21.アラグネシルクの下着②
昼も食べて洗濯物を取り込むかなって時に来客があった。インターホン越しに見えたのは、ビッチさんと信号機の他に黄金騎士団の那覇さんの姿だ。当然3人の奥さんも一緒だ。
「お義父様、来客の人数が多いので本堂を使ってもよろしいでしょうか?」
「片付けだけお願いしますぞ」
「勿論です。仏様がいらっしゃいますから」
「守くーん、テーブルセットをおねがいしてもいーいー?」
「じゃぁお茶菓子も用意しますねー」
というわけで、本堂に集合だ。なお仕事は葉介さんにお願いした。
「今日の今日ですみません」
「あら、クイーンシルクと聞いてしまえば来るしかないでしょ?」
京香さんが頭を下げれば「また罠にはめたでしょう」と言わんばかりのビッチさん。まぁ顔は嫌がってないのでこれも挨拶だろう。
「これが、先日の池袋スタンピードの際に守君がゲットしたクイーンシルクです」
本堂の窓の近くにクイーンシルクを置く。窓からの日差しを反射して、キラキラと幻想的に輝いて見える。そこだけ極楽になってた。
「すばらしいわね」
「はえー」
「綺麗……」
「ポカーン」
女性陣の視線を独占してる。
那覇さんが連れてきた3人だけど救助した時にいろいろ動いてくれた女性が宮古さんで黒髪ポニーテール。おっとりしたお姉さんが石垣さんで茶髪ポニーテール。ちょっとヤンキーが入ってそうな姐御が与那国さんで金髪ポニーテール。
3人ともポニーテールなのは那覇さんがポニテ大好きだからとのこと。愛されてるねぇ。
「これでわたしたちのウエディングドレスを作りたいと思って上野さんに声をかけたんだけどー」
「それについてはわたくしでも伝手はあるのだけれど、アパレルと言えば黄金騎士団の方が太いので、今回ご足労をお願いしたのよ」
「というわけで御呼ばれした黄金騎士団の那覇です」
那覇さんが苦笑いしてる。
「ま、実は獄楽寺ギルドに折り入ってお願いもあってね。ついでに交渉に来たわけさ」
イケメン那覇さんが俺を見てニヤッと笑う。様になるのはうらやましい。
「はて、お願いとは?」
「ポーションをまとめて売ってもらえないかなと」
「ポーションねぇ」
俺の一存では決められないので京香さんを見る。
「当ギルドとしては個別取引はしないつもりなのですが……条件付きでなら。守君、スパイダーシルクを出してください」
「スパイダーシルクを?」
なにか案があるんだろうから、さくっと取り出す。
「これも池袋で入手したスパイダーシルクです。これが120個あります。これで下着や肌着を作りたいと思っておりまして」
「120個!? まさか、昨日一日でそれだけの量を!?」
「あー、疑っちゃいますよねー」
ということで、本堂にドドドンと並べていく。
「なッ……」
那覇さんが目を見開いてる。
「僕たちはマジックバッグを持ってて結構な量のドロップ品を持ち帰っているけど、一回でこの量は無理だな。そんなに魔物を倒せないし、倒してもドロップするとは限らないしね」
マジックバッグ?
