9.海①
翌日も船橋で宿題の手伝いだ。面倒を見る子が4人も増えたが勝浦さんらは手伝えない。ツライ。
そのせいか、早朝の掃除には3人がやってきた。寺の墓地含めて念入りに掃除をしてくれたのでヨシ。いい子が過ぎるぞ。
昨日よりは早めに船橋について昨日の4人と合流だ。
「「「「おはようございます!」」」」
彼女たちはすでに待っていた。昨日は疲れ切った顔をしてたけど、今日は元気そうで安心した。生きていく上で気力は大事な要素だからね。
ダンジョンの1階とはいえ危険な場所に変わりはなく、気力体力十分でないとさ。
「おはようございます。準備は良さそうだね。どんな感じにするかはお任せするから話し合ってね。勝浦さんから録画するように言われてて撮影するからね。絡まれた時用の証拠も兼ねてるって。あと反省会するからみんな来なさいって小湊先生がオコだった」
鞄からビデオカメラを取り出して見せる。【仏の懐】は計画的なご利用を、なので。あまり大っぴらにはできないヤツ。
「え、私たちも行っていいんですか?」
骨折してたポニーテールの子、確か足立さんだったっけ。びっくりしてる。
「先輩としていろいろあるんじゃないかな。俺はその辺詳しくないから」
所詮寺の坊主なんでサーセン。
「じゃあ決めよっか」
「今日のリーダーは」
「佐倉しかいないでしょ」
「またあたしなの?」
「適任」
「だよねー」
7人のJKがわいわい打ち合わせをしている。これは、金庫に入れておきたいくらい、いいものだ。
なんとなくイヤな視線を感じるのは俺のみが男だからだろうなぁ。このハーレム野郎がとか思われてるかもだけど保護者枠だぜ?
「若い子を連れまわしてる不審者がいるって通報があってきてみればアンタかい」
「むむ、不審者とは心外ですね大多喜さん」
いつの間にか俺の横に大多喜さんがいていきなりdisられた。大多喜さんは本当に神出鬼没だ。
今日はカステラを丸々1本持ってかじってる。おやつなしでは生きていけないのだろうか。
「有望な若い子らに悪いことはしてないだろうねぇ?」
「善良な坊主ですよ、俺は。降りかかる火の粉を払ってるだけですし、この子たちの安全が第一です」
「ま、それならいいさ。レアなドロップ品が出るって噂になって、怪しいやつらが増えててね。気を付けるんだよ」
大多喜さんはポケットからチョコバーを取り出してムシャっとした。あ、新発売のやつだ。
「ありがとうございます」
それを言いに来てくれたのか。ありがたい。
船橋はヤカラが多いのかと思ったけど、そうではないのかな。遠回しにお前のせいだと言われた気がしたけど、儲かってるんだからWIN=WINでいいじゃない。
「おにーさんパーティ組むよー」
「ハイハイ今行く」
佐倉ちゃんに呼ばれたので輪になって手をつなぐ。「いくよー」と仕切るのは佐倉ちゃん。
「無事に家に帰るまでが宿題。ご安全に!」
「「「「「「ご安全に!」」」」」」
「あと増長しない!」
「「増長しない!」」
「よしいくぞ!」
「「「「「「おー!」」」」」」
わぁ、体育会系のノリだ。嫌いじゃないぞ。
四街道ちゃんと足立さんを先頭に隊列を組んでダンジョンを進む。俺は後ろから撮影だ。
「右前、ウサギ3匹」
「足立、四街道、品川で対応。柏はサポ」
「い、いくぞ!」「りょ」「うっし!」「ヨシ」
昨日の様にサーチアンドデストロイではなく、見つけたらパーティとして連携して動いてる。佐倉ちゃんはなるべくあの4人に回すように指示してるね。すごいよ。
あの4人は全員剣とか近接の武器を持っててパーティのバランスとしてはあまりよくはないけど、そこは仕方ないね。仲がいい子たちで組んでるだけなんだし。
「正面ゴブリン4」
「うっ」
「ひぃ」
「大丈夫、みんなでやれば怖くない。【幸歌】! 足立、渋谷、四街道、品川、太田横一列。あいつらに挟まれない様に!」
「わたしが引き付けるからその隙にやっちゃって」
「柏、サポよろ!」
「マカセトケ」
「うわぁぁぁ!」
「このぉぉ!」
昨日のトラウマか、4人の腰が引けてる。佐倉ちゃんが幸運バフかけて四街道ちゃんが囮になって何とかなってる感じだ。
でも、怖いよね。わかる。俺もまた武者に会ったら怖いと思う。
