17.5階へ①
10月に入り、ちょっとだけ涼しくなった気がする。秋も近いな。暦の上では秋だけど。
檀家さんからいただく菓子もおはぎから団子に代わってきた。草団子とか最高だぞ。スタンダードにあんこもいいけど黄な粉をまぶしてもトベる。うめぇ!
隣家の敷地ではアパートというか寮を建て始めた。2×4で出来上がったブロックをくみ上げていく工法らしい。母屋とつなぐ廊下に今ある隣家ともつなぐ廊下を含めても年内に完成だとか。ちょっと前に話があったはずなのに速すぎませんか?
あ、頼んだ工務店が同級生のところだ。そうですかそうですか。いろいろばれたなコレ。
で、そろそろ5階以降を目指そうかと思ってる。
いくつか思惑もあって。
まず、ギルドとしての売りを増やしたい。
うちのダンジョンからはレアなものが入手できるけど種類が少ないし危険な魔法もある。まぁポーションだけでも結構な売り上げなんだけど、智が卒業した後に四街道ちゃんと柏ちゃんを雇うと考えると金策は早めに動いたほうがいい、と京香さんに言われてるものある。それにギルド員の補充もあるし。
次に、俺のレベルが上がらなくなってるってのがある。毎日のようにスタンピードが起きてても弱い魔物だから得られる経験値も少ないって零士さんに言われた。
現在のレベルは21。守りたいものを守るためにも、強くなるべきだ
10月最初の土曜日。朝の掃除をしてあらかた片づけたダンジョン前に集合する。
面子は俺、智、零士さんだ。ショタ零士君ではなく武者幽鬼零士さんだ。
「無理は禁物よー」
「帰宅までがダンジョン探索です」
マタニティ服の瀬奈さんとメイド服の京香さんに見送られてダンジョンに入る。なお、零士さんはハンター証を持っていないのでゲートは飛び越える。
「朝に掃除をしたんだけどなー」
1階にはすでにゴブリン骨が数体ウロウロしている。大量ではないけどさっさと掃除しよう。
「時間がもったいないからあたしがやっちゃうね。大いなる祈り!」
手加減なしの智によってゴブリン骨は成仏した。完全にオーバーキルだべ。骨にキルとかイミフだけど。
「さーどんどん行こう!」
やる気の智により、4階のワイト君も瞬殺された。目の前には下りの階段。
「今までと違って螺旋階段になってる」
今まではまっすぐな階段で、少しだけど下が見れたはずが全く様子が掴めない。なんとなく不安になる。
先が不透明な物事はやはり不安と闘いながら進めていくことが多い。ゴールがわからないから余計にね。
「ここにいても始まらん。俺が先に降りよう」
零士さんがのしのし降りていく。後ろから襲われることはないだろうから智を最後尾にして俺が後に続く。階段も人工的な石ではなく、削ったように荒々しい岩だ。もちろん壁も。4階からの光でかろうじて見える程度の暗さだ。ここから先は気をつけな、と警告された気分だ。
「ヒンヤリするね」
螺旋階段を降りていくと背中から智のつぶやき。確かに少し涼しい。ただ、湿気がある不快な涼しさだ。
「なるほど、こうきたか」
先に降りた零士さんの声が聞こえる。先が明るくなってるけど妙に赤い。炎の灯りというかそんな感じ。
「なんだろう、気になる」
「行けばわかるって。ほら行こう!」
智に背中をポンと押された。
5階は、くり抜かれた洞窟のようだった。階段を降りた場所から洞窟が始まってる。車が3台並べそうな広い通路が延びてて、そこからいくつもの横道が見えた。壁には松明が燃え盛ってて明るいけど影も多そう。
「墓地で洞窟とくれば地下墓地、それも集団だろう」
すでに大蛇丸を取り出してた零士さんが洞窟を睨んでる。油断してないのはさすがだ。見習わないと。
「歴史の授業で聞いたことがあるような。キリスト教の集団墓地だったかな」
俺もビニール傘を取り出す。網は攻撃、傘は防御。知らない場所はまず防御でしょ。
「ダンジョンに傘って、しまらないわね」
「そーゆー智は素手じゃん」
「残念、お義父さんに貰った数珠を持ってきたモーン」
智は数珠を見せてきた。いつの間に。しかも金剛菩提樹の実のガチな奴だ。父さん、智に何をさせる気だよ。
「それはともかく、撮影は任せるよ」
「もちろん!」
智にカメラを渡す。どんな魔物が出るのかの調査も兼ねてる。調べていけば傾向とかわかるかも知らないからね。京香さんの指示だけど。
「まずは通路をまっすぐ行って広さの確認だな」
零士さんを先頭に歩き始める。横の通路は3メートルほどで、その間隔はおおよそ10メートルと結構厚い壁がある。横道の両脇には空洞がいくつも並んでて、本来であればあそこに遺体が安置されるんだろう。通路からだと影になってて中はわからない。いないで欲しけど墓地だし、いるよね。
なんて横道を眺めてたらすーっと壁から白い何かが出てきた。炎のように揺らめく白い何かだ。
「チッ、レイスだ」
零士さんが大蛇丸を構えた。俺も傘を広げて向けたとたん。
【収納:魔法フィアー×1】
魔法かよ!
「いやぁぁぁぁ!!」
智の悲鳴が響く。振り返れば頭を抱えてへたり込む智の姿。
「やだ、やだ、いやぁ!」
「【フィアー】にかかってる。5分で切れる、おとなしくさせとけ!」
零士さんがレイスに向かって大蛇丸を振るうと闘刃が飛び出し、レイスを両断した。俺はうずくまったまま泣き叫んでる智を抱きしめる。
「やだ、いやだぁぁ!」
「大丈夫、大丈夫だから」
智は何かが怖くて泣いているようで、なだめても聞く耳を持たない感じだ。
「【フィアー】は恐怖を見せて恐慌状態に陥らせる魔法だ。行動不能になった相手に憑りついて操るんだ」
零士さんが周囲を警戒しながら教えてくれた。
「操るって、めっちゃ質悪いんですけど」
「レイスは悪霊系の魔物だ。精神攻撃で人を害してくる。レイス1体でパーティが全滅ってのも良くある話だ」
「仲間が操られて、でも仲間だから攻撃をためらってって感じですか?」
「その通りだ。ハンターとして共に戦ってる期間が長いほど、ためらいも大きい」
「最低な魔物ですね」
もし智が襲ってきたとき、俺にチートなスキルがなかったら、止めるすべはないんだよな。
まじレイス許すまじ。




