15.アイアンビッチ襲来とギルド独立③
「はあ、疲れたね」
俺は何もしてないけどさ。同じ空間にいるだけでも疲れることってあるよね。
「私も疲れましたので甘えます。むぎゅ」
「オーヨシヨシ。京香さんはがんばりました」
座ってる俺の背中から抱き着いてきたので手をヨシヨシと撫でる。小さい手だけど頼りになるおててだ。
「守くーん、ビッチさんが来て話が途中で途切れちゃったけど、まだ話はあるのよー」
「あ、そういえばギルドについて話をしようとしたらビッチさんが来たんだっけ」
瀬奈さんに言われて思い出した。
「そうなのよねー。で、話ってのは、そもそもわたしたちはまだ船橋ギルド所属だから、それも辞めて正式にここのギルド員になろうって話。いままでは船橋経由でドロップ品を売ってたからつながりがあった方が良いなって思って船橋に籍を置いてたけど、それも無用になるしねー」
「大多喜先輩との伝手は健在なので無問題」
「そういえば、ふたりはあくまで派遣なんだっけ」
そういや給料も払ってないんだった!
「なので、今後はわたしたちの給料が発生するのねー」
「船橋より少なくても可」
「そんな、俺はそんな甲斐性なしじゃないですよ! 船橋以上はばっちりお支払いいたしますので何卒よろしくお願いしたく!」
お嫁さんとか別にしてこのふたりのお仕事能力は簡単にはゲットできないって。言い値で払いたいレベルだよ。
「えへへー。あとねー、わたしが産休に入った場合とか京香ちゃんが体調不良できついときとか色々考えられるんだけど、交代要員のギルド員が欲しいなーって」
「それも増員しましょう。って簡単に言っちゃいますけど、俺に当てはないですごめんなさい」
カッコつけても意味はないから素直に謝る。
「それねー。船橋のギルド員はちょっとねー」
「私も反対」
「ふたりが嫌なことはしません。うーん、ギルド員とか、ハローワークで募集すれば来ますかねぇ」
親類はちょっと避けたいよね。何かあって揉めると拗れるんだ。お葬式とかでたまに見るけど、もう酷いもんさ。
「ムズカシーと思うわー」
「ハンターの仕事に理解がある人が望ましい。できれば男性」
「それねー」
「それは確かに。いまの男女比率は偏り過ぎてますしね」
男は俺と父さんと、一応零士さんだ。女性はと言うと大人ふたりに高校生3人に、おそらくだけど4人の面倒も見ないといけないわけで。
男なら母屋に住んでもいいし、なんなら新しく建てる家を寮みたいにしてもいいんだよな。食堂は共通にしてあとはプライベート重視な感じで。
「あ、わたしと京香ちゃんと智は守くんと一緒に住むからねー?」
「次は私の番」
「ア、ハイ」
うん、大家の部屋もある寮になりそうだ。防音設備だけは完ぺきにしておこう。俺の煩悩が暴走する未来しか見えない。
可愛い奥様3人と生活するんだぞ? そりゃ狼にもなるさ! がおー!
「実は、市船卒業生から引っ張れないかなーって考え中なのよねー」
「私の様にハンターに向かないスキルを得た場合ギルドに就職することが多い」
「なるほど。それはありかも。智と仲が良ければなお助かるかな。後で智に相談してみよっと」
いい人材(男子)がいればいいな。
ビッチさんが襲撃してきた数日後、船橋ギルドを退職届を出しに行った瀬奈さんが疲れた顔で帰ってきた。
「はー、もう疲れちゃったわよー」
貰ったであろう花束をちゃぶ台に置いた瀬奈さんは畳に寝転んだ。ワンピースのスカートが盛大にめくれててピンクのパンツがコンニチハしてるけど気がついていない。智も帰ってきてて、瀬奈さんの変わりようにびっくりしてる。
「わたしがマタニティマークつけてるのを見たお局がさー、想像妊娠?とか言ってきてさー。もーバカじゃないのー?って。縁故入社だからまだ残ってるんだけどいつまでいるつもりなのよって!」
瀬奈さんの愚痴が止まらない。
船橋ダンジョンは、ハイエナの駆逐やハンターの力を犯罪に行使したとして結構な数のハンターとそれに協力したギルド職員が逮捕されている。
あのお局はコネで入ってきて仕事もしないで男漁りばかりの問題児らしい。ギルドは総務省の外郭団体で半公務員扱いなので楽ができるはずだと入ったらしく、ろくに仕事をしないんだとか。だめじゃん。
お局さんはコネをフル活用したのかまだいるようだ。もしくはそんな犯罪に巻き込むほど賢くなく、奴らにはスルーされていたのかもしれない。
「失礼しちゃうわよー」
だいぶイラついてる様子なので調理の手を止めて瀬奈さんの脇に正座する。
「あの変な化粧おばさんに絡まれたんですか?」
頭をなでこなでこする。理屈はわからないけどこうすると落ち着くんだよね。
「そーなのよー!」
「困りますね、あーゆー人は」
「それでね、守くんをバカにするんだよー! 本当にユニークスキルを持ってるのー?って。あったま来ちゃってさー! もーーーー!」
瀬奈さんが足をバタバタさせてる。
「わたしはいーの! どうせ汚れてるし! でも守くんを悪く言うのはゆるせなーい!」
「瀬奈先輩はストレスが限界になるとこうなる。普段は酒で散らしてる。でも妊娠が分かってからは酒を断ってる」
あー、お怒りの原因は俺への不当な評価なのね。俺なんてどう評価されてもいいんだけどな。
でも、怒ってくれるのは素直に嬉しい。
「大変な役目をしてもらってごめんね」
瀬奈さんを起こしてぎゅっと抱きしめる。ブラとワンピース越しでもおっぱいのボリュームが凄い。こんなおっぱいをイジメるなんて、仏様は許さんぞ。
「もうそんな奴に会う必要もないから、大丈夫ですよ」
「わー、守くんが王子様だー、だいすきー」
うーん、ちょっと幼児退行しちゃってるかな。それくらいのストレスだったのか。
「王子様からご褒美をあげましょうかね」
「守くんと一緒にお風呂に入るー!」
「じゃー一緒に入りましょうねー」
「わーい、ごしごし頭を洗ってお世話しちゃうぞー」
瀬奈さんの声に張りが出てきた。いい傾向だ。
京香さんと智には任せてとサインを送る。「日を決めてお風呂当番を決めるべき」なんて京香さんが口走ってるけど、聞こえなかったことにしておこう。明日朝には予定表が張り出されてる予感もするけど。
「めんどくさい女でごめんねー」
瀬奈さんが頭をぐりぐりこすりつけてくる。マーキングかな?
「大好きな瀬奈さんだからばっちこーいですよ」
「やったー、あまえちゃうぞー!」
ぶちゅーという感じでキスされた。後は、察してほしい。
なお、翌朝には『守君当番表』なるものが張り出されており、週一で俺と一緒にお風呂やら就寝やらするらしい。俺に選択権はない。
でも3人がはにかんでるので、それでいいや。




