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うちの寺の墓地にダンジョンができたので大変です  作者: 海水


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14.船橋騒乱②

 ダンジョン入ってすぐの空間には割と年嵩のハンターたちが屯している。煙草をくわえてたり目つきが鋭すぎたりと、佐倉が知っているハンター像からは逸脱している、ガラの悪そうな大人たちしかいない。


「チッ、ガキか」

「レアが出るって聞いたから来たけどよー、ポーションすらもでてこねー」

「ギルドの売り上げにはポーションやら魔法書やらレアものが出てくるんだがなぁ」

「ここで張ってりゃそのうちカモが来るさ」


 佐倉たちも睨まれ、非常に居心地が悪い。


「ちょっと怖いね」

「早く行こうよ」


 誰からともなくそんな声が聞こえる。


「葉子、もう撮影しておこう」

「ダネ。なんか空気ワル」


 佐倉の提案に柏はリュックからカメラを取り出した。クロスボウでのサポート役の柏が一番撮影に向いているからだ。現在、一番レベルの低いポニーの4人でもレベル6になっており船橋ダンジョン1階ではほぼ危険はなくなっているので柏が暇になっているというのもあった。


『あいつらはハイエナだな。レアなアイテムを持って帰ってくるハンターを襲うクソどもだ。俺が生きてる時もあんな奴らはいたが、それでもごく少数だったしすぐに捕まえて()()したんだがな』


 四街道の胸ポケに収まっている零士がつぶやいた。両手をポケットからだらりとぶら下げて小さな武者人形のふりをしている。


「師匠、そんな奴らがいるんですか?」


 四街道が小声で問う。零士の存在は、まだポニーたちには明かしていない。秘密が漏れる経路は少ないほうがいい。


『自分たちで魔物を倒してアイテムを手に入れるよりもハンターを襲うほうが楽と考えるバカは多い。特にギルドにコネを持ってるやつらほどその傾向がヒドイな。お前はそうなるんじゃないぞ』

「うわ、サイテー。そこまで堕ちたくないですー」

『そうならんように鍛えてやる』

「わーいうれしーなー」


 四街道がミニ零士の頭を指でなでる。


『四街道、首が折れる!』

「……美奈子、です」

『ぐ、美奈子、首が折れるっつーの!』

「はい、弟子の美奈子は優しくなでなでします」

『なんなんだったく』


 そんな会話をしていれば、遠くにゴブリンを見つけた。緑の餓鬼が3体、草原で突っ立っている。


「ゴブリン3。誰が行く?」

「わたしがいくー!」

「ちょっ足立、単独は危ないって!」


 佐倉が問えばポニーテールの足立が剣を構えて走っていき、慌てて渋谷が追いかける。


「あれは怒られっゾ」


 カメラで録画し続けている柏がつぶやいた。余裕をかましすぎた足立は勝浦からお尻ペンペンされるだろう。たとえ1階であろうとも油断は禁物だし、チームワークを乱している。

