15.アイアンビッチ襲来とギルド独立②
ちょっと長いです
「わたくし、上野 蝶と申しますわ」
アイアンビッチこと上野さんが襲撃してきた。今日はお供の信号機がおらず、単独犯だ。
長い黒髪で日本女性的な清楚な雰囲気を漂わせてるけど、コスチュームと肉体が破廉恥なんだよな。
追い返すわけにもいかず、母屋に入れた。対応するのは俺、瀬奈さん、京香さんだ。父さんは幼稚園の用事と言うことで席を外してもらった。
「坂場守です。先日はどうも」
頭の中にこの人の裸がフラッシュバックする。見えちゃいけないものも見ちゃってるし。
「守君の嫁で当ギルドの事務担当の小湊京香です」
「同じく嫁で渉外担当の勝浦瀬奈よ」
ふたりとも警戒を隠さない。そりゃそうだ。日本で10人しかいないユニークスキル持ちだし、目的が分からないもん。
「本日はどのような用件でしょうか?」
うちは京香さんがメインで対応するよう。俺にはまだ無理だ。
「大した用事ではありませんわ。北浦ダンジョンで貴方が放った魔法でわたくしのコスチュームがボロボロになりました。服の代金弁償なさって?」
あーあれか。
俺のファイヤーボールがなくてもびりびりになってた気がするけど。
「俺の魔法がなくっても服はびりびりじゃなかったです?」
「多少の痛みと粘液のべたつきはあったでしょうけど、全裸になるまでズタズタになることはなかったはずですわ!」
アイアンビッチさんがオコだ。
「守くん、全裸にしちゃったの?」
「カエルの大群の中に橋頭堡を作るためにファイヤーボールを20発くらい撃ち込んだらその近くにいたっぽいんですよ」
「あらーさすがはアイアンビッチねー」
「ビッチじゃありませんことよ! 淑女ですわ!」
ビッチさん、バシバシとちゃぶ台を叩かないでください。
「……ちなみにおいくら万円ですか?」
「そうね、30万円ってところかしら」
たっか! でもこれで手が切れるともえば安いかも。
「……確か、ビッチ様の実家はダンジョン関係の商社だったかと」
京香さんが割って入ってきた。
「失礼ね、淑女よ! そうね、わたくしの実家は大きくはないけどダンジョン産のアイテムを扱ってるわね」
「なるほど。少々込み入った話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「なにかしら? くだらないことでしたら承知いたしませんわよ?」
ビッチさんはフンスと腕を組んだ。おっきなおっぱいが乗っかっております。京香さんの顔が険しくなってる。眉間に指をあててほぐしてあげよう。
「実はこのようなものがあります」
京香さんがちゃぶ台の上に小さなポーションを置いた。知ってる、性欲ポーションだ。俺が飲まされて暴走した奴だ。でも後悔はしてないぞ。
「これがどうかして?」
「ジャイアントトードのレアドロップ品である性欲ポーションです」
ビッチさんの眉がピクっと動いた。
「北浦のスタンピードの際に守君が手に入れたものです」
「そ、それがどうかして?」
ビッチさんがそわそわし始めた。
「私の隣にいる勝浦はそれを使用して、いま妊娠しております」
「うふふ」
「そそそそれがどうかしまして?」
ビッチさんが明らかに動揺し始めた。
京香さんは性欲ポーションをまた取り出し、計4本をちゃぶ台に載せた。
「ひと瓶で卵子ひとつを活性化させます。そしてこれが4本あります」
「お願いします、わたくしにそれを売ってくださいまし!」
ビッチさんが土下座した。
「あの3人は、わたくしが小娘の頃からの付き合いでして。辛いときは励ましてくれるなど、いまでは彼らなしでの生活が考えられない存在ですの」
ビッチさんが語り始めた。あの3人とは信号機の3人のことだろう。
「ハンターになって運よくユニークスキルを手にいれ、わたくしは順風でした。ですがわたくしももう27歳。人生の伴侶を決めなければいけない年齢になっていました。幸運なことに、あの3人はいずれもわたくしに想いを寄せてくれています。あの3人から選べるというなんとも贅沢な身分ですが、逆に言えば選ばなければなりませんでした」
ビッチさんはずっと性欲ポーションを見つめてる。
「先般、法律が改正され、わたくしは伴侶を3人までもつことが可能になりました。もちろん、あの3人を選びました。これで3人から選ばなくても済むと安堵したのですが、別な問題が立ちはだかりました。最初に誰の子を身ごもるかですわ」
ビッチさんが悲しそうな顔になる。
「わたくしが身ごもれるのは3人の内の誰かの子。次の子を身ごもれるのは早くて1年後。3人の子をなすならば最低でも3年はかかってしまいます。また、身ごもってしまえば半年はハンターとして活動できません。つまり、収入が減ること。これでは生活を安定させることなどできません。ですが、このポーションがあれば話は別です。あの子たちの子を一度に身ごもることも可能です」
