7.レベルアップ確認などいろいろ、あと温泉③
翌朝。さすがに疲れて起きてこなかった佐倉ちゃんはそのまま寝かせるとしても俺には墓地の掃除がある。寺の墓地をざっと掃除してダンジョンに入る。昨日と違って空気におかしなところはなさそうだ。
1階にはゴブリン骨がいた。こいつらはどこから来るんだろうか。
2階にはホブゴブ骨がいた。こいつらもどこから来るんだろうか。
3階には熊と狼の骨がいる。お互いを攻撃しあってるもの、いつもと同じだ。
4階には――。
「見ると安心するな、ワイト君は」
俺の魔法書の補給源だ。稼ぎの大半はこいつまである。
ファイヤーボールもだいぶ使っちゃったし、今日は俺ひとりなのでぎりぎりまで搾り取ってやる。
いつもより長めにダンジョンにいたからか、入り口に小湊先生が待っていた。
「すみません、お腹すきましたよね」
「違う」
ほっぺをむにゅとつままれた。デリカシーがなかったかもしれない。小湊先生に手を引かれて連行された。母屋に戻ったら腹ペコ娘たちがちゃぶ台に突っ伏してるじゃないのさ。
「ごめん! 急いで作るから!」
急いで朝食の用意をした
食事後、予備のテーブルを足したちゃぶ台に3JKと勝浦さん小湊先生が並んでいる。
「はい、課題は午前中に、最悪でも下書きまではすること。でないと、温泉には連れていきません、お留守番ねー」
「がんばります!」
「ヤッタルゼ!」
「ちゃちゃっとやっちゃおー!」
勝浦さんと小湊先生の監視と指導の下、学生は課題に取り掛かっている。いまどきの高校生の課題作成はノートPCだ。俺の時はギリ手書きだった。いいんだか悪いんだか、判断つかない。
俺はこの隙に買い物だ。肉が足りない。女子とはいえ育ちざかりは食べる。俺もだけどさ。
食費に余裕がある分は肉に費やすのだ。肉はすべてを解決する。
軽トラを走らせスーパーやらホームセンターやらをはしごする。さすがに投げ網は売ってないから予備含めて通販で頼んである。金剛杖も折れちゃったから、その代わりとして鉄パイプを買い込んだ。接続部品は買わないの?って顔されたけど、すみません硬い棒が欲しいだけなんで。
軽トラには積みきれない量を買ってるはずなんだけどある程度は収納に入れちゃってるから楽ちんだ。
帰宅したら、まだ課題をやっていた。時刻は11時ちょいすぎ。今日は昼ご飯を外で食うのでそろそろまとめに入ってほしいんだけど。
「よし、できた! 下書きだけど!」
「フハハ! オワタ! ドウスカパイセン!」
「ハンターとしての強みはもう少し書いてもよい」
「イエスマム!」
「うん、四街道はおっけーね」
「やったぁ!」
なんとかなりそうだ。
佐倉ちゃんだけは下書きまでだったけど終わらせたので約束通り温泉である。九十九里の白子にはヨード泉が沸いてて、日帰り温泉施設もある。温泉というかスパなので湯あみ着をきて入るタイプだ。なので混浴もある。決めたのは俺ではなく勝浦さんだが。
車で行くのだけど、あるのはうちの軽トラと勝浦さんのかわいい軽だけ。行くのは6人で軽トラは俺が運転する。3JKは勝浦さんの車に乗っていくことが決定しているのだけど、軽トラに乗るのを決めるための争いが始まった。
「瀬奈先輩の車なので、運転も瀬奈先輩がするべき」
「あら、こみなっちゃんも運転するじゃないー」
「むむむ」
どっちが軽トラに乗るかを争っていた。軽トラは禁酒ですよ?
