6 武者幽鬼①
佐倉が獄楽寺に居候に来てから2週間ほどたち、7月に入っていた。季節はすでに夏で、海が近い九十九里でも暑い日が続いていた。
すでに夏バテ気味な佐倉だがちゃんと学校へは行っている。
佐倉は、放課後の学校の教室でいつもの友人と駄弁っていた。一緒にハンター講習を受けた柏 葉子と四街道 美奈子だ。
「智、葉子、もう過ぐ期末考査だよ」
「だねー。どんな課題なんだか」
「メンドー」
「去年の課題はやっぱりダンジョン関係だったみたい」
「ほー、そりゃ楽しみじゃん」
「オケマル、アガルー」
話題提供をするのが四街道で茶髪ロング、言葉が少ないのが柏で金髪刈上げショートだ。
佐倉らはハンターコースなので部活には入っていない。ハンターは常人以上の身体能力を持つようになるので体育会系の部活には入れない。だからと言って文化系に興味がない佐倉は帰宅部である。
「そういえばさー、智って新しくできたダンジョンに入ってるんでしょ?」
「うん、仕事だからね。つってもほとんどはおにーさんがやっちゃうんだけど」
「オニーサン、てあの時の? 襲われネ?」
「逆なんだよねー。おにーさんてすごい稼ぐから勝浦先輩と小湊先輩に狙われてて逃げ回ってるし。そのうち逆レされそう」
「羨まシーゾ」
「あそこって墓地ダンジョンって聞いたけど、そんなに稼げるの?」
「おにーさんのスキルが規格外でさ、まじチート。生きるチート。ずるい」
「マジ? 見てミテー」
「気になるねー」
「じゃー、葉子と美奈も来る?」
「いくいく!」
「モチ!」
という会話がなされたことは、守は知らない。
「さーて夕飯の支度をするかなー」
今日も陽が暮れる。7月に入って陽も長くなって、夕飯時でもまだ明るい。
じゃがいもにんじんたまねぎひよこ豆、と豚バラ肉。今日の食材だ。ジャガイモの皮むきから始める。
「守君、今日の夕食はなに?」
今日の受付当番だった小湊先生が背後に立っていた。今朝はダンジョンの骨が多く、また久しぶりにオーガ骨が出た関係でポーションもゲットしたために売り上げが爆増し機嫌がいい。
なんでも獄楽寺と船橋ギルドの売り上げが拮抗するレベルらしい。まぁ一日で数千万も稼げばそうなるわな。
「今日はカレーです。冷蔵庫の奥で賞味期限が迫ってるカレールゥを発見してしまいました」
「カレー! 守君のカレーは優しいから好き」
「調理中に抱き着かないでと何度も言ってると思います!」
「大丈夫、傷物になったら責任を取ってもらう」
「あえての危険行為は禁止でーす」
佐倉ちゃんが居候に来てから2週間くらいたって生活も落ち着いてきてから、勝浦さんと小湊さんのスキンシップが激しくなった。俺が何かをしていて動けないタイミングで仕掛けてくる周到さだ。正直、身の危険を感じてる。近い将来、襲われる恐れすらある。
「あー、抜け駆け禁止ー!」
船橋へ魔石の輸送をしてきた勝浦さんが帰ってきたようだ。トトトと足音がして、横から抱き着かれた。
「瀬名先輩、横からは違反」
「だってー背中が空いてないんだもーん」
「もーん、じゃないですよ勝浦さん! 腕は危ないからダメですってば!」
「こみなっちゃんが離れたらわたしも離れるわよー」
腕に押し付けられるおっぱいがスライムで極楽なんだけど勝浦さんは自分の体を武器にするのに躊躇しなくてヤバい。リアルハンターで俺は狩られそうになってる。こんな感じで一抹の危険を感じつつもいつもと変わらずの生活を送っている。
早朝に墓地とダンジョンの掃除、幼稚園の手伝いと家事。なにやかんやで時間は過ぎていく。
ダンジョンは4階でとどめている。先を急がなくてもいいことと、長くダンジョンにいる時間がとりにくいこともあった。でも、毎日ワイトから追い剥ぐっているので魔法と魔法書の在庫は増えている。
魔法書は売らずにいる。これを流しちゃうと利よりも害が大きい気がして。悪さに使われたらいやじゃん?
しかししかし、俺の資産は増えていく一方だ。魔法書を売ればすでに1億は越えてるはず。母屋の修繕もできるし、幼稚園の改修もできそうだ。信用金庫からもお話合いの打診は来てる。どうせ投資に回しませんかって話だろうから減らなければいいですよって返事はした。
俺に投資のセンスはないのだ、はっはっは!
スタンピードもたくさんあって、俺のレベルが14、佐倉ちゃんがレベル9になっていた。今度レベルが上がれば新たにスキルを覚える予定だ。
順調そうに思える時こそ落とし穴が待ってる。気は抜けない。そう、今みたいに。
「なので、離れてくださーい」
雑念を払しょくして調理するのだ。こんな時こそ読経である。南無阿弥陀仏。
そして来る夕食時。テーブルを囲うのは5人。もうこの景色も慣れた。
「わ、カレーだ! おいしそー!」
佐倉ちゃんも大好きカレーです。日本人による日本人のためのカレーだもの。おいしいに決まってる。
「「「「「いただきます」」」」」
当寺においていただきますは絶対である。できない者に仏様の慈悲はない。
「心安らぐカレーの味。自画自賛でもうまいぜ」
おかわりはセルフ。俺も食べることに専念できる。
「あ、おじさーん、相談があるんだけど」
「ふむ、どんな内容かの」
佐倉ちゃんがスプーンを持つ手をあげると、父さんが訊ねる。うちの総責任者だからね。
「学校の友達がダンジョンを見たいっていうのと、あと期末考査でダンジョン関係の課題が出そうだから、出たらうちのダンジョンでやりたいです!」
「期末考査でダンジョン。なるほど、ハンターコースらしい課題だね。とすると」
父さんが勝浦さんと小湊さんに視線を送る。で、最後に俺で止まった。
「市船3年のこの時期の期末考査は、確かにダンジョン関係ねー」
「例年、『自分のスキルとダンジョン』って課題だったはず」
「それねー。毎年船橋ダンジョンに学生が押し寄せるのよねー」
ほうほう、さすがはハンターコースってとこか。スキルを得ていることが前提で、実践的だな。
「あたしの場合はここでしかスキルの能力を発揮できないからここを課題にするんだけど、じゃあ友達も一緒にやるかって話になって」
「佐倉ちゃん、もしかして講習の時のふたりだったり?」
「うん、そうそう! おにーさん察しがいい!」
当たりだった。茶髪と金髪の子だな。
「守、どうだ?」
「ふたりが戦闘系のスキルを得てるんなら問題ないと思うよ。そもそも対アンデッド最終兵器の佐倉ちゃんがいるんだし、万が一怪我をしてもポーションの在庫はたくさんあるから」
「なんであたしが最終兵器なのー?」
「だってチートすぎるじゃん」
「おにーさんのほうがよっぽどチートじゃん!」
動く成仏装置たる佐倉ちゃんが憤慨してる。憤慨したいのはこっちじゃい。という感じで話はまとまり、課題の提示と日取りを決めるだけとなった。