 ゴブリン3体を蹴散らしたふたりが帰ってくる。


「んー、もの足りないなー」

「ゴブリンだと相手にならないからねー」

「油断しすぎー」

「ソウダゾー」

「ん、あいつらなに?」


 遠くから集団が歩いてくるのが見える。若い男ばかりでその中には美浦や鹿島の姿もある。20人以上いる、異様な集団だ。


「みんな、上に戻るよ」

「おっと、そんなに慌ててどこに行くのかなー?」


 危険を感じた佐倉は撤退を考えるも男たちは広がって退路を断ってきた。ポニーの4人は「ひぃぃ」と短い悲鳴を上げた。ゴブリンよりも人間のほうがよほど怖い。

 柏はカメラを回し続け、四街道は剣の柄に手をかけている。


「俺たちとあそぼーぜー」


 体を傾けた、いかにもな金髪男の利根が前に出てきた。世をなめ腐ったような顔だ。


「あたしたちはもう戻るんで」

「そんなつれねーこと言わねーでよー」

「優しくしてやるぜー?」

「結構です」


 佐倉の目つきが鋭くなる。この手の奴は大嫌いだ。


「おっとおかしなことを考えないほうがいいぞ。こっちはこの人数だからな」


 利根がわざとらしく仲間を見渡す。男たちはニヤつきを隠さない。


「ハンター同士のもめごとはご法度なはずでは?」

「ははは、そんなのは表ざたになったら、だろ?」

「ぎゃははは!」

「俺ってばここの()()()()には顔が利くんだよ」


 男たちはわざと剣をちらつかせ威圧してくる。暴力もいとわないということだ。

 ハンター同志の諍いはご法度だがそれは表ざたになればの話。闇に葬られれば誰にも知られない。


「どどどうするの佐倉」

「ひぇぇ……」


 怯える子羊(ポニー)たち。佐倉は男たちの立ち姿を観察する。

 重心が偏ってるとか、まともに立ててるやつがいないじゃない。美奈のほうがよっぽどかっこよく立ってるし。

 レベルはわからないが大した実力はないと看破した。魔法(カース)もあるしやれないことはないがハンター同士の諍いはさすがに避けたい。


「佐倉、お前あの男に騙されてるぞ!」


 突然、金髪の美浦が前に出てくる。ジャージではなく、革のライダースを着ていた。


「そうだぜ、あの坂場とかいうやつはユニークスキルなんて持ってねーぞ!」


 モヒカンの神栖が続く。言われた佐倉は「はぁ?」と呆れた声をだす。何を言ってるんだこいつは、という顔だ。


「あんたたち、守のスキルを見たことないくせによく言えるわね。しかもジャージを着なきゃいけない規定なのに守ってないし。ルールを守れないやつがいうことなんて信用ないでしょうが」


 佐倉が吠えるが、彼女らも本来いなければいけない先輩ハンターがいないのだがそこはスルーだ。


「だから、お前は騙されてんだって!」

「本人を見もしないで誰かの言葉を簡単に信じちゃうのが信じられないんだけど」

「まぁまぁ、美浦。コーユー女は体で思い知らせると素直になるんだ」

「へへ」

「最初っからこうすればいいんだよ」


 後ろに控えていた男たちが美浦を乱暴に押しのける。


「先輩、ちょっ」

「うるせーぞ美浦」

「うがっ」


 美浦が殴られて地面を転がった。佐倉の顔が不快にゆがむ。


「お前にはあとでくれてやるよ」

「俺らが輪姦(まわ)したあとだけどな」

「さーてお嬢さんがた、あそぼーぜー」

「げへっへ」

「うひひ」


 男たちが包囲を狭め始めた。「いやぁぁ」と太田が叫ぶと男たちは舌なめずりする。

 ブちぎれそうな佐倉が【カース】をぶっぱなしそうになった時、四街道の胸ポケにいる零士が「やれやれ」とため息をついた。


『まったくゲスすぎてみてらんねーな。美奈子、こいつらには俺がお仕置きしておくからお前らは上に戻っとけ』

「師匠!?」


 ミニ零士が四街道の胸ポケからぴょんと飛び出し草むらをかける。佐倉も気が付いたのか、【カース】を止めて様子見に入った。彼女にとってこれは修羅場ではなく、ちょっとしたトラブルでしかない。

 草に紛れて走る零士は、ちょうど2者の中間あたりで巨大化した。

 巨大化した零士はおおよそ3メートルほどの武者になる。般若の仮面をつけた武者幽鬼だ。


『がぁぁぁぁ!!』

「ま、魔物だ!」

「なんだこいつは!」

「ななななに!?」

「もういやぁぁ!」


 零士が吼えると男たちはわかりやすく動揺した。ポニーたちは泣きべそをかいている。それはそうだろう、いきなり3メートルの何かが出現したのだ。

 零士は後ろ手で「しっしっ」と追い払うようなしぐさをする。あっちいってろというサインだ。


『大蛇丸!』


 零士が叫ぶと彼の手に大太刀が現れた。両手で握り、さらに大きく見せるために上段に構える。


「智、いまのうち!」


 四街道が声を張ると佐倉はクラスメイトに振り返る。


「全員撤退! 出口まで走るよ!」

「ひぇぇぇ」

「あわわわわ!」

「あ、おいコラ待て!」

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