5.佐倉という少女③
「佐倉ちゃん、スキルを使ったら疲れたとかなーい?」
勝浦さんがフォローする。スキルはそれぞれ特性が違うんだ。1回使うだけでヘロヘロになる回復魔法とかあるらしいし。へへん、俺は疲れ知らずだぜ。
「使ったのも1回だけだし疲れてはいないですけど、頭の中に次に使えるまでの時間が出ました」
「クールタイムねー。どれくらいだったー?」
「10秒です!」
「あらあらー10秒だと連発できちゃうわねー」
ちらちらと俺を見てくる勝浦さん。何のアピールですか?
まぁいいか。俺も気になった点を挙げよう。
「いまはゴブリン骨1体だったけど、同時に何体いけるのかとか」
「スキルの効果範囲ねー。検証したいけどー、骨の集団でもいればねー」
勝浦さんが人差し指であごをいじいじしてる。そして俺を見てくる。可愛いです。おねだりですか?
「2階に行ってみます? 朝掃除をしてるから複数いるかは不明ですけど」
「鉄は熱いうちに打てっていうしー、いっちゃおー!」
そううことになった。
2階にはホブゴブ骨が複数いたのでカースを使って鈍くさせたうえで投げ網にひっかけて一か所に集め、スキルの効果範囲を測定した。結果持続時間10秒、効果半径3メートルという割と化け物性能が発覚した。
面積にすると約28平米。1平米に骨2体を詰め込んだとしたら56体の骨を成仏させることが可能だ。最大数ではあるけど、これは魅力だ。そうでなくとも、ダンジョンの階段上で待ち構えていれば殲滅できる。
チートじゃねえかよ!
検証は続いて、3階の熊と狼、なんと4階のワイトも成仏させてしまった。熊とかの攻撃は俺が防いでたし、ワイトの魔法も俺が収納したりして安全地帯からのスキルではあったけど。それでもだよ。アンデッドに対して無敵すぎる。
そしてワイトと騎士骨を成仏させたときにレベルが5になった。
「わ、レベルが5に上がった! 【幸歌】ってスキルもゲットー!」
嬉しそうに手をたたく佐倉ちゃん。うんうん、さっき大泣きしてた子とは思えない笑顔だ。ホッとするよ。
でも1日でレベル5って、早すぎない?
ダンジョンとの相性がいいってのはあるけど、すげーと思う。
「すごーい! もうレベル5なの!?」
勝浦さんも嬉しそうだ。うんうん、美人さんの笑顔は見ているだけでもいいね。美人さんに限らないけどさ、笑顔はなんかほっとするんだよ。
「【幸歌】スキルってどんなスキルなんだろ」
「【幸歌】はあまり聞かないけど、仲間の幸運度を上げるスキルねー。たまたま躓く前に気が付いたり、たまたま敵の攻撃が外れたり、たまたま買ったアイスが当たりだったり、小さいけどラッキーなことが起こるのよー。」
「うーん、ちょっと地味かも?」
「でも、ダンジョンではそのちょっとの幸運で命が助かったりするのよー?」
勝浦さんは重要性を教えこむ。運も実力のうちというけど、実力があっても運がなくって機会に恵まれないってことはたくさんあるはずで。小さいけど幸運を呼び込めるのはガチ神の御業ぞ?
「うちのダンジョン専属ハンターの契約を結びたいレベル。お給金は弾むのでぜひお願いしたい」
「お兄さんってよく見たらあの講習にいた人? さっき魔法を使ったように見えたけど、ガチ魔法? どうなのどうなの?」
おっと、いまさら気がつかれた。
にしても。やたら魔法に食いついてくるなこの子。
「これは俺のスキルの特性でね。でも、あの魔法の魔法書もあるよ? 専属契約してくれれば譲渡するよ?」
いけそうなので揺さぶってみた。勝浦さんが何か言いたそうだけど、あの魔法書の持ち主は俺だし、追加でゲットできるのも俺しかいない。
「勝浦さん、ハンターと契約する場合の標準的なお金ってどれくらいか知ってます?」
「船橋基準でよければだけど、ランクにもよるけど年額で600万が最低ラインねー。魔物の強さととかダンジョンの階数とかで増えてくから実際は青天井ね」
最低でも600万円からか。でも払えない金額じゃない。
「佐倉ちゃんは未成年だしまだ高校生だから親御さんの許可が必要よー?」
「親御さんの許可か。そりゃそうか、高校生だもんね」
親の許可という話題になると、佐倉ちゃんの表情が暗くなってしまった。地雷でも踏んだか。
「親の許可は、難しいかな……」
消え入りそうな声だ。大きな荷物といい、ここまで来た理由も聞いてないけど、家庭での問題がありそうな予感がする。
「込み入った話は上でしましょうねー! 悪いようにはしないから、佐倉ちゃんの話をおねーさんに聞かせてー?」