なんぞそれ。
「マジックバッグをお持ちなのですね」
「僕たちの場合はスポンサーに持たされてる感じだけどね」
ハハハと乾いた笑いの那覇さん。
「守くん、マジックバッグはねー、守くんのスキルを小さくして鞄にしたものよー。大きいものだと6畳の部屋くらいあるのよー」
瀬奈さんがこそっと教えてくれる。ありがとう。無知でサーセン。
「そんな便利なものが……智に持たせたいけどお高そうだな」
「そーねー、押し入れくらいの大きさでも1000万近いわねー」
「それくらいで買えちゃうんだ。2,3個欲しいな」
「守くーん、1000万円は大金よー?」
瀬奈さんが困った笑顔だ。俺の金銭感覚もおかしくなってるな。よし、瀬奈さんの手を握って誤魔化そう。にっこり笑顔になったので、ヨシ。
「スパイダーシルクで下着と肌着か。贅沢だとは思うが」
「スパイダーシルクの特性で長持ちするので、トータルで考えると逆に安く済むかと」
「なるほど、そう考えると高くもないのか……」
「ハンター向けの商品なので、上野様の商会でも取り扱い可能かと」
「あら、わたくしも噛ませていただいてよろしいので?」
「当ギルドとしてはできるだけ取引相手は絞りたいので」
「一度に出されるとうちのスポンサーが困るな」
「黄金騎士団のスポンサー様のところで製作をお願いはできませんか?」
「できるとは思うよ」
「そうすると、売値が多少上がってしまいますわ」
「購入するのはハンターでもそれなりに稼いでいる層だと思うので、価格よりも実用性をとると予想しております」
「確かに。わたくしも欲しいと思いますもの」
「素材の一部を流して別製品にしていただくとか」
「ふむ、それならスポンサーの顔も立つか」
那覇さんと京香さんとビッチさんが話を詰めている。すごいなぁ。俺には無理だ。
「ハイハイハイ! おいくら万円払えばわたしにも作ってもらえる?」
「アタシも欲しいぞ」
「わたくしも購入したいですわ」
那覇さんの奥様方が騒ぎ出した。そりゃそうだ。良さげなものなら欲しいよね。
「「「ウェディングドレス!」」」
3人がハモった。そっちかよ。
「ねーすぐるー。ビューティもだけどそちらの奥さんも妊婦さんじゃーん。わたしらそろそろ適齢期も終わりなんだけどー?」
「わたくし、子供は最低でもふたりは欲しいですわ」
「アタシらはもう子作りする歳だろよ」
「「「すぐる!」」」
「ははは、そ、そうだね」
3人に詰め寄られて那覇さんは冷や汗だ。通称ハーレム法が施行されたけど、俺が見てる範囲では、ぎくしゃくしたハーレムはない感じ。もちろん殺伐としたハーレムもあるだろうけど。
幸せをシェアできたらみな幸せ。
「あ、守君、私も妊娠いたしました」
この空気なら、という感じで満面の笑みを浮かべた京香さんがカミングアウトする。うん、知ってた。「ありがとう」とぎゅーする。
「うわ、うらやま!」
「すぐる?」
「スグル、帰りに子作りすっぞ!」
「わ、わかったから、人前で迫らなくても……」
那覇さんの退路は閉ざされた。合掌。
「じゃー、クイーンシルクでウエデングドレスを作るのは、獄楽寺の3人、上野さん、黄金騎士団の3人にしましょうー」
「そうですわね、キリがありませんし」
「やったー」
「ふふ、強請ってみるものですね」
「ッしゃー!」
女性陣で話がまとまってしまった。
「那覇様、このようになりましたので、先ほどのポーションの取引について詰めたいと思います」
「あ、あぁ、すまない、怒涛の展開に圧倒されてしまって、目的を忘れるところだった。ポーション300本を購入したくってね」
「それは、定期的に、でしょうか?」
「いや、都度だね。たぶん3か月に1回くらいだと思う」
「それならば上野様の商会に影響はなさそうですね。承知いたしました」
こっちの話もケリがついた。毎月とかではなく、都度取引でポーション300本を売買することに決まった。まぁそれくらいなら問題ないって感じ。ただ、極秘でという約束はさせてもらった。他からも売れって言われると面倒だし。
那覇さんとがっしり握手だ。
「これは賄賂よー」
「頑張りましょう、お互い」
瀬奈さんと京香さんがこっそり性欲ポーションを宮古さん石垣さん与那国さんに渡していた。こちらもがっしり握手してたのは見なかったことにしておこう。