ビッチさんはもう一度土下座した。
「どうか、どうかわたくしにチャンスくだしまし!」
「お直りください。こちらも条件があります。守君にも関係があるので聞いてください」
京香さんが顔を向けてくる。大事な話のようだ。
「実は、いままではダンジョンで手に入れたアイテムに関しては船橋ギルドを通して売っていました。これは、レアアイテムが沢山入手可能な当ダンジョンを隠すためでした」
「その言い方ですと、ここにダンジョンがあるというふうに聞こえますけど?」
「数か月前ですが、ここに墓地ダンジョンが発生しており、ギルドを開設して守君がギルド管理者になっています」
「……そういえば日本で初めての墓地ダンジョンの話を聞きましたけど、ここだったのですね」
「ご理解が速くて助かります。ここは小さな寺ですので、たくさんの無法者が押し寄せても困ります。守君との楽しい生活を邪魔されてもイラつくだけです」
おっと、京香さんもぶっちゃけるな。まぁその通りなんだけどさ。こんな田舎に素行の悪いヤツらが来られても迷惑なんだよね。
「なるほど、そこでわたくしの父の会社を通せないか、ということですわね?」
「ビッチさんは相当賢いのですね」
「賢いのは嗜みとして。ビッチではなく淑女ですわ!」
ビッチさん、ちゃぶ台を叩かないでいただきたく。
「ですけど、あくまで企業ですわ。利益が見込めない相手とは取引はできませんことよ?」
「このリストを見てからそう言えるのならば信頼もありますが?」
京香さんが挑発的だ。表情を変えずに言葉で殴り合う。ぞくぞくしてくる。京香さん大好きだぜ。
【収納:魔法書『ファイヤーボール』×14】
【収納:魔法書『カース』×30】
【収納:なまくらの剣×たくさん】
【収納:ポーション×1530】
【収納:マッスルポーション×32】
【収納:硬い棍棒×たくさん】
【収納:妖刀『羅刹』×1】
【収納:スキル書『闘刃』×1】
【収納:スキル書『大闘刃』×1】
【収納:スキル書『侍大将』×1】
【収納:恨みの刃×13】
【収納:解毒ポーション×954】
【収納:性欲ポーション×217】
【収納:キングトードの肉10キロ×5】
どうやら門外不出のものも見せはするようだ。零士くん関係のブツは売るつもりない。できればカースも確保はしておきたい。
「ななななんですのこれ!? 魔法書にマッスルポーションに性欲ポーションがこれほどありますの?」
「売るつもりのないものもありますが、弊ダンジョンで入手できるものです」
むふーと京香さんの鼻息が荒い。
そうなんだよね、北浦のスタンピードでジャイアントトードが大量に沸いた関係で、うちのダンジョンにその骨バージョンが大量に沸いて、俺が収納すると確実に性欲ポーションがゲットできちゃうんだよ。しかもキングトードの骨も出てきてちゃんと超高級肉をくれるんだ。骨なのにね。
「量はなくとも定期的に入手できる環境ですのね」
「量を出してしまうと市場も混乱するかと」
「そうですわね。プレミアム感が持続する数が理想ですわ。にしてもポーションの安定供給はハンターにとって死活問題……月に数百本はインパクトがありますわ」
「この話が無くなれば、オークションに流すことになります」
「なんてことを! 無法者たちに餌を与えるだけですわ! それをわざと教えるなんて、はめましたわね! き、汚いですわ!」
京香さんはこたえずにニッコリ笑顔だ。
「京香さん、オークションって何ですか?」
こっそり京香さんに耳打ちする。
「ギルドが主催するオークションのことで、出所を隠したいものなどが出されることが多いです」
「それって合法なの?」
「限りなく黒に近いまっ黒です」
「だめじゃん」
それは避けたいなぁ。どんなのが出品されるのか気になるけどさ。
ふとビッチさんを見れば、まだ悩んでいるようだ。
「……落ち着きましょうわたくし。この量があるならば会社の利益も、いえそれよりも知名度が……ちょっと、もしやこの量と同等の魔石もありまして!?」
「ドロップ品があるならば当然」
「ですわよね……お金に困っているわけではありませんわよね」
はぁとため息をついたビッチさんはすっかり脱力してしまった。
「わかりました、父に掛け合ってみますわ」
「ありがとうございます。これはお近づきのしるしとして差し上げます」
京香さんはテーブルの上の性欲ポーションをずずっとビッチさんへ押しやる。
「あ、貴女、正気でして!? これがいくらだと思って!?」
「万全を期すために」
「賄賂……クッ、どこまでも汚いですわね!」
「守君のためなら泥をかぶるのは吝かではありません。貴女もそうでしょう?」
首を傾げてほほ笑む京香さんの指摘にビッチさんは唇をかんだ。勝負ありの様子。
「数日、時間をちょうだい」
ビッチさんは性欲ポーションを大事に大事に鞄にしまい、寺を後にした。