激闘の末、行きは小湊先生が、帰りは勝浦さんが乗ることに決定した。ナビなど不要なので俺が先導する。海岸の有料道路を突っ走る。
気温は30度近い。軽トラのエアコンは貧弱なのでハンディファンは必須だ。
外気よりはまし、という状況のなか、小湊先生はシートにちょこんと座っている。可愛い。
「もうすっかり夏ですねぇ」
「海が近いから風もあるし、船橋よりぜんぜん過ごしやすい」
という小湊先生だが額には汗が見える。今日の先生はTシャツにキュロットというかわいらしい格好だ。真っ白なおみ足を拝見できてなんという眼福。わき見運転したい。
俺? いつもの作務衣だよ。
勝浦は前を走る守の軽トラを追いかけつつ、同乗している後輩たちの質問に受け答えしていた。
「勝浦先輩はおにーさんのどこがいいんですか? おにーさんイケメンでもないし」
後部座席に座っている佐倉が問う。この場は女子だけなので遠慮はない。
「そーねー、いいなあとは思うけど、まだそこまでねー」
「そこまでなのにあの格好で添い寝もしちゃうんですかー?」
「私の場合はほら、慣れてるのもあるけどー。あの時は守くんが倒れちゃって、こみなっちゃんがおろおろしてパニくってたからねー」
「パイセンはガチ恋の顔してる」
「さすが、柏はこみなっちゃんを見てるからわかるかー」
「船橋にいた時はたまにストーキングしてた」
「あらあら、やりすぎはだめよー」
勝浦が苦笑する。慕われているのはいいが、節度は求めたい。
「おにーさんのどこがいいんだかあたしにはわかんないなー。まぁ時たまカッコいいとは思うけど」
「守くんはねー、今まで見てきたハンターとはそもそも違うからねー。ハンターになる男って大体お金を稼ぎたいかモテたいかのどっちかが多くってねー」
「あー、クラスの男子を見てるとわかる」
「ウザイ」
「強い俺を見ろよ!ってオーラが半端ないね」
「こみなっちゃんは高校の時からモテてたんだけど、そんな男しか寄ってこなかったのよねー」
「おにーさん草食系だからかー」
「うーん、それよりもハンターとしてのスタンスが違うからかしらねー。守くんは寺とか幼稚園とかご近所が魔物の被害を受けないようにするためにダンジョンで魔物を倒してるのよー。それに好きでハンターになったわけじゃないしねー。墓地にダンジョンができなかったらそのまま大学卒業して寺を継いでたんじゃないかなー」
「あれ、おにーさん大学に行ってるの? ずっと寺にいるけど」
「守くんはねー、墓地ダンジョンから手が離せないからって大学を辞めちゃってるのよー」
「えぇぇ、もったいない……」
大学への進学する道はとうに閉ざされていた佐倉にとって、うらやましく信じられないものだった。
「そのあたりがこみなっちゃんの母性をくすぐっちゃったんじゃないかなーって予想してるー」
「パイセンは面倒見がいい」
「それねー。守くんが無茶するのが心配でしょうがないのよー。さっきも強情だったけど、ちょっと前のこみなっちゃんだったら『順番にしましょう』って納めちゃってるわねー」
「変わっていくパイセン。それもイイ!」
「ヨーコはそれでいいの?」
「アーシは、推しの幸せは祝う勢。パイセンが幸せならそれがベスト!」
満面の笑みで力強いサムズアップをする柏。鍛え上げぬかれしファンである。
「他に守くん以上の男がいなきゃ、正妻はこみなっちゃんに譲るけど、側室に手を挙げちゃうかなー。守くんって行動がカッコいいし、稼ぎは半端じゃないし」
「リアルハーレムキタ」
「かかか勝浦先輩もですか」
「あはは、船橋でも強いハンターは女の子を囲ってたりするのよー。もちろんその逆もねー」
「うぇー、わたしはそんなのには近寄りたくないです」
「パイセンがガチ恋するならアーシもガチ恋したい。なお相手ナシ」
「あたしも彼氏は欲しいけどクラスの男子はないわー。普通の男子がいいあぁ」
「こみなっちゃんもそんな気持ちなのよー」
「なるほど、ちょっと理解できました」
「そろそろつくみたいね」
女子のみの姦しい車は日帰り入浴施設の駐車場に滑り込んだ。




