13.智ちゃんとデート①
2話にしたかったので少し長いです
今日は智ちゃんとデートだ。三日連続で違う女性とデートなんて刺されて当然な最低男なんだけどまかり通ってしまっているのが今の世の中だ。両手に花の男を見かけることもある。
「三日連続ですみませんがよろしくお願いします」
『おう、俺も暇だしな。ダンジョンは忘れて楽しんで来い!』
「お土産買ってきます!」
零士くんに留守中のダンジョン掃除をお願いしてるのが申し訳なくって。でも頼れる相手がいるってのは幸せだ。
零士くんも暇とは言いつつも、結構な頻度で四街道ちゃんが押しかけてきていつの間にか弟子になってたりするからその面倒を見てたりと、いいおじさんなんだ。パーティのリーダーをやってたくらいだし、面倒見がいいんだね。
ということで、向かう先は浦安にあるネズミの国だ。東京と名はついているが東京には存在しないあそこだ。
さすがに軽トラではと気を利かせた瀬奈さんによってレンタカーが手配されていた。ありがとうございます。
「行ったことがなくってすっごい楽しみー」
助手席の智ちゃんが期待をにじませた笑顔で見せてくれる。運転中でなければ写メで教典にしているレベルだ。
今日は白いミニスカートにスキーニーなTシャツでボディラインがまるわかりなうえに発育がよろしいので俺の煩悩もすでに暴走気味だ。連日暴走してるけど尽きることがないのが煩悩である。合掌。
「うわ、開園前でこの人なの?」
入場ゲート前にはすでに行列ができていた。今日は快晴で気温も高くすでに30℃を超えている。そんな酷暑の中、ふたりで行列の最後尾に並ぶ。ちなみにこの列はすでにチケットを持っている列であり、当日券の列はもっと大変なことになっていた。
「いろいろ持ってきてよかったかも」
収納の中には考えられるいろんなものが入ってる。タオル着替えとか飲料もだ。入れっぱなしで忘れてるかき氷の氷とかもあるのはご愛敬だ。
開園時間を過ぎると列も動き出す。ゲートを過ぎればそこは夢の国。しかも買い物ゾーンから始まる性悪、いや商魂たくましい構成。
「うぉぉおぉ!」
乙女らしからぬ雄たけびの智ちゃんはやっぱりショップに突撃する。お目当てはネズミの耳がついたカチューシャだった様子。当然俺の分もあるわけで。
「ペアルックの出来上がり!」
作務衣にネズミの耳とだいぶおかしな組み合わせだけど智ちゃんは満足そうな笑顔なのでヨシ。ちょろいな俺も。
気をよくした俺たちは智ちゃんが乗りたがってるスプラッシュマウンテンへと向かう。夏バージョンで『よりびしょぬれに』がコンセプトらしい。一番奥だけどハンターな俺たちは疲れもしないから人波を追い越していく。
「すでに50分待ちになってるー」
智ちゃんが「信じられない」って顔してる。開園してまだ40分ちょっとしかたっていないのに。
「プレミアムアクセスってやつで時間指定しようか」
「へー、そんなのあるんだ」
金で解決するならしてしまえ。智ちゃんの笑顔に勝るものはないんだし。
ちょいちょいとスマホアプリを操作して予約完了。その時間まで近くの軽食のお店でアイス他おやつを買う。
「暑いときにはアイスだよねー」
「ほんとそれ」
俺たちがのんびりアイスを食べてる間も行列は伸びていく。夏休みだからか子供同士で遊びに来ている姿が目立つ。
俺は友達とこんなところに遊びに来た記憶はないな。家事をやらなきゃいけなかったし。
そう思えば、今遊びに来れるのは幸せなことだよなぁ。
「これも智ちゃんのおかげだな」
隣でアイスのコーンをかじっている智ちゃんの頭をなでる。
「あによ突然」
「智ちゃんがいてよかったとしみじみ実感してるとこ」
「守おにーさんってナチュラルに口説くよね。あたしと先輩ふたり以外にそれやったら怒るからね?」
「……善処します、はい」
なんだか怒られた。不条理だ。
なんてことをしてれば予約の時間だ。予約用の入り口から入っていく。丸太を催したジェットコースタなわけだけど、運がいいんだか先頭だ。
ガタゴトと動き出して暗闇の中をあっちこっちにゆすられる。
「きゃぁぁぁぁ!!」
智ちゃんが悲鳴を上げてるけど満面の笑顔だ。俺はこっちを見ていたい。
ゆすられた挙句明るい空間に出るとそこからは滝つぼに真っ逆さまで。
「ひゃぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉ!!」
俺も叫んだ。
滝つぼに入る前に左右から水しぶきが飛んできてびしょぬれに。
