6 武者幽鬼⑥
「みんな覚えた?」
「読める、読める! 魔法キター!」
「うわ、魔法覚えちゃった……」
「えっと、クールタイムが5分か……」
「わたしもオッケーよー」
背後ではどうやら覚え終わったようだ。
『グォォォォォォ!!』
武者幽鬼が刀をこちらに向け吠えた。足軽亡者が陣を組んだまま刀を手に進軍を開始した。このままだとやられると判断したっぽい。
「柏、魔法で指揮官を狙撃」
「ファ!? イキナリスギマスマム!」
「やればできる! ご褒美はギュー」
「ウォォォ!! ヤッテヤンヨ!!」
俺の背後で柏ちゃんが大騒ぎだ。でもスナイプ可能ならそれはそれでやりようはある。
「みなでファイヤーボールの乱打。柏は武者幽鬼が闘刃を放ったタイミングで階段から狙撃」
小湊先生から命令が飛ぶ。先生から参謀にクラスチェンジだ。
「オッケー」
「イエスマム!」
「「はい!」」
「待ってても無駄なのが分かれば魔物は攻めてくるはず。近接戦闘用意」
「よし、【祈り】で成仏させてやる!」
「四街道ー、魔物が迫て来ても焦らないでカースをかけて動きを抑えるのよー」
「どどど努力します!」
「しくじったら死んじゃうわよー」
「イヤァァ死にたくない!」
緊張感があるんだかないんだか。かくいう俺は、ちょっと楽しくなってる。炎を見すぎたかもしれない。火の揺らめきは本能を刺激するんだ。
柏ちゃんが階段を上りクロスボウを構えた。
「いま、撃て!」
半分に到達する前に小湊参謀の檄が飛ぶ。近いとこっちにも爆発の余波が来るんだよ。
「うわぁぁぁぁ!」
「いっけー!」
俺の取り出した分を含め14発のファイヤーボールが一斉に発射される。武者幽鬼の闘刃に迎撃されたが、こっそり収納してあった大闘刃も混ぜてやった。
30メートル先でドドドドと爆発し、その爆風を大闘刃が押し切る。
爆風で俺の体が押される。花火の直下くらいの爆発音で耳もおかしくなりそうだ。
爆炎の中に武者の兜が見えた。
「イケェ!」
柏ちゃんの叫びが聞こえた。ファイヤーボールが一直線に向かう。ドンと新しい爆炎が起こる。
「まだ、まだ視える!」
小湊参謀が叫んだ。ファイヤーボールじゃ仕留められなかったか。
「レベルが上がった! スキル覚えた! 『祈り上級!』」
そんな中、佐倉ちゃんの叫び声か聞こえた。
祈り上級! うちの最終兵器がさらなる暴力を手に入れた!
これならいける!
爆炎が消える前に投げ網をぶち込む。何が当たったか知らないけど、当たったものはすべて収納する。
【収納:足軽亡者×5】
【収納:恨みの刃×5】
爆炎が晴れた通路には、武者幽鬼が迫っていた。もう15メートルもない。ダメージはあるだろうけど、致命傷じゃない。
足軽亡者の数も半減してて、20体もいない。押し切る!
「カース!」
勝浦さんの声が聞こえた。続けて佐倉ちゃんと小湊参謀が続いた。少し遅れて四街道ちゃんもだ。
足軽亡者の動きが目に見えて遅くなる。今までがブレイキン選手並みの動きだとしたら今はフラダンスだ。
「ゥラァァ!」
勝浦さんが足軽亡者に回し蹴りを食らわせた。その勢いのまま地に手を付け倒立。開脚したまま回転。体を曲げて右足を地面につけ、そのまま回し蹴りと止まらずに蹴り攻撃をし続ける。
一撃では倒せないけど、3回も蹴ると足軽亡者が崩れ落ちる。
「【強打】!」
小湊参謀のそばでは四街道ちゃんが警棒で戦ってる。小湊参謀を守りながら、カースで鈍くなってる足軽亡者をぶん殴ってる。
「【大いなる祈り】!」
うちの最終兵器は新しいスキルで無双してた。ひとりで数体の足軽亡者を成仏させてる。
柏ちゃんは階段上にいたままクロスボウで援護してるし、なら俺の相手はボスだな。
金剛杖を振り回して足軽亡者を収納しながら武者幽鬼に突進する。武者幽鬼も八双に刀を構えて待ち受けてる。迫力で体がびりびりするぜ。
でも、俺はまっとうにやる腕もないんでズルさせてもらう。
収納からマッスルポーションを取り出して一気飲みする。ドクンと心臓が跳ねた。体中が一気に熱くなる。
「あああああああ!!」
口から咆哮が飛び出た。力が漲る。満ちていく万能感。もう目の前の魔物をぶっ倒すことしか考えられない。
武者幽鬼をかばうためか足軽亡者が飛びだしてくる。
金剛杖で薙いだ。
収納せずに粉砕した。
金剛杖が折れた。
武者の闘刃が迫る。
なまくらの剣をぶち当てた。
なまくらは折れたが闘刃はいただいた。
【収納:闘刃×2】
なまくらの剣を振り回して武者幽鬼の傍にいる足軽亡者を切りつける。マッスルポーションでドーピングした俺の速度にはついてこれず、真っ二つにした。
返す刀で闘刃を武者幽鬼にお返しする。
刀で弾かれた。ド素人じゃどうにもならん。
「使えるもんは全部使う!」
なまくらな剣を2本取り出し両手に持つ。マッスルな今の俺にとって剣の重さなんてへでもない。
木の枝のように振り回して武者に切りかかる。
俺に触れるとまずいのは理解しているのか、武者は逃げの一手だ。
汚い俺は「勝てばよかろう」なんだよ。
ボロボロになってしまった投げ網を武者に放り投げる。武者は刀を薙いで闘刃を出して網を斬るが、残念、俺の狙いは刀を振り切った瞬間の隙だ。
「わりいな」
力の限りで突き刺したなまくらの剣が、武者の胴に吸い込まれる。と同時に収納した。
【収納:武者幽鬼『長篠零士』】
【収納:妖刀『羅刹』×1】
【収納:スキル書『闘刃』×1】
【収納:スキル書『大闘刃』×1】
【収納:スキル書『侍大将』×1】
なんだこれ、人の名前か?
「これでおしまい! 【大いなる祈り】!」
佐倉ちゃんの声がするあたりが激しく光った。
周囲を見渡すが、立っている足軽亡者はない。
「こいつまだ動いてる!」
「やぁぁぁぁ!!」
倒れているやつも勝浦さんと四街道ちゃんがとどめをさして回ってる。
みんなどこかしら傷があって、勝浦さんなんてスカートがびりびりに破けてて青いパンツが丸見えだ。
「っと、ポーションだ」
人数分のポーションを取り出したら「生きてる、勝ったぁぁ」という佐倉ちゃんの雄たけびが聞こえた。
柏ちゃんは「コワカッタヨー!」と大泣きしながら小湊先生に抱き着いてる。四街道ちゃん砂まみれの顔ではへたり込んじゃって、勝浦さんにイイコイイコされてる。
怖かったよな。俺も怖かったよ。
全員にポーションを渡して傷を治し、3階を見て骨がいないことを確認して、ダンジョンを出た。もう動く気力はなかった。
「戻って来れた……」
母屋に戻ったところで、生きた心地がしたら急に眠気が来た。マッスルポーションの効果が切れたっぽい。
「あ、やべえ」
朦朧として意識が混濁して、寝た。




