20.池袋ダンジョン⑤
「アチチチチ!」
「ウォォォォ!?」
「ぎゃぁぁ!」
「グアア!」
作務衣が焦げちゃったぞ!
3人の男は爆発の余波で倒れてる。俺が悪いのかな、さーせん。
「帰りはどうすんだよ! まったく、虫って火が苦手なんじゃないの!?」
怒ってごまかそう。けつの穴の小さい男ですまん。
「くっ、このままだと共倒れだな」
ビーム男が立ち上がった。ちょっとふらついてるので限界が近いのかも。
「君、俺のスキルは一回使うとクールタイムが5分必要だ。失敗したら次はないぞ」
「ありがとうございます!」
協力してもらえそうだ。
「タイミングは任せます」
俺はじりじり横に動いてビーム男の射線から外れていくと同時に金剛杖を振り上げてアラグネの注目を集めておく。ビニール傘だとリーチが短い。
じりじり移動する。1秒が1時間くらいに感じる。
視界の端にいるビーム男がアラグネに剣を向けた。と同時に俺は全力の【師走】で駆けた。
アラグネの頭をビームが貫くが、アラグネは俺に向かって黒い毒液を吐く。ただ、ビームのおかげでコンマ数秒動きが止まった。
あざっす!
「とどけぇぇ!」
黒い毒液をもろに浴びながらも腕を伸ばして金剛杖を突きだす。激しい痛みと、腕に伝わる突き刺した感触。
勝ったぜ。
即収納。
【収納:クイーンアラグネ×1】
「イデデデデデ!」
毒液がかかった個所が焼けるように痛い!
「ポーションポーション! ってイダイイイイ!」
ポーションを飲んでも激痛は変わらず、治った瞬間にまた毒に侵されてるっぽい。
解毒が必要か。さくっと経験値にする。
【クイーンシルク×1】
【クイーンアラグネの魔石×1】
うおおおおぃ、解毒剤じゃないんかい!
「イデデデ!」
痛みをごまかすために地面を転がりながら考える。でもイテェェェ!!
解毒解毒。なんかないか!
あった、【キュア】の魔法だ。瀬奈さんに覚えさせられてた!
ありがとう瀬奈さん愛してる!
「【キュア】!」
魔法を使ったら痛みがまったくなくなった。転がるのをやめて体を見たら、作務衣もボロボロで皮膚がただれてた。でも生きてる。
ポーションを飲めば皮膚も元通り!
作務衣は戻らないけどさ。
「はぁ、ひどい目にあった」
立ち上がると、眼前にはビーム男。呆れた顔で俺を見てる。よく見ると爽やかイケメンだ。顔が汚れててもイケメンは隠せないんだな。
「無謀だが、助かったよ」
右手を出してきたのでぐっと握手する。
「無事に帰るまでが救助なんで、まぁちょっとあそこで休憩しましょう」
残った蜘蛛は、まさに蜘蛛の子を散らすように消えていた。
駆け込み寺で休憩をする。倒れていた人らはみな毒消しとポーションで回復していた。無事だった3人もポーションを飲ませた。全員で15名。男10人女5人。羨ましい男女比率だ。
テーブルと椅子のセットを出して、収納に入れておいたお湯で顔とか拭いてもらって、缶珈琲とか紅茶か麦茶とかスポーツ飲料をドカドカ出しセルフで飲んでもらう。おやつ的にポテチとかサンドイッチとかおにぎりも出した。
みんな「なんでダンジョンでこんなまったりしてるんだ?」って納得いってない顔でもぐもぐ食べてる。納得してほしいなぁ。
「名乗ってなかったね。俺は黄金騎士団のリーダーで那覇英だ。救助、感謝する」
ビーム男改め那覇さんが丁寧に頭を下げた。見事な黒髪のイケメンで、対応も爽やかイケメンだ。イケメンじゃない俺も見習うべきだな。
「改めまして、獄楽寺ギルド、ギルド長の坂場守です。一応ハンターです」
と自己紹介したら、あの動画は本当なの?とかメイドさんがいるってマジ?とか、質問が多かった。墓場ダンジョンだってことよりもそっちかい。
「目の前のこれらと、毒消しにポーション、アラグネとの戦闘を見れば、あの動画は本当であると思うしかないだろ」
那覇さんが団員に言い含めてる。釈然としてない顔の人が多いけど。俺的にはどうでもよくって。
「ところで、スタンピードは鎮圧したと考えていいんですかね」
おにぎりをかじりながら確認する。今の時間はお昼を回ったところ。今から地上へ向かえば何とか夕方には寺に戻れるかも。
着替えは持ってきてるから着替えた。当然作務衣な。
「たぶんだけど。俺たちは数日前から15階に潜ってて、その帰りにアラグネと蜘蛛の集団に出くわしただけで、スタンピード鎮圧の任務を負ってるわけじゃなくってね」
「え、そうなんですか? じゃあ鎮圧失敗ってのは……」
「5階でそれらしき痕跡はあったけど、遺体は置いてくるしかなかった」
那覇産さんの顔が暗くなる。彼らの荷物は大きくて、武器もあれば余裕はないだろうな。
そうか、鎮圧に向かったハンターは壊滅したのか。
「……じゃあ、ここで止められなかったらもっと上まで行ってたってことですかね」
「俺たちの準備が万端だったらアラグネも狩れたろうけど、ポーションも毒消しもほぼ使い切ってる状態で遭遇してしまってね」
「俺が来た甲斐はあるってことか……いいんだか悪いんだか」
「少なくと俺たちは助かったさ。あのままでは全滅していたかもしれないしね」
イケメンが紅茶を飲みながらそんなことを言う。軽く全滅とか言えちゃうのは、ハンターとしての時間が長いからだろうか。覚悟が決まっているというか。見習うべきところなんだろうけど、俺は生きて帰りたい。
「そういえば、さっきのビームって、スキルなんでしたっけ。すごいですね」
「あぁ、俺のユニークスキルでね、まぁレーザーみたいなものさ」
「レーザー! ファンタジーみたいなダンジョンでレーザー! 目からビームとかできそうですね」
「はは、やったことがあるけど、目が潰れそうに眩しかっただけさ」
やったことがあったのか。
「はいシツモーン。守くんはユニークスキル持ちでしょ?ってことは奥さんが3人いるわけで、噂だとひとりは高校生だって聞いたんだけど?」
みなを救護して回ってた立ってた女性がぶっこんできた。興味津々って感じで俺を見てる。
「ユニークスキル持ちは確かですが、相手に関しては個人情報なのでそれは内緒です。那覇さんもユニークスキル持ちだから3人いるんですよね?」
「あぁいるとも、彼女と彼女と彼女だ」
「はい」
「はーい」
「オウ」
女性が3人手を挙げた。そのうちひとりは質問をぶつけてきた人だ。3人ともハンターなんだね。ってビッチさんのとこもそうか。考えてみれば俺もそうだな。
「さて、十分休んだことだし、そろそろ戻るとするか」
那覇さんが号令をかけると全員が立ち上がる。現在時刻は13時。間に合うかなー。