「あはははは! つめたーーい! あははは!」
智ちゃんが壊れたように笑ってる。よほどツボに入ったのか。滝つぼには入ったけどさ。
髪までしっとりした状態で外に出た。暑さがちょうどいいくらいに感じる。
「んんん気持ちよかったー! 次行こ次!」
濡れた前髪をかき上げて二パッと笑う智ちゃん。来てよかったと思える瞬間だ。
スピード系のアトラクションを乗り継いでいけばそろそろお昼という時間になる。気温もぐんぐん上がってすでに35℃だ。
自販機で買ったことにして収納してあった飲料を飲む。
「あれ、あの子大丈夫かな」
智ちゃんが自販機の横で座り込んでる男の子を見つめてる。中学生かなってくらいの背丈だ。そばには同じくらいの年の女の子もしゃがんでる。デートなのかな。
「顔も真っ赤だし、熱中症じゃない?」
男の子の顔は確かに真っ赤だ。帽子もかぶってないし、可能性はある。
気が付いたら男の子のわきに膝をついてた。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫」
「ね、熱中症かも」
男の子は大丈夫と答えたけど女の子は不安げな顔で智ちゃんを見ている。
「まぁ大丈夫じゃなさそうだね」
額に手を当てればかなり熱い。男の子を人が少ない場所に連れていく。女の子は智ちゃんが連れてる。
「智ちゃん、事情聴取よろ」
「おっけー。ねえ君、今日は彼氏とデートなの?」
智ちゃんは女の子と話をしてる。
収納からバケツと水を取り出しバケツに注ぐ。男の子の手を入れて冷却だ。
「手のひらを冷やしてもダメなんじゃないの?」
「熱中症の対処も新しくなっててね、今は手のひらとかを冷やすといいんだ。寺の幼稚園でもそうしてる。氷もいらないからすぐにできるんだよ」
「はえー、そうなんだ」
タオルを出してバケツに入れて濡らす。絞らないで彼の首を覆い隠す。直射日光はあかんのよ。
「飲み物は飲めそうかい?」
男の子は小さくうなずく。オッケーそうだから智ちゃんに飲料を渡す。
「じゃカエデちゃんが飲ませてあげて」
「は、はい!」
智ちゃんが女の子にスポーツ飲料を渡す。この子はカエデちゃんと言うそうだ(智ちゃんの聞き取り)
夏休みも終わりそうなのでふたりでランドに遊びに来たとか。
「ケイタ、大丈夫? これ、飲んで」
「……わかった」
カエデちゃんがペットボトルの口を男の子の口に押しあてる。男の子がコクコク飲み始めた。
意識はある、水も飲める。熱中症として軽度ではあるけど油断はできないな。ちょっとポーションを飲ませるかな。
「智ちゃん、これも飲ませて」
「……ポーション?」
「少しは体力も戻るかなって」
「おっけー。彼女に飲ませてもらうわ」
智ちゃんがちょいちょいと彼女を呼んで耳打ちする。カエデちゃんは「ほぇ?」と不思議な声を上げたけど、智ちゃんが再度耳打ちすると何やら納得した顔に変わった。
ダミーとして飲料が入ってたペットボトルに入れ替えて飲ませた。赤かったケイタ君の顔がみるみる戻っていき、額の熱さも取れた感じだ。
ポーションスゲー。
「ケイタ、立てる?」
「おぅ、もう大丈夫だ」
ケイタ君がぴょんと跳ねるように立ち上がる。だいぶ元気だ。
「あの、ありがとうございました」
「ケイタを助けていただいてありがとうございます」
ケイタ君が気をつけの体勢からバッと頭を下げた。カエデちゃんも続く。礼儀正しい子たちだことで。
大丈夫だとは思うけど、心配ではあるな。まだまだ暑いし、たぶんこの後も遊ぶだろうし。
手で智ちゃんを呼んで小声で相談する。
「この子たちと一緒に回ってもいいかな。また熱中症になるような気がしてさ」
「……まぁ、守ならそう言うと思ったわよ」
「埋め合わせは必ず」
智ちゃんが呆れた顔をしたけど、ここで放置は危ないかなって。
「ちょっと提案なんだけど、俺たちもデートできててさ、一緒に回らないかい?」
「そうそう、偶然だけど知り合ったしね」
智ちゃんが合わせてくれる。そしてカエデちゃんに耳打ちした。外堀を埋めにかかったっぽい。味方を増やす作戦らしい。
「助けてくれたし、悪い人たちじゃなさそうだし……」
カエデちゃんが上目遣いでケイタくんに迫る。カエデちゃんは白いワンピースだけど中学生にしては胸元が大胆に開いてるデザインで、そうすると当然見えてくるものもあるわけで。
「しょ、しょーがーねーな」
ケイタ君は顔を赤らめて陥落した。男はちょろいのだ。