うちの子たちが優秀過ぎてお兄さんは鼻が高いよ。
「勝ったぁぁぁ」
「ふぇぇぇ」
「怪我は?」
「なんとか擦り傷」
「これくらいなら消毒だね」
「しみるー!」
「転んでくじいた」
「湿布はろう」
「休憩にしよっか」
「つかれたぁぁぁ」
くじいた子もいるからか休憩となった。またブルーシートを出して休憩だけど、大多喜さんからの警告もあるので【駆け込み寺】の中で休憩にする。修学旅行を思い出すな。
ちょっと目立つけど階段からは結構離れたからいいでしょ。安全第一安全第一。
「ふわぁ、お寺だぁ」
「これもスキルなんですか?」
「おにーさん、まーたチートだ。モテモテだねー」
「佐倉ちゃんが辛辣だ。おやつ抜きにしちゃうよ?」
「もういわない!」
「よろしい。おやつは各自好きな奴をとってね」
「佐倉のあれは甘えただよね」
「オニーサンに甘やかされテルカラネ」
「はぁぁぁココアが胃にしみるー」
「お茶が美味しい」
「さて、俺はちょっと周りを見てくるから」
「どこ行くの? もしかして花摘みー?」
「佐倉ちゃん、デリカシーさんを育んで?」
まったく。
今しがたね、塀に矢が撃ち込まれたんだよ。収納したけどさ。鉄の矢でえげつない感じ。
ビニール傘を広げて【駆け込み寺】の門から出る。もちろんカメラを持ってだけどね。常に収納を念じつつ歩いてるけど矢は飛んでこない。見られてるような感じはするんだけどド素人の俺の感覚じゃ気の間違いかもしれない。
「よくわからないものが突然出てきたから様子見で矢を打ち込んだ可能性も、なくはないか」
様子見で矢とか粗暴すぎるけどね。
休憩が終わったら宿題の続行だ。ゴブリンと遭遇したり角ウサギでドロップ品の角が出た騒いだりしたけど無事に地上に戻れた。
「はー、もどってこれたぁ」
「安心すると一気に疲れるねー」
みんな「うーん」と伸びをしてる。顔にはやり切った満足感もある。うんうん、いいねぇ。
「おにーさん、みんなをやらしい目で見ないでよ。胸とか」
「最近の佐倉ちゃんが辛辣な件。おにーさんは仏様のような心で後方師匠面してるだけだよ?」
「どうだかねー」
俺がイヤらしい視線を投げているのは勝浦さんだけです。いまのところ。
「お腹すいたねー」
「上で食べてくー?」
「いーねー」
育ち盛りの腹ペコ娘たちはレストラン街で昼ご飯にするようだ。女子だけの話もあるだろうし、俺は適当にラーメンでも食うかな。
佐倉らハンターの雛たちはギルド上階にあるイタリアンに入っていた。ギルドがあるビルは駅前であり、複合施設になっている。当然レストラン街もある。もちろんお値打ち価格だ。
「7人で入れてよかったねー」
「はー疲れたぁぁ」
「おなかすいた」
「太田はそればっかりだね」
「あれだけ動けばおなかも空くって」
「はぁぁぁ、やっぱゴブリンは怖いよ」
「レベルが上がればそうじゃなくなるから」
「先に注文しちゃおーよー」
「タブレットとってー」
「ドリンクバー7つとケーキセット7つ」
「私そんなにお金持ってきてないよぉ」
「ヤキモチ焼き佐倉がおごるって」
「なにそれ、ヤキモチなんて焼いてないじゃん!」
「おにーさんに対するあれこれをヤキモチではないと申すか?」
「あれはー、その、なんか視線がやらしいからよ!」
「それって、おにーさんが自分じゃなくて私たちを見てるのが嫌なだけでしょー?」
「昨日のチャットの話聞いてれば、佐倉のおにーさん大好きがばればれなんよ」
「あれだけされてて惚れない理由がない」
「ちょちょちょっと!」
「そら美浦なんて眼中にも入らんて」
「雑魚スギ」
「おにーさん、純粋すぎて気が付いてないのがまた」
「ギャラリー的にはすっごく美味しい!」
「それな」
「トモっち、あきらめてミトメロ」
「そーよ。おにーさんがニブチンのは見ててよくわかるからね」
「うーうーうーうー」
「相手があの先輩たちなんだから、アタックしてまず視界に入らないと」
「今のところ妹ポジだもんね」
「佐倉のことはかわいいと思ってるけど身内に対してのっぽいし」
「先輩たちに喧嘩売るくらいじゃないと」
「パイセン推しのアーシとしては複雑だけど、恋は勝ったものが勝ツ!」
「応援するからさー」
「あーーーもぅ! とりあえずドリンクバー!」




