者一家なんです。それで、ですね」

「……そっか」


 それ以上は駿吾も追求しない。そこで終わらせたということは、あまり言いたくないのだろう――そう思ったからだ。

 そんな駿吾に笑みをこぼす氷雨に、かのんはにんまりと笑顔を浮かべるが、バックミラー越しの視線に倉吉のとがめる視線に気づいて、咳払いした。


「そういえば、駿吾君。新しく見つかったゴブリンのダンジョンを踏破したんだって? ダンジョン・マスターの魔石はどうするつもりなの?」

「……とりあえず、契約しておきました」


 そう言って、駿吾は“魔導書(グリモア)”を開いてデータを見せた。それを見て、かのんは目を輝かせた。


「お、あたしにも確認させてくれる!?」

「……ドゾ」


   †  †  †


【個体名】なし

【種族名】ゴブリン・ライダー

【ランク】E

筋 力:E-(E+)

敏 捷:E (D)

耐 久:E (E+)

知 力:‐

生命力:E-(E+)

精神力:E (E+)



種族スキル

《小鬼の群れ》

《小鬼の統率者》


固体スキル

《騎乗》:E

《乗騎:グレイウルフ》


   †  †  †


「ほうほう、あそこのダンジョン・マスターはゴブリン・ライダーと聞いてたけどグレイウルフか。王道の組み合わせだね」

「……ッスカ?」


 ひょい、と“魔導書”を覗き込まれて駿吾は身をすくめる。近づかれると温もりだとか柔らかさとか、そういうのが直接伝わってくるのだ、緊張する――。


「あう!? あれ? 急になに!?」


 不意にかのんがのけぞる――紫鶴が《隠身》で隠れたまま、かのんを離れるように押しやったからだ。それに氷雨は気づいてクスクスと笑い、かのんは虚空で両腕をバタバタさせる。


「賑やかすぎんな、おい」

「ですね」


 後ろの騒がしさにそう言う倉吉と虎彦、よろしかったらそっちに退避させてほしい、そんなことを思いながら駿吾は目的地につくまで石のように固まっていた。


   †  †  †



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[気になる点] >黒塗りのバンに乗って、駿吾と紫鶴、氷雨、かのん、倉吉、虎彦の六人が乗っていた。 乗ってが二つ
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