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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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22.秋のハンター祭りのお知らせとがんばるヒヨコたち③

 翌日、学校では、千葉が品川に捕まっていた。


「千葉、昨日寺に行ったんだって?」

「……行ったけど」


 腕を組んで不機嫌さを隠していない品川に、千葉はぶっきらぼうに返す。


「何しに行ったの?」

「何って、その……」

「言えないこと?」


 品川の視線が千葉に刺さる。言えなくもないが、問い詰められると困るので濁している。千葉が守りたいといった子はこの品川だった。

 栗色の髪をツインテールにした、特別に可愛いというほどでもない、普通の女の子だ。

 以前から気にはなっていたが、勝浦の件でがっつりハートをつかまれてしまったのだ。


「ふーん、今日も行くの?」

「いや、今日はいかない」

「次はいつよ? わたしも行くから」

「なんで品川が行くんだよ」

「わたしだって時々行ってるからね」


 こんな言い合いを、佐倉、四街道、柏とポニーの足立、太田、渋谷は離れた席から眺めていた。




 千葉君が初めて来た数日後の夕方。寺に千葉君のほかに品川ちゃんも来た。来るときはいつも4人一緒なのに珍しい。

 千葉君は着替えが入った大きなカバン。品川ちゃんは学生服で。学校から来たっぽいけど、お化粧までしてる。


「品川ちゃんひとりなんて珍しいね」

「こいつが何してるのか見張ろうかと思って」

 

 品川ちゃんが親指で千葉君を指す。


「別に悪いことはしてねーよ」

「今日は四街道はいないんだ」

「四街道に用事があるわけじゃねーし」

「ほんとかなー?」


 品川ちゃんが微妙に不機嫌だ。なんかちょっと前の智みたいだなって、あーそうか。

 なんか納得できちゃった。邪魔しないでおこう。


 ダンジョンで何かしらの鍛錬をした千葉君が出てきたのは19時過ぎだった。その間武器を持ってきていない品川ちゃんは母屋で瀬奈さんと京香さんに捕まっていた。零士くん対策だろうけど。

 夕食が終われば20時をとうに過ぎている。さすがに真っ暗だ。東金駅は電車の本数も少ないので大網駅まで車で送った。





 大網駅で電車に乗って千葉方面へ向かう千葉と品川。上り線は空いているので並んで座る。


「品川、家まで送ってくよ」

「大丈夫だって。わたしのほうが強いし、遠回りになっちゃうじゃん」

「強いとかカンケーねーから。女子を送ってくのは男子の義務だろが」

「ふーん、義務ねー。義務じゃないと送ってくれなかった?」

「なんだよ。最近俺に突っ込んでくるじゃん」

「べーつにー」


 不機嫌そうな言葉とは裏腹に、品川の声は弾んでいた。

 学校最寄りの東船橋についたのは21時をとうに回っていた。電車を降りたふたりは駐輪場へ向かう。

 品川は自転車通学で、駅の有料駐輪場に自転車を預けて寺に行っていた。


「もう大丈夫だって」

「せっかくだし、家までランニングで送るぜ」


 千葉が大きなカバンを背負う。いい重しで鍛錬になりそうだ。


「で、どっちだ?」

「仕方ないなー」


 暗い住宅街を、品川が先導して千葉が後から走ってついていく。品川も速度を出さないで千葉が無理しないようにしていた。


「街灯が、すくねーな」

「10年前は畑が多かったところだし。防犯意識も低かったしさ」

「電柱は、増えない、からか」

「たぶんねー。千葉のところは?」

「もっと、すくねー、な」

「だめじゃん」

「慣れた、はぁはぁ」


 千葉の息が上がっている。品川が自転車から降りた。


「もうちょっとだから歩くよ」

「ぜー、はー、わりーな、はぁはぁ、体力ねーな、俺」


 千葉が膝に手をつき、息を整えている。学校の授業でそれなりに運動はしているはずだが、足りないのだ。ふたりはゆっくり歩き始める。


「ここまで走ってこれるんだからすごいじゃん。私は無理だもん」

「はぁはぁ、そうなのか? 品川は強いじゃんか」

「強いって言っても、体力はあまり変わらないし」

「ふーふー、そんなもんか」


 千葉の息が整う頃、戸建ての前で品川が止まった。周囲の家も同じようなデザインの建売だ。

 達筆な文字で品川と彫られた表札がある。


「うち、ここだから」

「おし、任務完了だ。遅くまで悪いな」

「わたしが勝手に行っただけだし。お、お茶でも飲んでく?」


 品川が右のツインテールをいじいじする。


「いや、だいぶ遅いしな。じゃ、学校でな」

「お、送ってくれてありがとう!」

「いいってことよ!」


 千葉は笑顔でサムズアップして走っていった。

 千葉の背中が見えなくなるまで見送った品川が家に入る。


「ただいまー」

「おかえりー、ずいぶん遅かったわね」


 品川によく似たお母さんが出迎えた。


「ちょっと寺に行ってたー」

「あらそうなの。声が聞こえてたけど表で誰かと話してた?」

「ちょ、ちょっとね。遅いからって送ってもらった」

「あらあらそうなの? 男の子の声だったけど、お母さんに紹介はないの?」

「そ、そんなんじゃねーし」


 顔を赤くした品川はそそくさと階段を昇って行った。





 寺の母屋では、チョットした会議が行われていた。新しく寺に来始めた千葉君に関してだ。

 出席者は俺、零士くん、瀬奈さん、京香さん、智の5人だ。


「品川に聞いたんだけどー。千葉が組んでるのは5人パーティで今のところ他の4人は気にしてないみたいだけど、千葉が強くなったらうちに来るようになると思うわよー」

「千葉たち5人は、品川たちポニーと一緒に遊びに行くくらい仲はいいよ」


 瀬奈さんの考えを智が補強する。


「面倒を見る子が増える、かもしれないってことかな」

「来る確率のほうが高いと思うわー」

「うーん、一気に5人かー。部屋が足りない」


 部屋もそうだけど食事がつらい。ワンマンアーミーだと厳しい人数だ。

 寮が完成したら調理の人も考えないとだめかもしれない。


「守君、日帰りにすれば可能かと」

「それなら対応可能かな」


 まぁ何とかしよう。


「鍛錬はいいが、安易なレベル上げは危険だぞ。強くなった気がするだけだからな」

「それ、まさに俺じゃん」

「守は例外中の例外だ」

「ひどい」


 零士くんが塩だ。

 でも、ポニーの4人はゴブリンで恐怖を知ったし、智からの話でしか知らないけど、勝浦ではサハギンとぎりぎりの戦いをした経験もある。何度か修羅場も経験してるから大丈夫と思いたい。


「船橋ダンジョンは再開したけど魔物とのエンカウントが少ないから訓練にならない」

「それよねー」

「学校でも話題になるよ。勝浦のほうが困難な状況で、だからこそ鍛錬になったって」


 奥様3人の意見だ。


「でも、墓地ダンジョンで骨と戦っても指導しながらじゃないと、力だけが上がって戦い方がお粗末になるだけでハンターとして歪んじゃうのよねー」


 瀬奈さんが困った顔をする。まさに俺なんですけど。


「スキルに頼るんじゃなく使えるようにならねーと」

「零士さん、それをいまの段階で求めるのはちょっとかわいそうよー」

「まずは体幹を鍛えることからだな」


 やっぱりそこに行き着くのか。基礎は大事だね。


「俺も鍛えようかな……」


 割れてる腹筋ってかっこいいもんね。

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